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裁判例検討(パワーハラスメント)
今回取り上げるのは、宇都宮地裁令和2年10月21日判決(LEX/DB 25567227)です。
本件は、原告であるバス運転者が、上司及び会社に対して提起した損害賠償請求訴訟です。
裁判では、原告の乗客への不適切な言動を契機として、原告に対して行われた指導・指示が、退職強要、人格否定、過少な要求というパワーハラスメントに当たるかどうか等が争点となりました。
以下では、争点ごとに検討していきます。
(1)退職強要
本判決では、次のような審査基準を設定しました。
「退職勧奨は、その態様が、これに応じるか否かに関する労働者の自由な意思決定を促す行為として許される限度を逸脱し、その自由な意思決定を困難とするものである場合は、違法となる。」
その上で、発言者の職務上の地位、発言内容(例:会社には向いていない、二度とバスには乗せない、会社にはいらない、他の会社へ行け、退職願を書け)、発言の態様(複数の上司から原告1人に対して、連続して1時間)、原告の精神的不安定(うつ状態と診断)等が総合考慮され、違法な退職強要と判断されました。
(2)人格否定
本判決では、次のような審査基準を設定しました。
「侮蔑的表現が、職責、上司と労働者との関係、指導の必要性、具体的状況、言辞の内容・態様、頻度等に照らして、社会通念上許容される業務上の指導を超えて、過重な心理的負担を与えたと言える場合には、違法となる。」
その上で、一部の発言(チンピラ、雑魚)が、過剰な心理的負担を与えるものとして、違法と判断されました。
(3)過少な要求
本判決では、次のような審査基準を設定しました。
「会社・上司からの指示が、社会通念上許容される指示・指導を超えて、過重な心理的負担を与えたと言える場合には、違法となる。」
その上で、乗車業務から外し、同種の本の読書と文書(反省文・感想文)の作成を1カ月以上続けたこと、それら作業のない時間は何もせず着座させるのみだったこと等の指示・指導が、過剰な心理的負担を与えるものとして、違法と判断されました。
これら(1)~(3)は違法な不法行為であり、これらによって原告がうつ状態になったとして、慰謝料60万円が認定されました。
一連の諸行為を不法行為と判断したことは評価できますが、行為の期間・悪質性に鑑みると、賠償としてはもう少し高額でもよかったのではないかと個人的に思います。