裁判例検討(心的要因によって発生した症状)

交通事故によって発症する症状は,衝撃による筋肉・神経・骨の損傷といった身体的要因に基づくものが多いと思われます。
ストレス等の心的要因によって症状が発生することもありますが,身体的要因によるものと比べて数が少ないこともあって,事故との関連性を否定されたり,何割か減額(いわゆる素因減額)されたりすることが見受けられます。

心的要因は,レントゲン・MRI等の画像検査で検出されることもなく,立証面でも苦しいところがあります。

とはいえ,心的要因による症状が,減額なく認定される事例もあります。
名古屋地判平成21年2月27日(自保ジャーナル1797号17頁)における被害者は,左手母指の症状(内転位のままとなってしまい,自由に動かせない)が問題とされました。
医師は,精神的に強いストレスが続いたことが原因として発症したものと診断しています。
また,自賠責保険では,後遺障害非該当と判断されています。
これについて,判決では,事故との相当因果関係を認めた上で,次のような理由で素因減額を適用しないと判断しました。
① 人間が精神と身体から成る以上,事故のために心的要因による症状にり患したりすること自体は別段異常なこととは言えない。
② 心的要因が損害発生に寄与しているとしても,常に素因減額を適用するのは相当でなく,例えば通常人と異なる被害者の特異な性格によって損害発生ないし拡大を生じたなど,通常の場合を超えるような心的要因の特別の寄与がある場合に限り,適用可能と解すべき。
③ 本件の被害者に前記②にあたるような事情は,証拠上認められない。

本裁判例は,下級審における一事例にすぎませんが,事故で苦しむ被害者の実態への理解が感じられ,参考にすべきと思われます。

診療報酬の不正請求

三重大学医学部附属病院にて,複数の医師が診療録(カルテ)を改ざんし,診療報酬約2800万円を不正に請求したとのニュースが報道されました。

地元の基幹病院でありますし,衝撃は大きいです。
今後の推移を見守りたいと思います。

ところで,三重大学医学部附属病院に所属する医師となると,年次や地位に基づく相応の給料が病院から支払われると思われます。
個人医院の院長ならともかく,このような大学病院に勤務する医師が,高額の診療報酬を得たところで,給与が即増えるとは思われません。
何とも,動機が気になるところです。
不正請求分が,大学病院の口座を通さず,自身の口座に振り込まれるような仕組みを構築していたのですかね?

仮に不正請求が事実として認められれば,詐欺罪(刑法246条1項)に該当することになるでしょう。
もっとも,詐欺によって獲得した金員を全額弁済できれば,軽微な処分に止まるはずです。
2800万円は大金ですが,医師という高収入の仕事で,かつ,複数人となれば,あながち不可能とも思われません。

加えて,刑事処分の推移を踏まえて,厚生労働省が所管する医道審議会にかけられることになるでしょう。
この場合,3年以下の医業停止や医師免許の取消しがなされる可能性があります(医師法7条1項)。
医師にとっては,こちらの方が死活問題なのかもしれません。

不定期刑

三重県四日市市内の市道において,19歳の少年が,女子高生(当時15歳)を自動車でひき逃げし,その受傷が原因で死亡させた事件につき,津地方裁判所四日市支部は懲役1年6月~2年6月の実刑処分とする判決を言い渡しました。

19歳以下の少年については,家庭裁判所における保護処分が言い渡されることが通例ですが,本件では結果の重大性の行為態様の悪質性,証拠隠滅を図る等の情状の悪さが考慮されて,逆送され(少年法20条1項),懲役刑かつ実刑となった模様です。

前述のとおり不定期の刑となっていますが,これは少年法52条1項が次のとおり規定しているからです。
「少年に対して有期の懲役又は禁錮をもつて処断すべきときは,処断すべき刑の範囲内において,長期を定めるとともに,長期の二分の一(長期が十年を下回るときは、長期から五年を減じた期間。次項において同じ。)を下回らない範囲内において短期を定めて,これを言い渡す。この場合において,長期は十五年,短期は十年を超えることはできない。」

なお,犯人が自らの犯行の証拠を隠滅すること自体は,刑法犯には問われません(当該犯行における刑罰の量刑には影響しますが)。
刑法104条は,「他人の刑事事件に関する証拠」と冒頭で明記しています。

不同意堕胎致傷罪

妊娠した女性の同意を得ないまま堕胎させたとして,外科医が逮捕されるというショッキングなニュースを目にしました。

ここで被疑事実となっているのが,不同意堕胎致傷罪というあまり見聞きしない罪名です。
この機に調べてみたいと思います。

刑法215条1項は,女子の嘱託・承諾を得ずに堕胎させた場合,6月以上7年以下の懲役に処すと規定します。
嘱託・同意を得ない堕胎行為は,胎児・女子の生命・身体を侵害する行為として違法性が高いことから,重い罪となっています。

さらに。刑法216条は,前条の行為によって女子を死傷させた場合は,傷害の罪と比較して重い刑に処すと規定します。
具体的には,傷害罪(刑法204条)と比較し,上限・下限とも重い方で処断するということであり,不同意堕胎致傷罪については6月以上15年以下の懲役に処せられることになります。

執行猶予は懲役3年以下でないとつかないこと,女性側の処罰感情はおそらく峻厳であること,医師という高度な職責を担う立場であり,社会的影響も大きいこと等を考慮すると,実刑の可能性が高いと思われます。

弁護士法人心千葉法律事務所

タイトルの事務所が,この度,開所となりました。

所属弁護士・事務員一同,充実した法的サービスの提供に向けて,一層努力してまいりますので,どうぞよろしくお願いいたします。

私個人としては,千葉県は通過したことはあっても,降りたことはないように記憶しています。

これまでの関わりというと,小学生の頃,夏休みにディズニーランドに行ってきたという知人の土産話を聞いて,ふーんと思っていたくらいですかね。

いずれは行ってみたいなと思います。

https://www.chiba-bengoshi.pro/

後遺障害逸失利益について定期金賠償を命じた最高裁判決に関する考察

既に様々なところで話題となっていますが,交通事故で重度の後遺障害(第3級3号)を負った被害者(事故当時4歳)の後遺障害逸失利益について,定期金賠償による支払いを認めた最高裁判決について,私的に考察したいと思います。

定期金賠償とは,損害賠償金を定期的に給付させるものです。
民法は不法行為に基づく損害賠償を一時金賠償に限定はしておらず,将来介護費等については特に問題なく認められてきました。
主なメリットとしては,一時金賠償に比べて,実情に照らして実態に即した賠償金を受けられること,浪費による散逸を防ぎやすいこと,中間利息の控除がない分,最終的に獲得できる金員が大きくなる可能性があることがあげられます。
他方,賠償義務者側においては,長期にわたる支払い手続きの遂行を余儀なくされ,一時金賠償と比べて大きな管理コストが生じること等が指摘されています。

本判決では,後遺障害逸失利益を18歳から67歳までの間,毎月,取得すべき収入額を定期金により支払うことを認めた原審判決が是認されました。

本判決はその主な理由として,次のような事情を挙げています。
不法行為に基づく損害賠償制度の目的(=被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者の被った不利益を補填して,不法行為がなかった状態に回復させること)と理念(=損害の公平な分担を図ること)に照らすと,後遺障害逸失利益については,定期金賠償が相当と認められる場合がある。

原審判決では,次のとおりさらに詳細に述べています。
(1)後遺障害逸失利益は,将来介護費用との比較において,請求権の具体化が将来の時間的経過に依存している点等において共通しており,定期金賠償の対象となり得るものと解される。
(2)最高裁判例は,後遺障害逸失利益を定期金賠償によって支払うことを否定してはいない。
(3)本件は,年齢,後遺障害の性質や程度,介護状況などに照らすと,被害者の後遺障害逸失利益は,将来の事情変更の可能性が比較的高いこと,被害者側が定期金賠償を強く求めていること,別途将来介護費用の定期金賠償が認定されており,後遺障害逸失利益について定期金賠償を認めても,賠償義務者側の過重負担にはならないことを総合勘案すると,定期金賠償を認める合理性がある。

今後,交通事故によって労働能力喪失率100%となるような後遺障害(1級~3級)となった場合は,本判決を踏まえて,逸失利益につき,一時金賠償を求めるか定期金賠償を求めるかを検討する必要があると思われます。

他方,労働能力喪失率が100%ではない後遺障害(4級~14級)については,前述の相当性要件を満たすかどうか定かでなく,少なくとも本判決の射程がそのまま及ぶことはないと考えられます。

異動のお知らせ

これまで在籍していた弁護士法人心津駅法律事務所から,新たに開設された弁護士法人心四日市法律事務所に異動となりました。

場所は,近鉄四日市駅の西側,「STAFF BRIDGE」という青い看板のあるビルの3階です。

これまでと変わらない,あるいは,それ以上の良質な法的サービスの提供に励みたいと思いますので,どうぞよろしくお願いいたします。

ところで,先日,事務所引越しのためにレンタカー(軽四貨物)を借りて,大量の段ボールを積み込み,津から四日市へ移動していましたが,噂に聞いていた23号線の渋滞につかまり,とてもゆっくりとした移動になりました(慣れない車ということもあって,疲労がかなり蓄積)。
また,レンタカーを借りたのは久々でしたが,次のような予想外の事象に遭遇しました。
○ ハンドルを切った後,自動で戻ってこない(手動で戻す必要があった)
○ アクセルを踏んでも,すぐに加速しない(ワンテンポ置いてようやく加速する感じ)。
○ 冷房がほとんど効かない。
○ 当時雨が降っていたが,ガラスがすぐに曇った(冷房を切っててドアミラーを開けて対処することに)。
○ カーナビがずれている(帰りに全く違うところに連れていかれた)。

特にカーナビのずれは,一番冷や汗かきました。
何かおかしいなという直感が働いたのですが,カーナビを信じすぎてしまいました・・・。
便利な機械ですが,盲信は禁物ですね。

https://www.yokkaichi-bengoshi.com/

いじめ行為と損害賠償請求(相当因果関係)

いじめ行為(暴力や脅迫行為等」によって,被害者の身体・財物に直接損害が生じた場合,当該いじめ行為と被害者の損害との相当因果関係が認められるのは言うまでもありません。

問題は,損害が間接的に生じた場合に,相当因果関係が認められるのかです。
間接的に生じる典型としてあげられるのが,被害者の自殺です。
いじめ行為自体は,死を生じされるほどの危険性はないものの,被害者がいじめを苦に自殺した場合,その死亡による損害を加害者に請求することが出来るのでしょうか?

この度取り上げる大阪高判令和2年2月27日は,いじめらた被害者Dが自殺し,被害者遺族が加害者A・B・Cに対して損害賠償請求を行った事件です。

結論として,判決はいじめ行為と被害者の自殺(=損害)との相当因果関係を肯定しましたが,それに至る判断過程を次のように提示しました。

ア)自殺者の共通心理として,孤立感,無価値観,無力感,閉塞感があげられる。
イ)A~Cの各いじめ行為によって,Dに孤立感,無価値観,無力感,閉塞感が生じ,深化していったことを経て,Dが自殺に及んだことから,A~Cの各いじめ行為とDの自殺との間に事実的因果関係が認められる。
ウ)それまでのいじめに関する報道や研究論文,法整備,社会的影響などから,事件当時において,いじめ行為によって被害者が自殺に至ることは,一般的にあり得ることと考えられ,相当因果関係は認められる。

本件は,最終的には,過失相殺の適用・類推適用を認めて,加害者側の賠償責任が減額されているという特徴もあります。

危険運転致死傷罪

5月27日午前1時頃,愛知県一宮市にて,センターオーバーによる死亡事故が発生し,センターオーバーした側の運転者が危険運転致死罪で逮捕されました。

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第2条は,危険運転致死傷にあたる類型として6つの類型を規定していますが,本件は「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為(2号)」にあたるとされました。

どの程度の速度であれば該当するのかは,事例によると思われますが,調べたところ,制限速度50kmの道路を時速95km以上で走行していた被疑者に前記2号の危険運転致死傷罪の成立を認めた裁判例がありました。
何となくではありますが,制限速度を40~50km以上超過することが成立要件とされているように思われます。

私は三重県内に住んでいますが,この1カ月で,赤信号でいったん止まったものの,交差道路の車両がいなくなった瞬間に急発進した車両や,片側1車線の道路の対向車線にはみ出して追越をかけ,一気に複数台を抜いて先頭に入った車両をみかけました。
いずれも,事故をして受傷者がでたとなれば,危険運転致死傷罪(4,5号)にあたる行為です。
本件のような悲惨な事故が起きる前に,運転態様を改めて欲しいと思います。

通院頻度とコロナウイルスとの関連性

緊急事態宣言が出されてから,コロナウイルスへの感染リスクを考慮し,通院頻度を少なくした,または,通院しなくなったという患者様の相談を複数受けました。

交通事故治療に限らず,通院患者の減少は社会問題化しており,中には医院の経営状態にまで影響を及ぼしていることもあるようです。

心配される患者様のご意見はもっともなことであり,ご自宅にいること自体は,外出を控えるよう広報している政府・地方公共団体の方針にも沿うものです。

ところで,交通事故治療における通院頻度は,患者様の精神的苦痛を測る指標としても用いられており,これが少なくなると傷害慰謝料が減少するという影響が生じ得ます。
また,前回通院との間隔があまりに空きすぎると,事故との関連性が希薄化し,最悪,交通事故としての治療が打ち切られることもあり得ます。

さらに,「不要不急」の外出は・・・と言われていることに照らすと,当該患者様の通院治療は不要不急のものであったと評価されてしまうかもしれません。

「本当は通院したいが,感染リスクのために行けない」というご主張をしばしば耳にしますが,医療機関は営業自粛の対象には含まれておらず,通院治療は外出自粛と対象外と思われることから,そのようなご主張がどの程度受け入れられるかは未知数です。

大変な状況下ではありますが,ご一考いただければと思います。

難聴・耳鳴りと交通事故との相当因果関係

令和2年度版赤本に,「耳の後遺障害について」と題する講演録が収録されていました。

交通事故被害につき,耳(正確には外耳)への直接外傷がなく,鼓膜や耳小骨等の器官にはっきりとした損傷が認められないにもかかわらず,難聴や耳鳴りを訴えることはしばしばあり,事故との相当因果関係が争点となることも珍しくありません。

耳鼻科の専門医である講演者は,相当因果関係の判断要素として,主に次のような事柄をあげていました(※ 筆者の個人的解釈を含みます)。

A)被害者の年齢・既存障害としての難聴の有無

特に高齢者の方は加齢による既存の難聴があることが珍しくなく,それを差し引いての判断が求められるとのことです。

高齢者でなくとも,既存障害として難聴がある場合は,同様の考慮が必要となるでしょう。

B)耳鼻科専門医を受診した時期

専門医にかかっていない,あるいは,事故日から相当期間経過した後に受診した場合は,事故直後から継続する障害があったのかが疑問視されるとのことです。

もっとも,専門医でなくとも,早期に耳鳴り・難聴を訴えていたことが確認されれば,関連性が肯定される方向に働く余地はあるとのことです。

C)頭部打撲の有無

頭部打撲がある場合は,遅発性に症状が出現することが報告されているとのことです。

前記Bでは受診時期が遅れれば相当因果関係が認められにくくなるとのことでしたが,絶対ではないにせよ,弁明の余地が出てくるといったところでしょうか。

D)事故の規模

小規模事故の場合は,事故によって耳鳴り・難聴が生じるか疑問視されるとのことです。

もっとも,小規模事故において事故との関連性が問題となるのは,聴覚異常に限ったことではないでしょう。

外貌醜状に関する一考察

令和2年版赤本下巻に外貌醜状に関する講演録が載せられていました。
良い機会なので,あらためて検討してみたいと思います。

外貌醜状に関する自賠責保険上の後遺障害としては,次の4つに区分されます。

① 外貌に著しい醜状を残すもの(7級12号)

② 外貌に相当な醜状を残すもの(9級13号)

③ 外貌に醜状を残すもの(12級13号)

④ 上肢・下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの(14級3号・4号)

①著しい醜状とは,頭部において手のひら大以上の瘢痕が残ったとき,頭蓋骨に手のひら大以上の欠損が残ったとき,顔面部に鶏卵鶏卵大以上の瘢痕・10円硬貨以上のくぼみが残ったとき,耳殻軟骨部が2分の1以上欠損したとき,鼻軟骨部の大部分を欠損したとき,のいずれかに該当する場合とされます。

②相当な醜状とは,顔面部に5cm以上の線状痕が残った場合とされます。

③(単なる)醜状とは,頭部において鶏卵大以上の瘢痕が残ったとき,頭蓋骨に鶏卵大以上の欠損が残ったとき,顔面部に10円硬貨以上の瘢痕・3cm以上の線状痕が残ったとき,頚部に鶏卵大以上の瘢痕が残ったとき,のいずれかに該当する場合とされます。

これら外貌醜状の後遺障害が認定された場合,常に問題となるのが,逸失利益と慰謝料増額事由としての問題です。

前記講演録を見るに,次のような事情が考慮されているようです(※ 投稿者の独自解釈含みます)。

A)逸失利益との関係

交通事故時にいかなる職業に就いていて,外貌醜状によって,現在,当該仕事内容や収入に具体的影響が生じているか。現在は影響がなくても,職種・年齢等から将来的に異動・転職の場面を含めて影響が及ぶと認められるか。

※ 外貌醜状の部位・内容・程度が出発点となり,一般的に等級の高いものほど労働能力喪失が認められやすい傾向がある。

B)慰謝料増額事由との関係

具体的な労働能力の喪失があるとまでは認められない場合であっても,後遺障害等級に応じて通常想定される精神的苦痛ではなお評価し切れない部分が認められるか。

改正健康増進法

改正健康増進法によって,三重県内においても,近鉄電車で喫煙車両がなくなったり,建物内で喫煙ができなくなったりと,様々な影響が出ています。
そんな健康増進法について,少し取り上げてみたいと思います。

健康増進法は,平成14年(2002年)に成立した法律で,その目的は,「我が国における急速な高齢化の進展及び疾病構造の変化に伴い,国民の健康の増進の重要性が著しく増大していることにかんがみ,国民の健康の増進の総合的な推進に関し基本的な事項を定めるとともに,国民の栄養の改善その他の国民の健康の増進を図るための措置を講じ,もって国民の健康を図ること」とされています(同法1条参照)。

改正25条では,国及び地方公共団体の責務として,受動喫煙の防止の推進が努力義務として規定されています。

さらに,改正25条の3では「何人も」受動喫煙が生じないよう配慮する義務を負い,「多数のものが利用する施設を管理する者」は,喫煙場所を定めるときは,望まない受動喫煙を生じさせることがない場所とするよう配慮する義務を負うとしています。

そして,改正25条の8は,都道府県知事に,対象施設に対して,受動喫煙が生じないような措置をとるよう勧告(※ 応じなければその旨公表できる)・命令(※ 勧告に応じなかったことが前提)することが出来るとし,改正25条の9においては,立入検査等も出来るとしています。

その上で,改正40条や42条は前記命令に違反したり,検査を拒否したりした場合は,過料に処すことが出来るとされています。

この「過料」は行政罰の一種で刑罰ではありませんが,配慮義務の一般化や,行政機関に勧告・(違反を前提とした)公表・命令・立入検査等を認めることで,十分な抑止効果がもたらされるのではないでしょうか。

喫煙される方には辛い状況ですが,受動喫煙による健康被害は各種調査によって明らかとなっているところなので,本改正によって望まない受動喫煙がなくなればいいなと思います。

 

 

特殊詐欺とコロナウイルス

以前から度々取り上げている特殊詐欺ですが,昨今のコロナウイルスに便乗した新たな特殊詐欺が行われている模様です。

三重県警察のホームページによれば,次のような事例が報告されています。
(1)コロナウイルスにかかった身内を装い,現金等を要求する
(2)厚生労働省や保健所の職員を装い,個人情報や資産情報を聞き出す

特に(2)については,政府や公的機関から,イベント開催自粛や外出・往来自粛等の,これまでにない強度の要請が相次いでいることもあり,つい信じてしまう可能性もあると思われます。
十分に警戒しておくべきでしょう。

また,特殊詐欺だけでなく,悪質商法の事例も報告されています。

具体的には,コロナウイルスへの効果をうたった未承認の薬品を販売する,コロナウイルスに汚染されているとして,消毒作業とそれにかかる料金を要求する等です。

犯罪者側は,資力に乏しく,入手した金員をすぐに費消してしまうのがほとんどですので,後で騙されたと気づいて被害届を出しても,交付した金員が戻ってくることはほとんどありません。

それ故,お金を交付する前に気づくこと,踏みとどまることが,何より重要です。

警察からは,不審な電話があった場合は,一旦電話を切って警察に通報して欲しいとの要請が出されています。
慌てず,落ち着いて対応していただきますよう,お願いします。

コロナウイルスの影響

コロナウイルスの感染拡大防止のため,政府より,不要不急の集まりを避けるよう通知が出されているのは,ご存知かと思います。

これに関連して,三重県の津地方裁判所は,3月11日に予定していた裁判員の選任手続きを延期すると発表しました。

裁判員の参加する刑事裁判に関する法律〔「裁判員法」と略されることが多い〕は,死刑または無期の懲役・禁固にあたる事件等の刑事裁判は,裁判員の参加する合議体で行わなければならないとしています(2条1項)。
そして,裁判所は,裁判員等選任手続を行う期日を決め,裁判員候補者を呼び出さなければならないとしています(27条1項)。
今回延期されたのは,この27条1項の手続きです。

裁判員は,一般市民の中からランダムで抽出されます。

もっとも,特定の職種の者・職種であった者は当初から除外されます(裁判員法15条1項)。

除外対象者には弁護士も含まれており,私は,現在はもちろん,弁護士を辞めた後も選ばれることはありません。

仮に手続きが行われたとなると,大きな部屋に裁判官,検察官,弁護士,裁判員候補者が一堂に会して,様々なやり取り(手続きの説明,裁判員への質問,理由を示さない不選任の請求,選任決定等)が長時間行われることになります。
参加者全部合わせると数十人になることから,現在実施すべきでないというのはやむを得ない措置なのかもしれません。

ちなみに,三重弁護士会においても,会合や研修等,多人数が集まることを前提とする催しが,次々に延期・中止となっています。

早く収束して欲しいと切に思います。

裁判例検討【発信者情報開示請求】

「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「同法」といいます)」をご存知でしょうか?
実に長い法律名ですが,他によいネーミングが思いつかなかったのでしょう。

同法4条1項は,「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は,次の各号のいずれにも該当するときに限り,当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し,当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名,住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。」と規定しています。
ざっくりいうと,インターネット上のウェブサイト上での投稿(罵倒,誹謗中傷等)によって,自己の権利を侵害された者は,プロバイダ業者に対して,当該投稿者の情報開示を求めることができるというものです。

同法4条1項に基づく開示請求は,被害者が名指しで投稿されていなくても,他の記載や前後の投稿から,被害者であることが特定されると評価されれば,「自己の」権利を侵害されたとして請求が認められることがあります。
東京地判平成30年2月8日では,被害者はある特徴的なニックネームで呼ばれており,氏名こそ記載されていないものの,他の記載や前後の投稿には,被害者の身体的特徴,普段の服装,保有自動車の車種や色・ナンバーのほか,被害者の姓と読みが類似する記載がされていること等を総合考慮した上で,一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば,当該ニックネームの人物が被害者を指すもので,そこに書かれた記事が被害者に関するものであると読み取ることが出来ると判示し,他の要件も満たされることから,開示請求を認めました。

青少年健全育成条例

時折,女子学生と関係を持ってしまったが,どうしたらいいでしょうかという相談を,男性から受けることがあります(今のところ,逆の相談を受けたことはありません)。

普通に過ごしていたら,(職場や趣味等が合致する場合を除き)大人の男性と女子学生が友達になったり,まして,性的関係を持つことは,ほとんどないでしょう。

双方とも,何かしらの目的を持って接近を図った結果,こうなったということなのかもしれません(この辺りについては正直よくわかりません)。

さて,青少年(18歳未満の未婚者と定義)については,その保護や健全な育成を図るため,各都道府県にて青少年健全育成条例が定められています。

三重県でも,三重県青少年健全育成条例が制定されています。

そして,青少年に対する「いん行またはわいせつな行為等」が禁止されており(第23条1項),違反した場合は2年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられる可能性があります(第40条1項)。

冒頭の相談者は,まさにこれに抵触することになるわけです。

いん行とは,青少年を威迫し,欺き,又は困惑させる等不当な手段を用いて行う性交又は性交類似行為及び青少年を単に自己の性欲を満足させるための対象として行う性交又は性交類似行為という長い定義がされています。

ざっくりいうと,真剣交際以外は,すべてアウトといってよいでしょう。

ただ,「真剣交際でした!」と強弁しても,その他各種事情に鑑みて,なかなか認めてもらえないのが実情です。

他方,女子学生側も,虞犯少年(少年法3条1項3号)として,少年事件の対象となる可能性があります。

双方とも,公私にわたって,著しい影響を及ぼすことになりますので,踏みとどまっていただきたいと思います。

信号無視の立証

先日,信号の色が争われた交通事故に起因する損害賠償請求訴訟の判決があり,当方の主張どおり,相手方が信号無視をしたと認定されました。
いかなる判決がでるかやきもきしていましたが,まずは安堵の気持ちです。

交通事故において,赤信号を無視して事故を起こした加害者が,信号無視を認めなかったり,当初は認めていて後日に青だったと主張したりすることは,時折あります。

赤信号を無視して事故を起こした場合,赤信号を無視した者の過失割合は基本的に100%とされます。
しかし,加害者が信号無視を認めない場合,被害者は加害者が信号無視をしたことを主張し,かつ,その事実を証明していく必要に迫られます。
つまり,損害賠償請求を行うにあたり,被害者が立証責任,証明責任を負うことになるのです。

このような立証責任,証明責任を教科書的に定義すると,訴訟上,主要事実(=権利の発生・変更・消滅のような法律効果の発生要件に該当する事実)の存在が真偽不明に終わったために当該法律効果の発生が認められないという一方当事者が負うべき不利益となります。
加害者の信号無視が認められない・真偽不明で落着したときは,理不尽ではありますが,被害者が事故によって被った損害を加害者に支払ってもらえないという不利益を受けてしまうのです。

本件ではドライブレコーダーや防犯カメラ等の客観性の高い証拠のほか,目撃証言等の中立性の高い証拠はなく,容易な案件ではありませんでしたが,刑事記録における相手方信号見落としを示唆する記載のほか,相手方供述の不整合等によって,相手方信号無視を証明することができました。

交通事故と任意保険

交通事故事件を扱っていると,任意保険(以下共済も含む)をかけていない方から相談を受けたり,相手方に任意保険がなかったりするケースが,時々あります。
自賠責保険と異なり,任意保険はその名のとおり強制ではありません。
ただ,交通事故における賠償額は,何十万というのが普通であり,怪我の内容が重いと数百万円というのもしばしばです。
このような大金をすんなり用意できる方は極めて少ないでしょうから,自動車に乗る際は任意保険を付保するのが鉄則と言えるでしょう。

ところで,任意保険がないといっても,一度も任意保険を付けたことがないという筋金入りの方はまずいません。
ほとんどは,ある時期まではつけていたものの,金銭的な困窮や,事故には遭わないし起こさないという自信によって,途中からつけるのを止めた,更新しないまま放っておいたというパターンが多いように思われます。
なぜかわかりませんが,そのような油断・慢心があるときに限って,得てして事故を起こしたり巻き込まれたりすることが見受けられます。

改めて言うまでもありませんが,任意保険をつけないまま自動車に乗ることのないようご注意ください。
そして,任意保険を付ける際は,弁護士費用保険・特約もお忘れなく。

交通事故に関して津で弁護士をお探しの方はこちらをご覧ください。

雑考(保険会社における施術費の争い方について)

交通事故で受傷した場合,治療の主体となるのは整形外科等の医師ですが,接骨院・整骨院(以下「接骨院等」)も利用されることがしばしばあります。
赤い本では「症状により有効かつ相当な場合,ことに医師の指示がある場合に,治療に必要かつ相当な額を認める」とされ,実際に接骨院等の施術によって,症状が改善した・緩和された事例は枚挙にいとまがありません。

しかし,接骨院等における施術は,医師が直接かかわる純然たる治療行為ではないことから,立証の観点において,どうしても弱い立ち位置にあります。
それを知ってか,従前は問題なく施術費を支払っていたにもかかわらず,示談交渉が決裂して訴訟移行した途端,施術費が不必要・不相当であるとして争ってくる加害者側保険会社及び代理人弁護士を,複数目の当たりにしました。

当初から施術を問題視していたり,当時不明であった重大事情が後日に明らかになったりした場合は,訴訟において争うのは首肯できます。
しかし,あらかじめ保険会社側の同意を得て,何ら問題なく施術費が支払われていたのに,前述の弱みにかこつけて,当該施術は本来必要でなかったと主張してくるのに対しては,これまでの信頼を無に帰すものであるというほかなく,憤りを感じます。
民法1条2項は,信義誠実の原則を定めており,訴訟になったとしても,当該原則を軽視・無視することはできないはずです。

まとまりがなくて申し訳ありませんが,最近の雑考を述べさせていただきました。