相続と賃貸借契約2

賃借人の同居人であった内縁の妻を保護する理屈としては,次のようなものがあります。

建物賃借人の地位は,内縁の妻には引き継がれないですが,相続人には引き継がれることとなります。
この場合,判例は,内縁の妻は,相続人が引き継いだ借家権を援用し,建物の明渡しを拒むことができることがあるとしています(弁護士を目指して勉強する場合は,必ず学ぶことになる判例だと思います)。

注意が必要なのは,内縁の妻自身が借家権を有することになるのではなく,内縁の妻が相続人の借家権を援用することができるに過ぎないということです。
このため,相続人が賃借権を主張する場合は,内縁の妻は,建物を明け渡さざるを得なくなるのではないかという疑問が出てきます。
この点についても,判例は,相続人からの明渡請求が権利の濫用に当たるとして,内縁の妻が明渡しを拒むことができるとしました(この判例も,必ず学ぶ判例だと思います)。
このため,判例上は,相続人に引き継がれた借家権が存続する限り,内縁の妻は,建物に居住し続けることができるということになったのです。

ただし,あくまでも,内縁の妻は相続人の借家権を援用しているにすぎませんので,相続人が賃料支払義務を負うことになります。
そして,相続人が賃料を支払わず,賃貸借契約が債務不履行解除された場合には,内縁の妻は建物から退去しなければならなくなります。

このように,判例上の保護も,決して万全といえるものではありません。

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