日別アーカイブ: 2016年12月24日

預貯金の遺産分割についての最高裁の決定5

今回の最高裁の決定について,もう1つ気になっている問題があります。
実際上の問題ですが,多額の相続税を納付しなければならない場合に,どのように納付資金を賄うかという問題です。

相続税の申告と納付の期限は,相続の開始を知ってから10か月です。
10か月の期限内に,相続税の計算を行い,納付資金を賄い,納付の手続をとる必要があることとなります。
仮に10か月の期限内に納付することができなければ,延滞税が発生するとともに,財産に対する差押えが行われる可能性が出てきます。
相続税の発生が予想されるものの,相続税の納付資金を賄うことができない場合は,とりあえず,無申告加算税の発生を避けるため,申告だけしてしまい,やむなく納付は行わないといった対応をとることもあると思います。
このような場合,10か月の期間内に相続税の納付がなされなければ,期間が経過して1から2か月程のうちに,税務署から相続人に対し,いつ相続税を納付することができるかという照会が行われることが多いようです。場合によっては,差押えの手続に着手する旨の通告がなされることもあるようです。

当然,相続人の側としては,延滞税が発生することを避けたいですし,差押えがされかねない状況に陥ることも回避したいと考えます。
とはいえ,遺産分割が完了しない間は,多額の相続財産があったとしても,払戻し等の手続を行うことができないわけですから,自己資金から,相続税の納付資金を賄わなければなりません。
問題は,相続税の納付資金を自己資金で賄うことができない場合に,どうするかということです。

最高裁の決定が出される前は,預貯金が法定相続分に基づき当然に分割取得されることとなっていましたので,金融機関に払戻しを請求することにより,納付資金を賄うことが期待できました(今回の最高裁について口頭弁論が開かれることが報道されて以降も,普通預金については,払戻しに応じてくれる金融機関もありました)。
ところが,今回の最高裁の決定が出された結果,預貯金も遺産分割が完了しなければ,誰が取得するかが決まらず,払戻しを行うことができないこととなりましたので,今後は預貯金をあてにすることができなくなることとなります。

この点について,今回の決定の補足意見は,家事事件手続法上,仮分割の仮処分の制度が設けられているとのコメントを行っています。
確かに,仮分割がスムーズに行われ,一部だけでも相続財産の払戻しができるのであれば,納付資金を賄うことができるようになるでしょう。

ただ,この仮分割の仮処分ですが,私は,三重では,使われているのを目にしたことがありません。
試しに検索エンジンで検索してみましたが,ほとんどヒットしませんので(平成28年12月24日現在),三重だけではなく,全国的に使われていないようです。
また,仮差押のように,担保金の供託が求められるのか,賃金の仮払仮処分のように,通常は担保金の供託を求められないと考えて良いのかも,不明です。
そもそも,相続税の納付の必要があれば,仮分割仮処分を行う要件を満たしていると言えるのかも明らかではありません。

このように,不明確な部分が多い制度であるため,今後,相続税の納付が予想され,自己資金で相続税の納付を行うことができない案件を担当する場合には,不確定要素が多いと説明しつつ,仮分割仮処分の利用を試みる必要があるかもしれません(弁護士側の回答として,税務署との間で,遺産を差し押さえてもらう方向で協議してくださいとだけ回答するのも,いかがなものかと思いますので)。