公正証書遺言の利点1

このように,公正証書遺言を作成する場合,手数料が必要となります。
財産総額,遺言の内容次第では,手数料が思わぬ金額になることもあります。
ただ,個人的には,手数料が必要であることを考えても,公正証書遺言を作成することには大きな利点があると思います。

第一に,公正証書遺言の場合は,検認が不要となります。
自筆で作成する,いわゆる自筆証書遺言の場合は,相続開始後に,裁判所に遺言書検認審判申立を行う必要があります。
検認とは,大まかに言うと,裁判所に相続人が集まり,遺言の内容を確認することをいいます。
検認の期日では,裁判所において遺言のコピーを取り,これを検認調書として保管することとなります。
遺言書が封筒に入っている場合は,封筒を開封する手続も行います。
検認・開封の手続を怠った場合は,いわゆる罰金等の制裁がかされる可能性があります。

検認手続について注意が必要なのが,不動産の相続登記です。
遺言に基づいて不動産の名義変更を行うには,法務局に登記申請書を提出し,相続登記を行う必要があります。
このとき,法務局は,自筆の遺言の検認調書を提出しなければ,不動産の相続登記の手続を進めてくれません(松阪に限った話ではなく,どこの法務局でもそうです)。
このため,相続登記を行うためには,前もって検認手続を行っておく必要があるのです。

検認手続で大変なのが,裁判所に遺言書検認審判申立を行う際に,遺言者の相続関係が分かる戸籍を提出することを求められるということです。
相続人が子のみである場合はまだしも,兄弟姉妹が相続人になる場合は,提出しなければならない戸籍が10枚以上になることが多々あります。
相続人の本籍地が日本各地に散らばっている場合は,各地の役所で戸籍を取得する必要もあります(郵送請求するという手もありますが,手間がかかります)。
このため,戸籍の取得だけで,かなりの時間と手間がかかってしまいます。

また,検認審判申立が行われると,相続人全員に対し,何月何日に検認期日を設けますので,裁判所に出頭してくださいという通知が行われます。
このようにして,相続人全員が裁判所に出頭する機会を設け,出頭した人が集まった状態で,遺言書の開封・検認を行うことになります。
相続人間の関係が悪くない場合は問題が少ないですが,相続人間の関係が悪化している場合は,このような手続を進めることは,かなりの負担になるものと思われます(もっとも,弁護士に検認審判申立を依頼した場合は,弁護士だけが検認期日に出頭するという形をとることもできます)。

この点,公正証書遺言の場合は,検認手続を行う必要がなく,相続登記も検認調書なしで進めることができますので,手続に要する手間がかなり小さくなります。

公正証書遺言の作成手数料3

公正証書遺言は,通常,公証役場で作成することとなります。
公証役場は,全国各地に存在するものの,公証役場が存在しない市町村もあります。
松阪の場合は,中央郵便局の向かいあたりにあります。

ただ,遺言者が入院している場合,施設で生活している場合等,公証役場まで出向くのが難しいこともあります。
このような場合には,公証人に特定の場所まで出張してもらい,そこで遺言を作成するという方法をとることもできます。
ただし,公証人に出張してもらう場合は,旅費を支払う必要があります(以前,松阪で作成したときは,1から2万円程でした)。
また,出張先までのタクシー代についても,作成を依頼する側の負担となります(公証人によっては,公証役場から出張先まで,依頼人が運転する車に同乗する形をとっても構わないとすることもあるようです)。

もちろん,出張先で遺言の内容についての聞き取りを行い,その場で公正証書を作成することはできませんので,出張をお願いする場合は,事前に,遺言の文案を作成し,公証人と打合せを行っておく必要があります。
打合せを行った上で,公証人は,公正証書を公証役場で作成し,出張先に持っていくこととなるのです。
打合せが不十分で,出張先で修正点が生じた場合は,公正証書を作り直すこととなり,後日,公証人にもう1回出張していただくこととなります。
当然,旅費・交通費も二重に必要になります。
1回で手続を終わらせるためにも,綿密な打合せが必要不可欠ということになります。

公正証書遺言の作成手数料2

公証人に支払う手数料は,財産がいくらであれば,いくらというように定まっています。
たとえば,受け取る財産が1億円の場合は,4万3000円になります。
詳細な基準表は,ネットでも公表されていますので,容易に入手することができます(私自身も,法律相談で遺言の質問を受けたときは,基準表を確認して回答したりします)。

ただ,公表されている基準表には,いくつかの注意点があります。
この点については,実は,相談を受ける側も,詳細を把握できていないことがあります。
このため,弁護士等に相談したところ,基準表を見ていくらになるという回答を受けたものの,実際に公証役場に行ってみると,弁護士等に聞いた以上の費用を求められた,といった事態になることもあるようです。

まず注意が必要なのは,手数料は,1つ1つの財産の動きについて発生するということです。
たとえば,遺言を作られる方の財産総額が1億円だから,基準表で4万3000円の手数料になると考えると,間違いです。
長男に対して5000万円の,二男に対して5000万円の財産を渡す場合,長男の5000万円について2万9000円の,二男の5000万円について2万9000円の手数料が,それぞれ発生します。
ですから,合計で5万8000円の手数料が発生することになります。

また,いわゆる補充遺言を作成する場合は,注意が必要です。
補充遺言とは,①土地を長男に相続させる,②長男が遺言者よりも先に死亡していた場合は,二男に相続させるというように,①が実現できなければ,②という定めを置くものです。
一般的には,もしもの場合に備え,補充遺言を行うことが望ましいとされていると思います。
ただし,公正証書遺言を作成する場合は,①土地を長男に相続させるで1つの動き,②長男が遺言者よりも先に死亡していた場合は,二男に相続させるで1つの動きと考えられます。
ですから,土地が5000万円の場合,①の手数料で2万9000円,②の手数料で2万9000円という計算がされることとなります。

公正証書遺言の作成手数料1

弁護士会の法律相談では,遺言について質問を受けることがあります。
よくある質問は,遺言書を実際に作りたいのですが,どうすればよいのでしょうといった内容のものです。
このような質問に対しては,遺言には,自筆証書遺言(自筆で作成する遺言),公正証書遺言(公証役場で作成する遺言)があるという話をすることが多いです。

公正証書遺言の場合は,遺言者が公証人に対して遺言の内容を伝え,公証人がこれを公正証書にまとめることにより作成します。
通常は,公証役場に出向いて手続を行うことになります。
公正証書遺言にも,色々と定まったルールがあるのですが,基本的には,公証人が手続を主導してくれます。
また,公正証書遺言を作成するに当たっては,証人を2人用意する必要があります。

公正証書遺言については,公証人の関与のもとで作成されますので,遺言の有効性についての争い(本当に遺言者が作成したものかどうか,作成当時の遺言者に判断能力があったかどうか)が生じにくい,文言の解釈等で争いが生じにくい,といったメリットがあります。

ただ,公正証書遺言を作成する場合は,公証人に手数料を支払う必要があります。
この手数料が,財産の総額,遺言の内容次第で,思わぬ金額になることがあります。
法律相談でも,公正証書遺言の作成手数料がいくらになるかという質問を受けることがしばしばありますので,弁護士としても,手数料がどのように決まっているのかについて,ある程度の知識を持っていた方が良いと思います。

財産分与と税金2

ところで,財産分与の場面では,不動産が分与の対象になる場合,不動産に住宅ローンが残っていることが多々あります。
財産分与の場面では,不動産を相手方に譲り渡すとともに,住宅ローンについても,今後,不動産を受け取った相手方が支払うものとすることがあります。
また,不動産は相手方に譲り渡すものの,住宅ローンについては,継続して不動産を譲り渡した側が支払うものとすることもあります(弁護士が入る事案でも,養育費の代わりに,今後も住宅ローンを支払ってもらうこととすることが,しばしばあります)。

このような場合,譲渡所得税の負担はどうなるのでしょうか。
譲渡所得税の計算方法は,「(譲渡金額-取得費-譲渡費用)×税率(5年以上なら,合計20%)」です。
このうち,譲渡金額は,財産分与の際の不動産の時価になります。

不動産を譲り受けた側が,今後,住宅ローンを支払うこととする場合,相手方は,住宅ローンの負担がついた不動産を譲り受けたことになります。
負担については,不動産の時価から差し引かれることとなりますので,この場合,譲渡金額は,「不動産の時価-住宅ローンの残額」とされることとなります。
松阪市の案件の場合,住宅ローンの残額が不動産の時価を上回ることが多いように思いますので(土地の評価額が跳ね上がることが少ないため),譲渡金額が0円になり,譲渡所得税がかからないことが多いように思います。

他方,不動産を譲渡した側が,今後も継続して住宅ローンを支払っていく場合,不動産を譲り受けた側は,財産分与としては,なんらの負担もなく不動産を取得することとなります。
この場合は,譲渡金額は,「不動産の時価」そのものになります。

このように,今後の住宅ローンの支払方法次第で,譲渡所得税の金額が変わってくることもありますので,やはり,弁護士としては,調停条項を組む前に,シミュレーションをすることが必要であるように思います(実際には,後日述べる理由から,結局,譲渡所得税の課税がされないことも多いですが)。

財産分与と税金1

離婚に際して財産分与を行う場合,税金がどちらにどれくらい課税されるのかは,前もって確認すべき事項だと思います。
財産分与では,不動産等の大きな財産が動くことがあるため,課税される税金が,思ってもいなかった程に多額になる可能性がある場面だと思います。

特に注意が必要なのは,財産分与の結果,相手方に不動産を名義変更する場合です。
この場合,不動産を譲り渡す側は,一度は,譲渡所得税が課税される可能性があるかどうかを検討すべきだと思います。

譲渡所得税は,不動産等の財産を譲渡する場合に課税される税金です。
税額は,(譲渡金額-取得費-譲渡費用)×税率です。
税率は,5年以上所有している不動産であれば,15%(国税)+5%(地方税)です(現時点では,復興特別加算プラスされます)。
譲渡金額は,財産分与時の不動産の時価です。
このように,不動産の時価に20%程の掛け算を行うわけですから,税金の額が高額になる可能性があります。

直観的には,不動産を相手方に渡したのに,渡した側に税金が課税されるというのは,変に感じるかもしれません。
こうした税金が課税される背景としては,分与割合(特別な事情がなければ,夫:妻=1:1)を踏まえた財産分与であれば,不動産を渡す側は,不動産を渡すことで,相手方に預貯金等の財産を渡さなくて済んだであろうという考え方があります。
このように,不動産を相手方に渡すことで,預貯金等の財産を渡さなくて済むという経済的利益を得ることになりますので,税金が課税されることになります。

理屈の上では,上記の通りですが,多額の税金が課税される可能性がある以上,財産分与に向けた交渉では,税金がどうなるかをきちんと検討した上で,相手方との交渉を行うべきでしょう。
弁護士として交渉する場合であっても,税金関係を度外視して交渉することは,避けたいものです。

委員会活動

弁護士会の第1回委員会の日が近づいてきました。

弁護士会で活動する場合は,それぞれの分野に特化した委員会が活動することが多いです。
委員会には,人権擁護委員会,両性の平等に関する委員会等,様々なものがあります。
委員会の定期的な集まりは,1か月に1回程(間があくときは,2か月に1回程),行われています。

私は,今年は,民事弁護委員会に所属することとなります。

特別代理人2

相続人が被相続人の配偶者(夫,妻)と未成年の子である場合,不動産の名義を配偶者(夫,妻)に変更する場合は,基本的には,未成年の子に特別代理人をつけた上で,遺産分割協議を成立させなければなりません。

それでは,不動産の名義を未成年の子に変える場合は,どうなのでしょうか。
この場合,未成年の子は財産を得るだけだから特別代理人をつけなくても,と感じる部分もあります。
実際には,法務局は,この場合にも,特別代理人の選任を求めています。
ですから,遺産分割協議をして,子の名義にする場合も,特別代理人なしで手続を進めることはできません。

ところで,不動産の名義を子に変更する方法は,遺産分割協議だけではありません。
配偶者(夫,妻)が,裁判所で相続放棄の手続を行えば,配偶者(夫,妻)は最初から相続人ではなかったものとなり,相続人が子しかいなかったものと扱われます。
この場合には,相続人が1人だけなのですから,遺産分割協議を行うことなく,不動産の名義を子に変えることができます。
法務局で話を聞いたところ,このような場合には,特別代理人の選任は不要であろうとの回答がありました。
この方法であれば,相続放棄の申述を裁判所で行う必要はあるものの,特別代理人選任のための費用等の負担を避けることができるかも知れません。

ただ,相続放棄は最初から相続人ではなかったものとしてしまう手続であるため,事案に応じた慎重な検討が必要だと思います。
本当に,相続放棄により,子の単独相続となるのかどうかは,検討が必要です。
また,一旦相続放棄をしてしまうと,相続人ではないこととなるのですから,他の財産も引き継ぐことができなくなります。
一般的には,任意の人に相続させるために相続放棄の手続を用いる場合は,相続放棄の手続を行うに先立ち,弁護士等の専門家に相談した方が良いように思います。

「お客様相談室」のご紹介

当法人では,お客様にご満足いただくことを特に大切にし,お客様相談室を設置しています。
お客様相談室では,依頼者の方からご意見等をいただいたり,依頼者の方にアンケートのご協力をお願いしたりして,業務の改善やサービスの向上に努めています。
ご依頼いただいている案件に関して,不安なことなどがありましたら,もちろん担当の弁護士や事務にお伝えいただいても構いませんが,お客様相談室の方にご相談いただくこともできるようにしております。
お客様相談室にご連絡いただいた場合には,専属のスタッフが丁寧に対応させていただきますので,ご安心いただけるかと思います。
お客様相談室については,こちらをご覧ください。

特別代理人1

遺産分割の当事者の全員が成人である場合は,円満に協議が成立するのであれば,遺産分割協議書を作成し,不動産の名義変更を行い,手続を完了させることとなります。
他方,遺産分割の当事者に未成年者が含まれる場合は,厄介な問題が生じます。

未成年者が法律上の行為を行う場合には,親権者が代わりに行うことが多いです。
たとえば,親権者は,未成年者に代わって,売買契約を行ったりします。
遺産分割についても,法律上の行為なりますので,原則として未成年者では遺産分割協議を成立させることができず,親権者が代わりに遺産分割協議を成立させることとなります。

ただ,民法は,親権者と未成年者との間で利害が対立する場合には,親権者は未成年者の代わりに法律上の行為を行うことができないと定めています。
遺産分割の当事者同士は,一方がある財産を取得すれば,他方はその財産を取得できないという関係にありますので,多かれ少なかれ,利害が対立しているものと扱われます。
いくら当事者同士が仲が良かったとしても,法律上は,利害が対立する者同士という扱いがされるわけです。
ですから,親権者と未成年者がともに相続人になる場合は,利害が対立するものと扱われ,親権者は,原則,未成年者の代わりに遺産分割協議を成立させることができないということになるのです。
たとえば,夫が亡くなり,妻と未成年の子が相続人となっている場合には,このような問題が起きます。

このように,親権者と未成年者との間で利害が対立する場合には,未成年者のために特別代理人を選任し,特別代理人に法律上の行為をしてもらうことになります。
特別代理人を選任するためには,裁判所で特別代理人選任審判申立をしなければなりません(なお,審判申立自体は,親権者が行うことができます。)。
選任された特別代理人は,恣意的な合意を行うことはできず,法律上妥当な内容の遺産分割を行うこととなります。
特別代理人には,弁護士が選任されることが多く,無報酬というわけにはいきませんので,報酬の負担も求められることとなります(通常は,選任審判申立時に予納)。

このように,当事者に未成年者が含まれているだけで,遺産分割の手続は厄介なものに様変わりします。
このため,弁護士として手続に関与する場合には,特別代理人を選任することなく遺産分割の手続を進めることができないかと,考えを巡らせてしまうこともあります。