懲役刑と禁固刑がなくなるという話

大分前になりますが、本年6月13日に、国会にて刑法の改正が成立しました。
その中に、懲役刑と禁固刑を廃止し、拘禁刑を設立するというものがあります。

前提として、懲役刑と禁固刑の相違を述べます。
いずれも行動の自由が制限され、刑務所内における生活を強制されることは共通です。
違う点としては、懲役刑では刑務作業を行うことが義務付けられるのに対し、禁固刑では義務付けられないということです。
言い換えれば、懲役刑では刑務所に閉じ込められて強制労働されられるのに対し、禁固刑では刑務所に閉じ込められているだけということです

しかし、従来より、これらを分ける必要はないのではないかという指摘がなされてきました。
根拠の1つ目として、刑務所に入所している受刑者の約99.7%は懲役で、禁固は約0.03%の過ぎず(※ 2021年のデータ)、禁固刑が活用されていないことがあります。
さらに、根拠の2つ目として、禁固刑の受刑者の約8割が、自らの申し出によって作業(禁固の場合は請願作業と呼称される)に従事しており、懲役刑との実質的な違いがなくなっていることがあります。

この度の改正は前記指摘を踏まえたものと言えるでしょう。
新しい「拘禁刑」は、(受刑者を)刑事施設に拘置し、改善更生を図るため、必要な作業を行わせたり、必要な指導を行ったりすることができると規定されています。
改善更生という目的が明確化され、そのための手段として作業・指導を適切に行うということが志向されています。

しばらくは違和感が拭い去れないところですが、適切な運用が行われることを期待します。

三重県社会福祉大会と民生委員

11/1に三重県社会福祉大会が開かれ、社会福祉の発展に貢献したとして民生委員等148人、56団体が表彰されたとのことです。

「民生委員」という言葉自体は広く知られていますが、何か困ったことがあったら助けてくれる人という漠然としたイメージを持っている方がほとんどではないかと思われます(※ 私もそうでした)。

民生委員は、厚生労働省のホームページに詳細な解説が掲載されています。
すなわち、厚生労働省から委嘱を受け、各地域において、住民の相談に応じ、必要な援助を行い、社会福祉の増進に努めるという役割を担っています。
扱いとしては、非常勤の公務員とのことです。

公務員ということであれば、それを規律する法律、「民生委員法」が存在します。
法律が制定されたのは昭和23年であり、長い歴史のある制度であることが見て取れます。
前述の民生委員の説明は、概ね同法1条に書いてあるとおりです。
また同法10条には、給与が支給されないことが明記されています。
さらっと規定していますが、それなりに責任のある、大変な役割を担っているにもかかわらず、無報酬というのは驚きです。

無報酬にもかかわらず、地域のため、住民のために奉仕される民生委員の方々には、頭が下がる思いです。

三重県議会議員への辞職勧告

先日、三重県議会議員への辞職勧告が否決されたとの報道がありました。

対象となった議員は、Twitter上で、安倍元総理の国葬に関する議論について、事実に基づかない投稿を行ったこと等が問題視されました(後に撤回の上、謝罪)。

意見を述べるのは自由ですが、具体的な根拠なしに断定的な主張をするのは、SNS上であるか否かを問わず、リスクを伴います。
すなわち、根拠を求められた際に出せなければ、嘘をついたとみなされ、自らの首を絞める可能性があります。
特に、議員も含め社会的地位のある方は、少なからぬ影響力がありますので、なおさら気をつける必要があると思われます。

地方議員への辞職勧告については、本ブログの投稿(2021/9/8付)でも取り上げたように、仮に可決されたとしても強制力はなく、道義的効果しかもたらしません(とはいえ、次回選挙への影響を考えると相当な痛手ですが)。
強制的に議員資格をはく奪する「除名」を行うには、総議員の2/3以上が出席の上、3/4以上の賛成を要するという厳格な要件が規定されています(地方自治法135条1項4号、同条3項)。
凶悪犯罪を犯したりする等、よほどの事情がない限り、ここまでの賛成を集めるのは困難と思われます。

体罰報道についての雑感

ソフトボール部の顧問の教員(男性)が、ユニホームを忘れた女子部員をビンタしたことで、顎が外れる大けがを負ったと報道されました。

先日逝去されたアントニオ猪木さんは、闘魂注入という名目で多数の素人の方にビンタをしていました。
しかし、当然のことながら加減をして行っていたため、顎が外れたということは聞いたことがありません。
おそらく、前記顧問は、加減することなく、本気でビンタをしたのでしょう。

学校の謝罪会見では、前記顧問は自分に厳しいが故、生徒にも厳しく当たったのではないか等と説明されていました。
しかし、自分に厳しいことと他人に厳しいことは、直接関係するものではありません。
自分に厳しい反面他人に優しい人は多数いますし、自分に甘くても他人には(なぜか)厳しい人も少なくないところです。

前記顧問の行為は、傷害罪(刑法204条)に抵触する犯罪行為にあたります。
また、上の立場の人間が、その優位な立場にかこつけて身体的苦痛を与えているということから、パワー・ハラスメントにもあたるように思われます。

学校側は、前記顧問の行為に多少なりとも理解を示すべきではありません。
厳しく非難することを前提とした上で、体罰は決して容認できないことを内外に発信し、再発防止に向けた具体策を公表する必要があると思われます。
あわせて、被害に遭われた生徒の方に、十分な謝罪と弁償をしていただきたいです。

テレビ会議システムによる尋問の可否

民事訴訟法204条は「裁判所は、次に掲げる場合には、最高裁判所規則で定めるところにより、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、証人の尋問をすることができる。」と規定し、1号で「証人が遠隔の地に居住するとき」をあげています。

民事訴訟法204条1号の趣旨は、遠隔地に居住する証人の負担の軽減にあり、同条は当事者尋問の場合にも準用されています(同法210条)。

この度、津地方裁判所に継続している裁判において、関東に住む当事者の尋問を申請するにあたり、民事訴訟法204条1号を示した上で、テレビ会議システムによる尋問を申し出ましたが、採用されませんでした。
理由については、裁判所より、遠方であるだけでは足りないとの説明を受けました。
しかし、遠隔後に居住していること以外に条文上要件は定められておらず、裁判長は、独自の考えに基づいて証拠採用しなかったのではないかという疑問が拭い去れません。
テレビ会議システムによる尋問をするかどうかは、裁判長の手続裁量に属しますが、裁量にも合理的な限界があります。

コロナ禍によって、リモートワークやZOOM等のアプリを利用した遠隔会議の技術は飛躍的発展を遂げ、世間一般にも浸透しています。
にもかかわらず、まして民事訴訟法自体が許容しているにもかかわらず、テレビ会議システムによる尋問をやりたがらないというのは、不可解としか言いようがないところです。

身分犯と共犯

津市が発注するボートレースのテレビCMを巡り、津市の職員Aと三重テレビ放送の社員Bが逮捕されたと報道されました。
A・Bが共謀して、広告会社の便宜を図った見返りに、当該広告会社役員から数十万円を受け取ったというものです。

被疑事実は、収賄です。
刑法197条1項は、「公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処する。・・・」と規定しています。
「公務員が」とあるように、一定の身分があることが犯罪の構成要件になっている犯罪を『身分犯』といいます。
ここでいう「身分」とは、男女の性別、内外国人の別、親族の関係、公務員である資格のような関係のみならず、すべて一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係である特殊な地位又は状態とされています(最判昭和27・9・19)。

本件で、Aが公務員にあたることは明らかですが、Bは公務員ではありません。
一見、収賄罪が成立しないように見えますが、刑法65条1項は「犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。」と規定していますので、BがAに加功することによって、Bにも収賄罪が成立します。

A・Bはいずれも被疑事実を認めているとのことですが、罪が確定したわけではないので、今後の続報を待ちたいと思います。


事故に起因する年次有給休暇取得について

交通事故による通院や療養のために、年次有給休暇を取得した場合、損害として請求できるというのが実務の考え方です。

これに対し、欠勤とは異なり、(休暇分の)給料が出ているのに、相手方にも給料相当額の賠償金を請求できるというのは二重請求ではないかという反論を聞くことがあります。

しかし、このような反論が認められることはありません。
東京地判平成6.10.7では、有給休暇は労働者の持つ権利として財産的価値を有するというべく、他人の不法行為の結果、有給休暇を使わざるを得なかった者は、それを財産的損害として賠償請求し得ると判示しました。
また、大阪地判平成15.8.27は、有給休暇取得について休業損害としての認定をしない代わりに、自己都合で有効に使用することができなかったことを慰謝料として考慮すると判示しました。
どちらにせよ、損害として評価すること自体を否定した事例は、見受けられません。

本来、趣味やお出かけ等に使うはずだった・使うことができた限りある休暇を、事故のために不本意な形で使わざるを得なかったわけですから、その分を損害として評価してよいというのは、一般常識にも反しないと思われます。

前述のような不当な反論をされてお困りの方は、お近くの弁護士にご相談ください。

三重県内の刑法犯認知件数(令和4年6月末時点)

刑法犯認知件数とは、警察等捜査機関によって、犯罪の発生が認識された件数のことです。
犯罪が行われても、認識されていないものは含まれていません。

三重県警のホームページに半年間の認知件数が掲載されていましたので、内容を検討してみました。

昨年との比較では、令和3年が3581件であったのに対し、令和4年は3578件と、微減しています。

地域別に見ると、四日市南署管轄と鈴鹿署管轄の認知件数の多さが目立ちます。
本庁のある津署管轄は、前2者より少ない状況です。

概ね人口と比例関係にあるということができ、人口の少ない地域では認知件数は少なくなる傾向が見受けられます。
人口が1万人に満たない大台署管轄では、ここ半年の認知件数は16件です(※ 三重県内の警察署中最少)。

引っ越しをする際の考慮要素にするのも、ありではないかと思われます。

話は変わりますが、度々話題にしている特殊詐欺は、減るどころかむしろ増えているとのことですので、警戒・注意を怠らないようにしましょう。

受け取っていない「借金」

お金の貸し借りは、法的には金銭消費貸借契約と呼称されます。

金銭消費貸借契約の成立要件は、後日に返すことを約束して、お金を受け取ることです。
このように、実際にモノが授受されることが必要な契約を、要物契約といいます。
つまり、タイトルのように受け取っていない「借金」は、基本的にあり得ないということです。

借り手より優位な立場を利用したり、借り手の知識不足に便乗し、お金を渡さないまま金銭消費貸借契約の契約書を作成したり、借用証書を作成したりするケースが考えられます。
要物性は、このような借り手を保護するために要求されるようになったとする学説が有力です。
ただ、場面に応じて、要物性は緩和されています。
具体的には、公正証書については、証書作成時点で金銭交付が無くても、公正証書に基づく金銭消費貸借契約は成立するとされていること等です。

お金を受け取っていないけど、契約書があるから返さないといけないのか等とお悩みの方は、騙されている可能性がありますので、弁護士に相談されることをお勧めします。




三重県立大学設置の要望

7月14日に、伊勢市を除き、県南部の15市町から、県立大学の設置を求める要望書が三重県に提出されたとのことです。

伊勢市が入っていないのは、おそらく市内に皇學館大学があるからなのでしょう。

設置を求める理由としては、(1)高校卒業者の約8割が大学への進学を希望している、(2)県外の大学に進学した子女が県内に戻ってくることは少なく、人口減少につながる、(3)地域の活性化にもつながる等があげられています。
特に、(2)の人口減少は切実な問題で、名古屋・大阪などの都市部から離れていることも要因と考えられます。

公立大学の根拠法規は、地方独立行政法人法という聞きなれない法律です。
同法6条2項は「地方公共団体でなければ、地方独立行政法人に出資することができない」と規定し、同法7条は都道府県知事または総務大臣の認可を受けなければならないと規定しており、県の関与は不可欠といえます。

さて、要望を受けた三重県知事は、前向きに検討すると述べつつ、財政は苦しいことや、県外への転出が減少しなければ政治責任にもなりかねないこと等を述べ、慎重な姿勢を示しています。

この少子化の時代、ただ大学を新設するだけで十分な志願者が集まるかは疑問であり、その大学独自の魅力・強みを打ち出していく必要があるでしょう。
それと関連して、学部の教員に優秀な人材を集めることができるかどうかも、重要となるでしょう。
今後、議論がどのように進められるか、注視したいと思います。

侮辱罪の厳罰化

7月7日から侮辱罪(刑法231条)が厳罰化され、1年以下の懲役・禁固と30万円以下の罰金に処することが可能となりました。

侮辱罪は、事実を摘示することなく、公然と人を侮辱した場合に成立します。
侮辱とは、他人に対する軽蔑の表現とされ、「アホ」「バカ」等の発言が典型例です。
言葉でない非言語的表現も含まれます。

同じような罪として名誉棄損罪(刑法230条、法定刑は3年以下の懲役・禁固もしくは50万円以下の罰金)がありますが、こちらは事実(社会的評価を害するに足りるもの)を摘示することが要件です。

侮辱罪と名誉棄損罪は、ともに人の名誉が保護法益と解されています。
にもかかわらず、名誉棄損罪に比べ侮辱罪の法定刑が著しく低かったのは、事実の摘示がない分、法益侵害の程度が低いと解されていたからではないかと思われます(※ 私見)。

しかし、近年、ネット上における誹謗中傷の悪質さが社会問題となり、精神的ダメージを負った被害者が自殺に至るような事例が生じたこと等が契機となって、この度の厳罰化に至りました。

実際、事実摘示をせずとも、名誉を著しく毀損することは可能であることから、名誉棄損罪との比較において刑が軽すぎたという指摘は一理あると思われます。

ただ、事実を摘示しない侮辱行為は、喧嘩や議論の白熱化を経て、思わずやってしまったというケースも、相当数あると思われます。
これらがすべて立件対象にされるとなったら、日常生活・言論活動に不相当な萎縮効果をもたらす懸念があります。
これからの話になりますが、適切な運用を望みたいです。


業務上横領

三重県南伊勢町の町立南伊勢病院で会計を担当していた男性職員が、約1億5000万円を着服していたという疑惑が報道されています。

仮にこれが事実で、前記金額を弁償できない場合は、業務上横領罪(刑法253条、10年以下の懲役)として起訴され、初犯であっても、被害額の大きさから実刑になる可能性があると思われます。
未弁償の被害金額は、財産犯の罪の重さを決める大きな要素となるからです。
前記職員は、アイドルへの推し活やゲーム課金につぎ込んだとのことであり、どれだけ残っているかは?ですが。

会計担当者のように、直にお金を扱う業務に携わる人は、頻繁に着服・横領の誘惑にさらされています。
そして、残念ながらその誘惑に負けてしまう人は後を絶ちません。
実際、横領に関する報道は、よく目に耳にするところです。

団体・企業は、経験上、前記のようなことがわかっているので、複数人で事前・事後にチェックする、システム上担当者個人で動かせる金額の上限を定める、短期スパンで人事異動を行う等の対策をとっています。
完璧な対策はあり得ませんが、担当者に横領はできないと思わせる、横領されても大きな金額を動かせないようにすることが大事なのでしょう。

本件の報道によれば、前記職員は、約3年前からほぼ一人で担当していたとのことであり、対策がいささか不十分だったのかもしれません。

簡易裁判所で時々見る光景

我が国では、訴訟物の価額が140万円を超える場合は地方裁判所、140万円を超えない場合は簡易裁判所が第一審となります(※ 一部例外あり)。

簡易裁判所の扱う事件は金額が小さいこともあって、弁護士保険などがなければ、弁護士を代理人に立てると費用倒れになることが少なくありません。
そのため、地方裁判所に比べて、本人が訴訟行為をしている光景を見ることが多いです。

当事者本人は、事件に直接かかわっていることから、事件に対する理解は代理人以上です。
もっとも、法律論や裁判のルールについては未熟なため、その知識・経験談を上手くいかせていない場合は多々あります。
当事者が、声を大にして主張するだけでは足りません。
相手に対する怒り・憎しみから、裁判所には準備書面・証拠を出すが、相手方には見せないと主張している場面に出くわしたこともあります。

裁判長は、中立の立場を維持しつつ、そのような当事者本人をうまく誘導して、言っていることを法律論として解釈したり、証拠を提出するよう促したりしています。
また、感情的になっている当事者に対しては、なだめすかしながら、審理を進めるよう苦心しています。

法的素養とは別次元の当事者に対する指導力・指揮能力は、前述の事情から特に簡易裁判所裁判官に求められているように見受けられます。
裁判官も大変だなと思うところです。

電子計算機使用詐欺罪について考えてみる

4630万円の誤振込とその後の逮捕によって、一躍トレンドとなったのが逮捕の被疑事実である「電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)」です。
同じようなことが三重県でも起きないとは限らないため、検討してみたいと思います。

「電子計算機」とは余り聞きなれない用語ですが、それ自体が自動的に情報処理を行う電子装置として一定の独立性を有し、財産権の得爽、変更に係る電磁的記録の作出などを行い得るものとされます。
ますますよくわからなくなった気がしますが、オフィスコンピュータやパーソナルコンピュータ、制御用コンピュータが代表例とされます。

何が「使用詐欺」にあたるかは、条文を読んでもピンときにくいため、本罪にあたるとされた具体例を挙げていきたいと思います。
事例1)クレジットカードの名義人氏名を冒用して、ID・パスワード等を入力送信して、電子マネーの利用権を取得する。
事例2)還付金を受領できると騙し、振込送金の意思のない被害者にATMを操作させ、虚偽の情報を与えて、自分たちの口座に振込送金をさせる。
事例3)プログラムをほしいままに改変し、架空の振込送金の情報を与える。
事例4)パチンコ店で用意した変造カードを自動玉貸装置に挿入し、虚偽情報によって玉を排出させる。

これらの事例を見ていくと、被疑者・被告人が虚偽の情報・不正な指令を与え、それによって自らの預金残高・金員・財物を獲得しようとしているのがわかります。

しかし、今回の4630万円が被疑者の口座に当初振り込まれたことについて、被疑者は何らの関与もしていません。
被疑者は、4630万円もの振り込みがあったことに気づき、この利益を事後的に確保しようと動いたに過ぎないのです。

4630万円が法的に不当利得と評価されるのは明白としても、金融機関のシステム上、4630万円は被疑者の口座に存在することを前提に処理されます。
だとすると、被疑者が他の口座に振込送金することが、虚偽の情報・不正な指令を与えたとまで言えるでしょうか?

本件は額が大きいため、それによるインパクトが独り歩きしている感が否めません。
誤振込が40万円であった場合、ここまで騒がれているでしょうか?
被疑者は逮捕されたでしょうか?


前述のように、非常に悩ましい問題が存在していると思われます。
今後の展開を注視したいです。

三重県警における事件指導官・刑事課長会議について

報道によれば、標記の会議が13日に開かれ、その中で、三重県警本部長より、取調べについて基本的人権の尊重と公正誠実に行うべきこと等が訓示されたとのことです。

警察官の犯罪捜査における心構えは、犯罪捜査規範(昭和32年7月11日公布)に詳細に規定され、公開もされています。
前記訓示に関するものとしては、同第2条2項「捜査を行うに当つては、個人の基本的人権を尊重し、かつ、公正誠実に捜査の権限を行使しなければならない。」がそのまま当てはまります。

警察官にとっていわば当たり前のことを、指導者レベルの会議において訓示しなければならないこと自体、基本的人権の軽視や不公正・不誠実な捜査がはびこっていることを示唆していると解されます。

実例をあげましょう。
同168条1項は「取調べを行うに当たつては、強制、拷問、脅迫その他供述の任意性について疑念をいだかれるような方法を用いてはならない。」と規定し、同168条3項は「取調べは、やむを得ない理由がある場合のほか、深夜に又は長時間にわたり行うことを避けなければならない。・・・」と規定しています。
しかし、ここ2年間に限っても、被疑者から次のようなことを聞かされたことがあります。
・弁明を頭ごなしに否定し、嘘をつくな等と言われた。
・勾留中、被疑事実を否認していたが、連日、朝から夕方まで、同じ内容の質問を延々と繰り返された。

これらの実例から鑑みるに、一部の警察官は「自分の考えるストーリー」で事件を処理することに邁進し、犯罪捜査規範を軽視・無視しているのだと推認されます。

警察官になる以上、犯罪捜査規範を読んでいない人はいないと思われますが、試験や考査のために勉強するのではなく、実際の警察実務において活用していただきたいと切に願います。

言葉の説得力

同じことでも、正しいことでも、言う人によって、聞く気になったり、ならなかったりします。
後者をよく言い表す突っ込みとして、「お前が言うな」というのがあります。

「お前が言うな」の具体例をいくつか挙げてみたいと思います。
①Aさん(※ 待ち合わせ時間によく遅れてくる)から、「1秒たりとも無駄にしてはいけない」と言われた。
②Bさん(※ よく体調を崩す)から、「きちんと体調管理をするように」と言われた。
③Cさん(※ よく人の悪口を言う)から、「悪口を言うと自分に返ってくるからやめた方がいい」と言われた。

A~Cさんの言うことは、基本的に正しいことだと思われます。
しかし、彼らから言われても、全然説得力が感じられませんよね。
人に訓示する前に、自分を何とかしろと言いたくなります。

他方、いつも待ち合わせ時間5分前には来ているDさんから①を、風邪一つひかないEさんからは②を、悪口を一切言わないFさんから③を言われた場合は、どう感じるでしょうか?
全然説得力が違いますよね、たいていの人は聞く気になるのではないかと思われます。

弁護士業務においては、依頼者を説得したり、時には耳の痛いことを言わなければならないときもあります。
その際、依頼者に「お前がいうな」と思われては、正しいことでも聞いてもらえません。
常日頃より、気を付けて過ごしたいと思います。

多重事故発生

報道されていますように、16日午前8時40分ごろ、三重県四日市市川北町の伊勢湾岸自動車道下り線で、車両合計8台が絡む多重事故が発生しました。

事故の発端は、渋滞中の最後尾車両に、大型トラックが追突したというものです。
そこから、いわゆる玉突き事故の態様で被害が拡大しました。

現場は高速道路で、見通しを遮るものはありません。
時間帯も早朝で、照度に問題はなかったと思われます。
だとすると、事故原因は、ひとえに前記大型トラック運転者の前方不注視と考えられます。
普通に前を見ていれば容易に渋滞に気づく状況から、居眠りや携帯電話等のながら運転をしていた可能性も考えられます(※ 本人証言はありません)。
高速道路で相当な速度を出していたこと、ブレーキのタイミングが遅れたこと、加害車両の車体・車重が大きかったこと等も、被害を拡大させた原因でしょう。

映像を見るに、最後尾の車両は大破し、原形をとどめていなかったほか、他の車両の損害も著しいものでした。
ただ、本件事故による死者はおらず、不幸中の幸いというほかありません。

加害者本人は、自賠法・民法に基づく賠償責任を負うほか、行政罰・刑事罰の対象となることは確実です。
加害者が業務中であれば、勤務先にも賠償責任が発生します。
おそらく任意保険・共済には加入していると思われますが、真摯な対応を願います。

被害届が出されていない状態における弁護人活動

被害届が出されていない状態で、被疑者から弁護人として対応して欲しいと依頼された場合、常に頭によぎることがあります。
それは、被疑者が弁護士に頼んだこと等が、被害者の怒りを買い、被害届を出すような事態にならないかということです。
なお、既に被害届が出ていたり、弁護士に頼むよう被害者側から言われたりしている場合は、このような心配をすることはありません。

刑事弁護の委任を受ける場合は、それなりの費用をいただきますので、成果を出すどころか、マイナスをもたらしてしまっては、頼んだ意味がないと言われかねません。
初犯で軽微な犯罪事実であれば、被害届を出されても不起訴になるだろうという見通しが立ちますが、前科があったり、重大な犯罪事実であれば、最低でも罰金刑という見通しになります。
罰金刑は前科にあたるため、被疑者が労働者であれば、雇用契約や就業規則に基づく懲戒処分があり得ます。

特に、相手方から提示された賠償金の減額交渉を行うような場合は、より被害者の怒りを買いやすいので、被疑者に前記リスクを説明して検討するようにしています。

これといった明確な正解はありませんが、事件ごとの特徴を把握し、十分な説明を行った上で、対処するよう心掛けたいと思います。

被疑者の黙秘権の法的根拠と取調べの実態

令和4年3月10日、津地裁にて国賠訴訟の判決がありました。

事件の概要は、窃盗の被疑者に対して、取調べにあたった鳥羽警察署の警察官が「泥棒に黙秘権があるか」と、黙秘権を否定する言動をとったというものです。

本判決では、黙秘権を否定したこと等についての違法性が認定され、三重県に70万円の支払いを命じました。

被疑者の黙秘権は、刑事訴訟法198条2項にて、取調べの際は、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならないと規定されています。
ここからわかるように、供述を強要されない権利です。

黙秘権を否定し、供述を義務付けた場合、それによって得られた供述は証拠能力を否定されます。
刑事裁判において、公訴事実を裏付ける証拠として、当該供述調書は使えなくなるということです。
加えて、警察官の取調べは、典型的な公権力の行使に当たるため、本件のように国賠訴訟の対象にもなります。

警察官が、本件のように露骨に黙秘権を否定することはあまりなく、あったとしても「そんなことは言っていない」等と認めないことがほとんどです。
取調べは基本的に録音できませんし、周囲は警察関係者ばかりなので、違法な取調べがあったことを被疑者が立証するのは簡単ではありません。

口頭で黙秘権の否定まではしていないものの、連日長時間同じ内容の取調べを行い、被疑者を疲労させて自白させようとするやり方は、時々見受けられます。
黙秘すると言っても取調べを止めてはくれないし、拒否も困難であることから、被疑者には相当な負担となります。

本件やそれに準じるような違法な取調べが根絶されることを切に願うとともに、弁護活動においても目を光らせていきたいと思います。

三重県志摩市におけるパワハラ事件

報道によれば、市消防局の職員3名に対して、次のような懲戒処分を行ったとのことです。

40代の消防司令長A(停職3カ月)
平成24年―令和3年に、少なくとも10人の部下職員に対して脇腹を殴ったり脚を蹴るといった暴力を振るい、日常的に「あほ」「ばか」「役立たず」といった暴力的な発言を繰り返したり、特定の部下職員に対して容姿や学歴を馬鹿にする発言をした。

40代消防指令補B(停職1カ月)
平成31年4月―令和3年9月にかけて、3人の職員に最高6時間に及ぶ長時間の叱責や説教を繰り返していた。

40代消防司令C(減給1カ月・1/10)
平成22年―28年度にかけて、部下に深夜や未明の時間帯に自身の食事会の送迎をさせたほか、文書の作成など私的な用事を依頼し、断った職員を無視した

パワーハラスメント(パワハラ)とは、①優越的な関係を背景とした言動、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、③労働者の就業環境が害されるもの、①~③すべてを満たすものと考えられています。
厚生労働省HPではより詳細な説明がなされていますので、関心がある方はご確認ください。

A・B・Cの事例が、前記①~③の要件を満たすものであることは明白です。
特に、A・Bについては、傷害罪(刑法204条)、暴行罪(208条)、侮辱罪(刑法231条)といった刑法犯に該当するとも考えられます。
長期間繰り返されていることも併せて考慮すると、処分内容が軽すぎるのではないかという批判もありうるところでしょう。

長期間発覚しなかった原因としては、消防組織において、上司が部下にパワハラ行為をしても問題ない・仕方ないという空気・雰囲気が出来上がっていて、被害に遭った部下もそれに毒されていたのではないかと思料します。

このような理不尽な被害に対し、じっと我慢する必要はありません。
社内に相談窓口があれば、速やかに通報し、改善を図るべきでしょう。

相談窓口がない、通報したが何も変わらないという場合は、弁護士等社外の専門家に相談してみることをお勧めします。
加害者がしらばっくれることも想定し、可能であれば、写真・録音等の機械的証拠をとっておくべきでしょう。