特別代理人1

遺産分割の当事者の全員が成人である場合は,円満に協議が成立するのであれば,遺産分割協議書を作成し,不動産の名義変更を行い,手続を完了させることとなります。
他方,遺産分割の当事者に未成年者が含まれる場合は,厄介な問題が生じます。

未成年者が法律上の行為を行う場合には,親権者が代わりに行うことが多いです。
たとえば,親権者は,未成年者に代わって,売買契約を行ったりします。
遺産分割についても,法律上の行為なりますので,原則として未成年者では遺産分割協議を成立させることができず,親権者が代わりに遺産分割協議を成立させることとなります。

ただ,民法は,親権者と未成年者との間で利害が対立する場合には,親権者は未成年者の代わりに法律上の行為を行うことができないと定めています。
遺産分割の当事者同士は,一方がある財産を取得すれば,他方はその財産を取得できないという関係にありますので,多かれ少なかれ,利害が対立しているものと扱われます。
いくら当事者同士が仲が良かったとしても,法律上は,利害が対立する者同士という扱いがされるわけです。
ですから,親権者と未成年者がともに相続人になる場合は,利害が対立するものと扱われ,親権者は,原則,未成年者の代わりに遺産分割協議を成立させることができないということになるのです。
たとえば,夫が亡くなり,妻と未成年の子が相続人となっている場合には,このような問題が起きます。

このように,親権者と未成年者との間で利害が対立する場合には,未成年者のために特別代理人を選任し,特別代理人に法律上の行為をしてもらうことになります。
特別代理人を選任するためには,裁判所で特別代理人選任審判申立をしなければなりません(なお,審判申立自体は,親権者が行うことができます。)。
選任された特別代理人は,恣意的な合意を行うことはできず,法律上妥当な内容の遺産分割を行うこととなります。
特別代理人には,弁護士が選任されることが多く,無報酬というわけにはいきませんので,報酬の負担も求められることとなります(通常は,選任審判申立時に予納)。

このように,当事者に未成年者が含まれているだけで,遺産分割の手続は厄介なものに様変わりします。
このため,弁護士として手続に関与する場合には,特別代理人を選任することなく遺産分割の手続を進めることができないかと,考えを巡らせてしまうこともあります。

調停での電話会議2

調停を利用する代表的な場面としては,最初に離婚調停が挙げられると思います。
他にも,養育費調停等,様々な種類の調停がありますが,私が扱うことが多いのは,遺産分割調停です。

遺産分割調停についても,電話会議を利用することが認められています。
遺産分割の場合,相続が複数回起きている案件等では,相続人が遠方にいるため,毎回,全員に出席していただくのが厳しいこともあります。
このような場合には,遠方の当事者については,調停期日への出頭を求める回数を減らす,調停に代わる決定を用いる等,様々な工夫が行われています。
この点,現行法下では,電話会議等を用い,遠方の当事者や弁護士とやり取りするという選択肢を用いることもできるようになったのです。

ただ,遺産分割調停については,図面を示す等,相対してやり取りしなければ情報の共有が難しいことも,多々あります。
こうしたデメリットを考えると,遠方の裁判所であっても,直接出向いた方が良いのではないかということになります。

ところで,私自身は,現行法が施行されて以降,一度,遺産分割審判の段階で,電話会議を用いたことがあります。
当事者が誰も管理していない土地についての遺産分割の案件であり,調停委員に図面を示す等して説明する必要が小さかったということもあり,その案件については,さほど支障を感じませんでした。
他にも,電話会議の利用を試みましたが,裁判所の設備上の理由により断られたこともあります。

調停での電話会議1

家事事件手続法が施行されて以降,法律上,調停手続でも,電話会議等を用いることが認められるようになりました。

家事事件では,遠方の裁判所が管轄になることがしばしばあります。
たとえば,遺産分割調停や離婚調停は,原則として,相手方の住所地の裁判所が管轄裁判所になります。
また,遺留分減殺請求訴訟は,原則として,被相続人の最後の住所地の裁判所が管轄裁判所になります。
相手方が遠方に住んでいる場合は,一番近い松阪市の裁判所ではなく,遠方の裁判所へ行かなければならないこととなります。
このため,家事事件手続法が施行される前は,遠方の裁判所が管轄裁判所になる場合は,その裁判所まで毎回出向かなければならないことになっていました。

この点,家事事件手続法が施行されて以降は,法律上,電話等で調停手続を進めることができるようになりました(ただし,調停成立時は裁判所へ行く必要があります。)。
ただ,実際には,本当に電話会議で進めて行くべきかどうか,悩ましい場面が多かったりします。

相続税についての勉強会

相続税についての勉強会に参加してきました。
実際の申告実務でどのような処理を行うのが一般的なのか等,弁護士業務に限らず,様々な情報共有ができたように思います。

申告の場面では,生前に相続人に多額の預金が渡されている場合,どのような説明を行うかを検討しなければならないことがあります。

生前に相続人に譲渡された預金について,贈与税の申告がされている場合は,贈与と扱うこととなるのは,当然です。
この場合,贈与が相続開始前の3年以内にされているならば,相続税の課税対象となるため,申告書の第14表に贈与財産として挙げることとなります。

実際には,相続人に対して生前に多額の預金が渡されているにも関わらず,贈与税の申告が行われていない場合があります。
このような場面で,贈与があったとの説明を行うと,贈与税本税が課税されるとともに,贈与税の申告がされていなかったとして,無申告加算税(15~20%)等が課せられる可能性があります。
このような場合,相続人に渡された預金について,どのような申告を行うかが問題になることがあります。

1つの処理の仕方としては,相続人に渡された預金は,実質的には被相続人の預金であるとして申告することが考えられます。
遺産分割調停や遺産分割審判においても,名義上は相続人に渡されたこととなっているものの,実際には,被相続人が印鑑や通帳を管理している場合に,実質的には被相続人の財産であるという主張がされることがあります(いわゆる名義預金)。
相続税申告の場面でも,同じように,実質的には被相続人の預金であるとして,遺産に含めることがあるのです。
この場合には,名義は相続人に代わっているものの,実質的には,被相続人の財産のままであったということになるため,名義変更は贈与には当たらない,つまり,贈与税が課税されることはなく,無申告加算税(15~20%)等が課されることもないということになります(ただし,遺産に含まれるという処理になるため,相続税の課税対象にはなります。)。

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小規模宅地等の特例2

それでは,どのような内容の遺産分割協議であれば,小規模宅地等の特例を用いることができるのでしょうか。
被相続人の自宅不動産につき,遺産分割協議を行うときは,おおむね以下の場合に,80%減の特例を用いることができるとされています。
① 配偶者が自宅不動産を取得
② 被相続人と同居していた親族が自宅不動産を取得
(他には,持家を有しない一定の親族についても,特例を用いることができます。)

たとえば,相続人が,被相続人の妻,被相続人の子(被相続人と同居していない)である場合を考えたいと思います。
この場合,被相続人の自宅不動産を,被相続人の子(被相続人と同居していない)の名義にしてしまうと,基本的に,80%減の特例を使うことができなくなってしまいます。
他方,被相続人の自宅不動産を,被相続人の妻名義にした場合,80%減の特例を用いることができることとなります。

このように,どのような遺産分割協議書案を提示するかによって,相続税の金額が大きく変わってくる可能性がありますため,弁護士の仕事も,相続税と無縁であると考えることはできません。
法律業務に携わる以上,幅広い知識を持たなければならないと痛感します。

小規模宅地等の特例1

今年から,相続税の基礎控除額が引き下げとなり,相続税が大幅に増税されることとなります。
このため,相続税が課税される割合が,去年までと比べ,大きく増加することとなります。
今年からは,弁護士の仕事についても,これまで以上に,相続税を見据えつつの事件処理が求められることとなるように思います。

弁護士として相続の案件に関わる場面としては,遺産分割が最も代表的であると思います。
遺産分割の案件では,弁護士の側から,相手方に対して,遺産分割協議書案を提示することが多々あります。
相続税が課税される案件では,できれば,相続税を見据えた遺産分割協議書案(相続税の額が少なくなる案)を提示したいものです。
遺産分割協議書案について,税金面での検討が不十分であったため,相続税の金額が大きくなるといった事態は,できれば避けたいものです。

この点,小規模宅地等の特例は,しっかりと押さえておきたい制度だと思います。
小規模宅地等の特例は,被相続人等が居住していた不動産について,一定の場合に,不動産の評価額が軽減される制度です。
たとえば,被相続人の自宅不動産については,一定の面積(基本的に330㎡)について,不動産の評価額が80%減額されることとなります。
例として,多額の遺産が存在し,相続税の累進税率のうち,40%部分までが適用されている場合に,2000万円の評価額がついている300㎡の自宅不動産があったとします。
この場合に,小規模宅地等の特例を用いれば,2000万円×80%(評価額減)×40%(税率)=640万円もの税負担が軽減されることも,あり得るということになります(ただし,評価額減により,累進税率の30%部分までが適用されることとなる場合は,軽減幅は小さくなります。)。
このように,特例を用いるかどうか次第で,相続税の税額が大きく軽減される可能性があるのが,小規模宅地等の特例です。

ただし,遺産分割の内容次第では,特例を使えたり使えなかったりするため,注意が必要です。
また,申告期限内に遺産分割協議が成立している等の要件もありますので,紛争性が大きく,遺産分割協議が成立しない場合には,特例を用いることができない場合もあります(3年以内に遺産分割が成立する見込であるとの届出を行う等と手立てを考える必要があります。)。

手形小切手法の書籍

手形小切手法について,分かりやすい書籍はないものでしょうかと聞かれたことがあります。
私が知る限りでは,分かりやすい書籍はありません(あくまで,個人的感想ですが)。

いわゆる基本書については,学説上の争いについて延々と書かれているものがあり,実務上必要な知識を入手するという点からは,最初に読む書籍としてはお勧めしにくいと思います。

最近は,通説や実務だとこのようになっていると書き,学説上の争いについては最小限しか書かない書籍もあります。
ただ,このような書籍についても,法制度を第三者視点で眺める形のものが多く,たとえば,振出人に対して請求する立場になった場合,どのような点に留意すれば良いのか,請求できなかった場合,どのような救済措置があるのか等,実際に制度を利用する立場に立った場合,どのように法制度を使えば良いのか,なかなか把握しずらいことが多いように思います。

基本書ではない,実務家向けの書籍については,それなりに詳しく書かれているもので,広く流通しているものが,あまりないように思います(少なくとも,松阪市でも簡単に入手できる書籍がないことは,確かだと思います。)。

結局,手形小切手法については,一度基本書で網羅的に法制度を理解するか,実務的なところに絞って知識を得るようにするかのどちらになるのではないかと思います。

年金分割3

離婚協議書を作成する際,しばしば,「当事者双方は,本条項に定めるほか何らの債権債務のないことを相互に確認し,名目の如何を問わず,金銭その他一切の請求をしない。」との条項を入れることがあります。
いわゆる清算条項です。
この条項を入れた場合,協議書で明確に定められたもの以外には,原則として,法的請求を行うことができなくなてしまうこととなります。
このような条項を入れることで,当事者間の紛争はすべて終了しましたと宣言することになるのです。

ただ,年金分割については,制度が十分に認知されていないため,離婚協議書上,取り決めがなされないまま,協議書に清算条項を入れてしまうことがしばしばあります。
このような場合,年金分割についても,清算条項により請求ができなくなってしまうのでしょうか。

結論としては,清算条項を入れたとしても,年金分割をしないとの条項を入れていないのであれば,年金分割を行うことはできると言うことになります。
年金分割の請求は,元配偶者ではなく,公的機関に対して行うものです。
ですから,元配偶者との約束だけでは,年金分割を行うことは妨げられないとの理屈になるのです。

ただし,離婚協議書において,あえて,年金分割をしないとの条項を入れた場合は,いわゆる不起訴の合意に当たるとされ,年金分割を行うことができなくなってしまうと言われています。

このことは,離婚調停についても同様であるとされており,年金分割をしないとの条項を入れず,清算条項を入れただけである場合は,年金分割を行うことは妨げられず,あえて,年金分割しないとの条項を入れた場合は,年金分割をすることはできるとされています。

以上のような理屈から,弁護士が入る事案であっても,年金分割の件で協議が進まなくなることを避けるため,あえて,年金分割以外についての合意を行い(多くは,この段階で清算条項を入れると思います。),離婚成立後に年金分割審判申立を行うこともあるものと思います。

年金分割2

年金分割は,協議によって行うことができます。
離婚する夫婦間で分割割合を決め,決まった割合に基づき年金分割の手続を進めるのです。

ただ,離婚について法的な争いがあった場合等,合意が困難な場合もあります。
この場合には,家庭裁判所で調停・審判を行い,分割割合を決めることができます(協議が難しい場合,調停でも決着がつかないと見込み,最初から,審判申立をしてしまうことが多いように思います。)。

年金分割には,離婚成立後2年以内に手続を行わなければならないという制限があります。
協議が困難な場合には,年金分割審判申立を検討することになりますが,この場合には,離婚成立後2年以内に審判申立を行う必要があります。
また,年金分割審判が確定してから1か月以内に,年金事務所において,年金分割の手続を行う必要もあります。
年金事務所での手続に際しては,自分と元配偶者の戸籍等,必要書類を揃えておく必要があります。
本籍地が遠くである場合,戸籍を郵送で取得するだけで時間がかかってしまいますので,計画的に行動する必要があります(松阪市から関東の戸籍を郵送で取得する場合,速達を使ったとしても,最低でも1週間はかかってしまいます。)。

弁護士として審判手続を受任する場合には,このような期間制限の存在についてもお伝えしています。
場合によっては,戸籍等の必要書類の取得,年金事務所での手続の代理等もさせていただいております。

年金分割1

離婚の際には,慰謝料や財産分与等,財産に関する取り決めを行わなければならないことは,広く周知されつつあります。
ただ,年金分割については,年金事務所へ出向いて手続を行わなければならない(代理人を立てない場合)等,特別な手続を行う必要があるためか,離婚に際して取り決めが行われないことが多いように思います。

年金分割は,配偶者の年金保険料の納付実績を分割する制度です。
相手方が厚生年金や共済年金に加入しており,自分より多い保険料を払っていた場合には,将来,相手方が受け取る年金が,自分が受け取る年金よりも多くなります。
この場合に,相手方が納付した年金保険料の一部を,自分が納付したものとし,将来受け取ることができる年金を多くする制度が年金分割です。
いわゆる3号被保険者の場合は,合意を行う必要はありませんが,そうでない場合は,離婚する夫婦間の合意により,分割割合等を決めることになります。

年金分割の手続を行うには,年金事務所に赴き,手続を行う必要があります。
このとき,離婚に際して作成した公正証書や,離婚調停の調書等,必要書類を提出する必要があります。
弁護士会の相談等では,しばしば,年金分割の手続の具体的な進め方について,質問されることがあります。