月別アーカイブ: 2015年 12月

遺言と登記1

登記を行う場面では,登記が単独申請でできるのか共同申請でできるのか,共同申請の場合は誰の協力を得なければならないのかが問題になることがあります。

売買の登記の場合,売主と買主が共同で申請をしなければ,売買の登記を行うことができません。
このため,売主と買主がともに手続に協力すれば問題は生じないのですが,何らかの事情でどちらかの協力を得られなくなってしまった場合,すぐに売買の登記を行うことができなくなってしまうのです(もっとも,登記の変更を求める裁判を行い,勝訴判決を得たのであれば,単独で登記申請を行うことができますが)。

登記が絡む案件の場合,弁護士と相手方との合意が成立し,書面を交わしただけでは,事案が解決したとは言えないことが多いです。
登記を変更するのが最終目標である場合は,相手方と合意書を交わしたとしても,登記を変更できなければ,事案が解決したとは言えないのです。
このような場合に,登記が共同申請であり,相手方の協力を得られないため,登記ができませんとなってしまうことは避けなければならないのです。
ですから,弁護士として活動する以上,登記が単独申請なのか共同申請なのか,共同申請の場合は誰の協力を得なければならないのかについて,敏感にならなければならないのです。

遺言に基づく登記の場合,相続人に対して「○○の土地を相続させる」という内容の遺言があるのであれば,登記は単独申請になります。
ですから,不動産を取得した相続人が単独で登記を行うことができるのです。

これに対し,相続人に対して「○○の土地を遺贈する」という内容の遺言の場合は,登記は共同申請になります。
このため,不動産を取得した相続人は単独で登記を行うことができず,相続人全員の協力を得なければ,登記を行うことができなくなってしまいます(遺言執行者の指定がない場合)。
具体的には,相続人全員に委任状に実印を押印してもらい,印鑑証明書(発効後3か月以内のものに限る)を交付してもらう必要があることとなります。

さらに,不動産を受け取るのが相続人以外の人である場合は,「○○の土地を遺贈する」という遺言を作成することができ,登記は共同申請になります。
文面上,相続人以外の人に対し,「○○の土地を相続させる」という遺言を作成したとしても,「○○の土地を遺贈する」という趣旨の遺言であると解釈され,結局,共同申請を行う必要があることとなってしまいます。

このように,遺言で名義変更を行う場合,相続人が相続させる遺言により名義変更を行う場合は,単独申請になり,不動産を取得した者だけで名義変更を行うことができますが,そうでない場合は,共同申請になり,相続人全員の協力を得る必要があることとなってしまいます(遺言執行者の指定がない場合)。
共同申請で相続人全員の合意を得られない場合は,訴訟を提起し,不動産の名義変更を認める判決を得た上で,名義変更を行う必要があるということになります。

贈与税の配偶者控除3

次のような所有不動産があったとします。

1 土地の評価額が2500万円
2 土地の上に,自宅の建物と,アパートが存在(広さは同程度とする)
3 自宅の建物の評価額が500万円

このような場合に,土地+自宅建物の評価額は,3000万円です。
それでは,土地の共有持分3分の2と,自宅の建物の共有持分の3分の2を贈与することとした場合,(2500万円+500万円)×3分の2=2000万円として,配偶者控除の枠内と扱ってもらうことができるのでしょうか。

上記と似た事例で,裁判所は,土地のうち,半分は自宅の建物の土地として,半分はアパートの土地として利用されているため,(夫婦の)居住用不動産と評価することができるのは,半分だけでああるとしました。
つまり,評価額2500万円の土地のうち,自宅の建物分の1250万円については(夫婦の)居住用不動産になりますので,共有持分3分の2の贈与は配偶者控除の対象になります(贈与税は課税されない)が,アパート分の1250万円については(夫婦の)居住用不動産にならないため,共有持分3分の2の贈与は配偶者控除の対象にならないこととなるのです。
この場合,単純計算でも,約164万円の贈与税が課税されることとなるのです。

このように,自宅の土地上に自宅の建物以外の建物が乗っかっている場合,共有持分の贈与では,想定通りに配偶者控除を使えないことがあるのです(他にも,子ども世代の建物が乗っかっている場合も,注意が必要だと思います)。
ですから,このような場合は,いくらかの手間と費用がかかるとしても,土地を分筆した上で贈与することをメインで考えたりします。

贈与税は,一度課税されてしまうと,税額が多額になりますので,実際に財産を動かすに際しては,注意が必要です。
弁護士として活動する場合であっても,事案に関係する税金については,代表的な裁判例を把握しておきたいものです。