月別アーカイブ: 2017年 9月

特定遺贈と包括遺贈1

相続人以外に財産を引き継いでほしいとの希望から,遺言が作成されることがあります。
このとき,専門家が遺言の作成に関与すると,遺言の文言としては,おおむね,「○○を○○に遺贈する」との文言が用いられることとなります。

遺贈の仕方には,特定遺贈と包括遺贈の2種類があります。
特定遺贈は,特定の財産を遺贈することを言います。たとえば,三重県○○市○○町○○番の土地を遺贈する,○○銀行の普通預金(口座番号○○)を遺贈するといったものになります。
包括遺贈は,遺産の全部または一定割合を遺贈することを言います。たとえば,遺産をすべて遺贈する,遺産の2分の1を遺贈するといったものになります。
一定割合を遺贈する場合(たとえば,遺産の2分の1を遺贈する場合)は,どの遺産を誰が取得するかを確定するため,遺産分割協議等を行う必要があります。

遺贈の場合は,相続人に相続させる旨の遺言があった場合と異なり,登記申請については,受遺者(遺贈を受ける人)と相続人の共同申請になり,相続人全員から実印,印鑑証明書の提供を受ける必要があります。
このことは,特定遺贈であっても包括遺贈であっても,変わりがなく,いずれも,相続人全員の協力を得なければ,登記の手続を進めることができません。
一部の相続人でも協力を得ることができなければ,登記を行うことができないこととなります。また,連絡をとることができない相続人がいる場合も,同様の問題が生じることとなります。
どうしても相続人全員の協力を得られない場合は,協力を得られなかった相続人を相手として,所有権移転登記手続請求等の訴訟を行い,判決を得る必要があることとなります。

登記に際し,相続人全員の協力を得られないかもしれないという懸念があるのであれば,遺言で遺言執行者を指定することを検討する必要があります。
この場合は,受遺者(遺贈を受ける人)と遺言執行者の共同申請により,登記の手続を進めることができます。
受遺者(遺贈を受ける人)自身を遺言執行者に指定することもでき,この場合は,受遺者兼遺言執行者として,1人で登記の手続を行うこともできます(もっとも,遺言執行者に就任した場合は,民法の規定により,相続人に対して財産目録を交付する等,相続人とのやり取りを行う必要が生じることとなります。このため,相続人との紛争が懸念される場合は,第三者を遺言執行者に指定した方が,スムーズに手続を進められるかもしれません。)。

法定相続情報証明制度2

法定相続情報証明制度が導入されて3か月ほどが過ぎましたが,まだ,この制度を利用する機会がありません。

現時点では,相続税申告については法定相続情報証明制度を利用することができないようです(三重県内の税理士会の研修会で,このことに言及されたことがあったそうです。)。
預金払戻しの際,法定相続情報証明制度の利用を認めるかどうかについては,各金融機関で対応がばらばらのようです。

個人的には,法定相続情報証明制度を利用したとしても,結局は,相続関係を特定する戸籍一式を収集しなければならず,手続の手間は,これまでとそれ程変化がないように思います。

制度の導入に際しては,金融機関によっては戸籍一式の原本を還付しないことがあるため,何度も戸籍一式を集めずに,複数の相続手続を進めることができるとの説明がなされていたようです。
もっとも,現実には,ほとんどの金融機関が,戸籍一式を提出した場合であっても,戸籍一式を還付してくれますので,この点でも,あまり利点が生じていないのが実情であるように思います。

個人的には,今後,法定相続情報証明制度を利用することがあるとすれば,戸籍一式等の原本を基本的に還付してもらえない手続で,戸籍一式の代わりに法定相続情報証明を提出するという利用方法になるのではないかと思います。
思い当たる場面としては,特定の相続人以外が相続放棄の申述を行い,その後,特定の相続人が預金払戻し等の手続を行う場合です。
この場合,相続放棄の手続のため,家庭裁判所に戸籍一式を提出する必要があるとともに,預金払戻しのため,金融機関に対しても戸籍一式を提出する必要があります。
そこで,戸籍一式の代わりに,法定相続情報証明を提出することとすれば,複数回戸籍を取得しなくても済むこととなりそうです(もっとも,このような理由から相続放棄が行われるのは,やや例外的であると思います。)。