月別アーカイブ: 2017年 10月

相続放棄時の解決金について

相続人が2人で,遺産分割の結果,1人が遺産のすべてを取得し,もう1人が代償金の支払を受ける場合があります。
支払われた代償金については,税金上,相続により取得した財産に算入されることとなり,相続税が課税されることとなります。

上記と似たような例で,1人が遺産のすべてを引き継ぐ目的で,もう1人が相続放棄を行い,その代わりに解決金の支払を受ける場合があります。
いずれも,1人が遺産のすべてを引き継ぎ,もう1人が代わりにお金の支払を受けるという点では,同じであるということになります。
ところが,相続放棄を行い,代わりに解決金の支払を受ける場合には,相続放棄を行った人は,法律上,最初から相続人ではなかったこととなりますので,相続税が課税されることはないと考えられます。
それでは,相続放棄を行う代わりに支払われた解決金については,まったく税金が課税されないのでしょうか。
調べた限りでは,色々な考え方があるようですが,解決金が一時所得と扱われ,所得税が課税されるとする見解もあれば,実質的には贈与と扱われ,贈与税が課税されるとする見解もあるようです。

実のところ,弁護士として仕事をする中では,「解決金については,税金が課税されない」と説明することがあります。
たとえば,損害賠償金が解決金の名目で支払われる場合,損害賠償金については所得税等が課税されませんので,「解決金については,税金が課税されない」という説明を行うこととなります。
もっとも,厳密には,解決金は,解決金が支払われる実質的根拠を踏まえ,課税されるかどうかが判断されることとなっていますので,どのような場面であっても「解決金については,税金が課税されない」と判断することはできません。
想定外の課税がされたといった事態を避けるためにも,多額の支払を受けて和解を行う場合等には,一度,課税されるかどうかについて,確認を行うのが安全でしょう。

特定遺贈と包括遺贈2

遺贈で注意しなければならないのが,相続財産に農地が含まれている場合です。

農地を特定遺贈する場合は,遺言で特定の農地を遺贈することとしただけでは名義変更を行うことはできません。
特定遺贈の場合は,農地の名義変更に際し,農業委員会の許可を得る必要があります。
この農業委員会の許可は,簡単に出してもらえるわけではありません。
農地を受け取る人が,一定面積以上の農地を所有し,農業を営んでいる等,いくつかの条件を満たさなければ,農業委員会の許可を得ることはできません。
このため,遺言で農地を特定遺贈することとしたとしても,農業委員会の許可を得ることができず,名義変更ができないという事態に陥ることもあり得るのです。

これに対して,包括遺贈の場合は,農業委員会の許可を得る必要はなく,遺言に基づき,遺贈の登記を行うことができます。
「すべての遺産を○○に遺贈する」という遺言でしたら,農業委員会の許可を得ることなく,個々の農地を○○名義に変更することができますし,「すべての遺産を○○と××に各2分の1の割合で遺贈する」という遺言でしたら,農業委員会の許可を得ることなく,個々の農地を○○と××の2分の1ずつの共有名義に変更することができます。

以上から,遺産に農地が含まれている場合で,相続人以外の方に遺贈することを希望される場合には,将来の名義変更の際,農業委員会の許可を得ることができるかどうかを検討し,許可を得ることができないと見込まれる場合は,包括遺贈を行う内容の遺言を作成することを検討することとなるものと思います。
私自身,弁護士として遺言の作成に関与することもありますが,最終的に登記が可能かどうかについてまで,注意を払わなければならないところだと考えています。