ようこそ,弁護士 寺井 渉 のブログへ

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相続放棄と葬式費用

1 相続財産から葬式費用を支払った場合は,相続放棄を行うことができなくなるのでしょうか?
相続財産である預貯金から出金を行い,これを費消してしまうと,単純承認事由である相続財産の処分に当たり,相続放棄を行うことができなくなってしまいます。
たとえ,預貯金を費消した時点では相続債務の存在を知らなかったとしても,単純承認事由である相続財産の処分に当たる以上は,もはや相続放棄を行う余地はないこととなってしまうのです。

それでは,相続財産である預貯金を出金し,葬式費用の支払に充ててしまった場合はどうなるのでしょうか?
このような場合に,あとから相続債務の存在が明らかになったとしても,相続放棄を行うことはできなくなってしまうのでしょうか?
このように,葬式費用の支払が行われたあとに相続債務の存在が発覚し,相続放棄の申述がなされた場合に関しては,過去の裁判例は,葬式費用の支払は単純承認事由には当たらないとし,相続放棄の申述を受理しています。
その理由としては,葬儀が社会的儀式として必要性が高いものであること,葬儀を執り行うためには必ず相当額の支出を伴うものであること等が挙げられています。

以上から,相続財産である預貯金から葬儀費用の支出を行ったとしても,相続放棄が認められる可能性があることとなります。

2 相続放棄ができるかどうかの場面では,葬式費用の支出として認められる範囲はどこまでなのでしょうか?
この点については,過去の裁判例ごとに判断内容が少しずつ異なっているため,明確な回答をし難いところではあります。
過去の裁判例の中には,身分相応の遺族として当然営むべき程度の葬式のための費用については,相続財産から支出することは単純承認事由にはならないと判断したものがあります。
このような考え方に従えば,葬式費用であれば,いくらであっても支出することが許容されるわけではなく,一般的な葬式費用の範囲に収まる場合に限り,相続放棄が認められることとなります。

3 葬式費用以外に,仏壇,墓石の購入費用を相続財産から支払った場合にも,相続放棄を行うことはできるのでしょうか?
相続財産である預貯金から,仏壇,墓石の購入費用を支払ってしまった場合であっても,相続放棄を行うことはできるのでしょうか?
この点について,過去の裁判例には,仏壇や墓石を購入することは,我が国の通常の慣例であること,相続債務があることが分からない場合に,遺族が被相続人の預貯金を利用することは自然なことであることを理由に,仏壇や墓石を購入することが相続財産の処分には当たらないと,相続放棄を認めたしたものがあります。
この裁判例では,購入した仏壇や墓石が社会的にみて不相当に高額のものとはいえず,購入費用の不足分を自己負担したといった事情があることを踏まえて,仏壇や墓石の購入費用が相続財産の処分に当たるとは断定できないとの判断がなされました。

このように,仏壇,墓石の購入費用についても,相続放棄が認められる可能性はあります。
ただし,上記の事例では,一定の事情があることを考慮した上で相続財産の処分に当たるとは断定できないとの判断を行っていますので,相続放棄が認められるかどうかはケースバイケースであると考えた方が良いでしょう。

なお,当法人がお受けした案件の中には,相続財産である預貯金を戒名代,墓石の彫り代の支払に充てた行為について,相続財産の処分には当たらないとの判断がなされたものもあります。

4 相続放棄の手続を進めながら,相続財産である預貯金から葬式費用を支払うことは許容されるのでしょうか?
この点について,明確な判断を行った裁判例は見当たりません。
ただ,注意しなければならないのは,葬式費用の支出が相続財産の処分には当たらないとした裁判例も,仏壇や墓石の購入費用の支出が相続財産の処分には当たらないと判断した裁判例も,基本的には,支出した後に相続債務の存在が発覚し,相続放棄を行うことを決意するに至った案件であるということです。
したがって,相続債務の存在を熟知し,相続放棄の手続を進めている最中に,葬式費用を支出する場合とは,事案が異なっているため,同じような判断がなされるとは限らないということができます。
以上から,相続放棄の手続を進めている最中に,相続財産である預貯金から葬式費用を支払うことは,避けた方が良いという結論になります。

相続放棄と生命保険

1 相続放棄を行ったとしても,生命保険金を受け取ることができるのでしょうか?
相続放棄を行った場合には,初めから相続人ではなかったこととなります。
このため,相続人のマイナスの債務を引き継ぐことを避けられる反面,相続人のプラスの財産も引き継ぐことができないこととなります。

ところで,被相続人が亡くなった際に権利が発生するものとして,生命保険金があります。
相続放棄を行った場合に,生命保険金を受け取る権利はどうなるのでしょうか?
結論としては,受取人が誰に指定されているかによって,変わってくることとなります。

2 特定の人が受取人に指定されている場合
特定の人が生命保険金の受取人に指定されている場合には,その人が生命保険金を受け取ることができます。
この生命保険金は,生命保険契約によって受け取る権利が発生するものであり,相続財産ではありません。
したがって,その人が相続放棄を行ったとしても,生命保険金の受取人に指定されている以上は,生命保険金を受け取ることができることとなります。

3 被相続人が受取人に指定されている場合
次に,被相続人が受取人に指定されていることがあります。
この場合には,被相続人が生命保険金を受け取る権利を有していることとなります。
そして,被相続人の有している生命保険金を受け取る権利は,相続財産になります。
したがって,相続人が相続放棄を行った場合には,相続人は,生命保険金を受け取ることができないこととなります。

4 「相続人」が受取人に指定されている場合
他には,「相続人」を受取人に指定するとの契約がなされることがあります。
この場合には,生命保険契約の解釈上,法定相続人が受取人に指定されているものと扱われます。
つまり,相続放棄を行っているかどうかは度外視して,法定相続人が生命保険金を受け取ることができると解釈されています。
したがって,相続人が相続放棄を行ったとしても,法定相続人である以上は,生命保険金を受け取ることができることとなります。

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高齢者消除

戸籍については、高齢者消除と呼ばれる制度があります。

戸籍には、実際には死亡していると思われるにもかかわらず、戦時の混乱や誰からも死亡届が提出されていないこと等の理由により、生存しているままになっている方がいます。
一時期には、国内最高齢を大幅に越える150歳の方が、戸籍上、生存しているのと記載がなされていました。

これらの、特に年齢が100歳以上であり、かつ、住所が分からず生存しているかどうかを確認できない方については、戸籍の記載をそのまま放置しておくのは妥当ではないと考えられています。
というのも、これらの方が実際には亡くなっているのでしたら、今後、誰からも死亡届が提出されないままとなり、戸籍上、いつまでも生存しているのと記載され続けることとなってしまうからです。

このため、100歳以上であり、生存しているかどうかが不明な方については、市町村長が、法務局長の許可を得て、戸籍から消除することができるものとされています。
これを高齢者消除と、言います。
高齢者消除がなされると、戸籍上、「高齢者につき死亡と認定」との記載がなされます。

それでは、死亡の事実を証明できない方がいる場合には、高齢者消除の制度を用いることにより、その方が死亡したものと取り扱うことはできないのでしょうか。
「高齢者につき死亡と認定」との記載からすると、その方を死亡したものと取り扱うことができるような感じがしますが、そうではありません。
高齢者消除は、あくまでも、戸籍の事務処理上、死亡したとの認定を行うに過ぎないものであり、法律上、死亡したものとみなされるわけではありません。
したがって、高齢者消除がなされたとしても、その方を当事者としなければ、遺産分割協議を行うことはできず、不動産や金融資産の手続もできないこととなります。
このため、高齢者消除がなされ、「高齢者につき死亡と認定」との記載がなされている方がいるとしても、失踪宣告等の手続を行わなければ、その方を死亡したものとみなすことはできないこととなります。

なお、高齢者消除とは別に、認定死亡という制度があります。
高齢者消除が戸籍上「高齢者につき死亡と認定」との(まぎらわしい)記載がなされるため、混同されがちですが、認定死亡と高齢者消除はまったく別の制度です。
認定死亡は、火災や水難事故の際、これらの事故に遭った方を、行政が死亡したとの認定を行うものです。
認定死亡の対象になった方は、法律上も死亡したとの推定がなされることとなっています。

このように、制度を正確に理解しなければ、誤った結論を導きかねないため、弁護士としては、細心の注意を払いたいところです。

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死亡の事実の証明2

次に、生死が不明であることを理由として、家庭裁判所で失踪宣告の手続を行うことが考えられます。
失踪宣告がなされると、死亡したものとみなされますので、その人を手続の当事者に含む必要はないこととなります。

もっとも、失踪宣告についても、一定の問題があります。
いわゆる普通失踪の場合は、7年間生死不明であることを証明する必要があります。この証明は、警察に捜索願いを出されており、その後7年以上所在等が確認できないことによりなされることが多いです。
しかし、長期間生死不明になっている人ですと、そもそも誰も捜索願い等を出していないことがほとんどです。このため、失踪宣告の手続を進めるには、ほとんどの場合、警察に捜索願いを出すところから始める必要があります。
さらに、失踪宣告の申立を行ってからも、手続が完了するまでに1年程度の期間が必要です。
つまり、ご相談を受けてから、遺産分割協議を開始することができるまて、8年程の期間が必要となります。

また、失踪宣告がなされると、7年の期間が満了した時点でその人が死亡したものとみなされますので、新たな相続が発生することとなります。
案件によっては、次の相続人に外国籍の人が含まれることがあり、かえって相続関係が錯綜してしまい、遺産分割協議が事実上不可能になることもあります。

このため、失踪宣告も、適当な解決策にならないことがあります。

3つ目の対処として、不在者財産管理人を選任することが考えられます。
所在不明の人については、不在者財産管理人を選任することができます。
不在者財産管理人選任申立は、その人の従来の住居所(最後の住居所だけではない)か、財産所在地(遺産の所在地を含む)を管轄する家庭裁判所で行います。これらが三重県内にあるのでしたら、津家庭裁判所の本庁か該当する支部が管轄を有することとなります。
不在者財産管理人については、遺産分割等の法律問題に対処しなければなりませんので、弁護士が選任されることが多いです。
不在者財産管理人を選任すると、不在者財産管理人を当事者として、有効な遺産分割協議を進めることが可能となります。
不在者財産管理人の選任自体は、おおむね2~3か月程の期間で行うことができます。
また、不在者財産管理人が当事者となりますので、新たな相続が発生することとなるわけではありません。

ただ、不在者財産管理人は、家庭裁判所の許可のもとに遺産分割協議を行うこととなります。
このため、当方が遺産を取得することを希望するのでしたら、法定相続分額に相当する金額の代償金を支払を行う必要があります。

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死亡の事実の証明1

遺産分割の案件では、相続関係を調査し、相続人を特定する必要があります。
相続人全員の合意のある遺産分割協議書が作成できなければ、法務局は不動産の名義変更を受け付けてくれないですし、銀行や証券会社も金融資産の払戻や名義変更を行ってくれません。
したがって、遺産分割の案件では、前提として、相続人を特定することが必要不可欠です。

そして、相続関係の特定は、ほぼすべての案件で、市町村役場が発行する戸籍によって行われます。
戸籍に何らかの記載があれば、その記載を前提として手続を進めなければなりません。

ここで問題となるのが、生存を確認できない人物が、戸籍上、生存していることとなっている場合です。
中には、間違いなく死亡したはずであり、親族もそのことを共通して認識している人物が、戸籍上、生存していることとなっていることがあります。
三重県の案件でも、国内最高齢に近い人物が、戸籍上は、生存していることとなっていた例がありました。

これは、戸籍上の事務処理の誤り等によって起きる問題です。
三重県ですと、津市について、戦災により戸籍が焼失した時期があるため、このような事態が生じることがあります。

このような場合であっても、戸籍上は生存していることとなっているのですから、生存していることを前提として手続を進めなければ、不動産や金融資産の手続を進めることはできないこととなります。
とはいえ、本人の生存を確認することができない状態であるわけですから、その人と遺産分割協議を行うように言われても、不可能な話です。
このような場合は、どのように対処すれば良いのでしょうか。

1つ目の対処として、戸籍自体の記載を死亡に改めることが考えられます。
しかし、死亡の記載を行うには、死亡届を行う必要があります。そして、死亡届を提出する際には、医師の死亡診断書か警察の死体検案書を提出する必要がありますが、いつどこで亡くなったかが分からない場合や、古くに亡くなった場合には、これらの書類を提出することは不可能です。
死亡届以外に、戸籍訂正許可申立を行うことも考えられますが、家庭裁判所の許可を得る必要があり、そのためには死亡の事実を証明しなければなりません。
現実には、そもそも証明する資料がなかったり、あっても親族の証言だけであったりして、死亡の事実を証明することが困難なことが多いです。

アパートの贈与2

それでは、どのような場合に、通常の贈与ではなく、負担付贈与と扱われることとなるのでしょうか。

負担付贈与は、贈与を受ける人が一定の負担を負うことを条件に、財産の贈与が行われることを言います。

分かりやすいのは、贈与の際に、一定の経済的負担を負う場合です。
たとえば、贈与を受けた人が贈与をしてくれた人に対して、今後の生活費を支払うことを約束する場合です。

見逃されるおそれがあるのは、アパートローンの残債務がある場合に、アパートを子に贈与するとともに、今後のアパートローンを子が返済することとする場合です。
感覚的な話としては、贈与されて以降は、アパートの賃料は子が取得することとなりますので、アパートローンの返済を子が行うのは自然なことに見えます。
ところが、税との関係では、子がアパートローンを返済することを条件に、アパートの贈与を受けることとなりますので、負担付贈与であるとの評価がなされることとなります。
このため、時価により、アパートの評価額を算定し、贈与税と相続税(相続時精算課税制度を用いた場合)のを納付する必要があることとなります。

以上から、アパートローンの残債務がある場合は、残債務を一括返済し、アパートの贈与をするだけにしてしまうこと等を検討した方が良いこととなります。

分かりにくいのは、敷金がある場合です。
アパートの贈与がなされると、敷金については、未払賃料があると未払賃料に充当されますが、残額については、譲受人に引き継がれます。昭和44年の最高裁の判決がこのような結論を述べているからです。
このため、子へのアパートの贈与がなされると、敷金の返還義務についても、子に引き継がれることとなります。
これは、敷金返還義務の負担付の贈与と評価されますので、アパートについては、時価での評価を行わなければならないこととなってしまいます。

このような事態を避けるには、アパートの贈与と同時に、敷金相当額の金銭も贈与することとし、実質的には敷金返還義務の負担のない贈与であるとの評価をしてもらう必要があります。

このように、弁護士の感覚では当然の処理であったとしても、税金のと関係では思わね結果を招いてしまうこともあります。
資産の移転についての契約書作成に際しては、税金がどのように課税されるかも合わせて検証することが推奨されます。

アパートの贈与1

相続税対策のため、アパートの贈与が行われることがあります。
アパートを所有し続けると、毎月の賃料収入が発生し続けることとなります。
賃料収入が積み上がると、相続の対象となる財産が増加し、相続税の額が多額になる可能性があります。
こうした事態を避けるため、アパートを生前に贈与し、子の名義に変更してしまうことがあります。
子の名義に変更すれば、その後の賃料収入は子が取得することとなりますので、相続の対象となる財産の増加を避けられる可能性があります。
このような理由から、アパートの贈与は、相続税対策になり得るとされています。

ただ、アパートを贈与となると、多額の財産の贈与となりますので、今度は、多額の贈与税が課税されることとなります。
このような贈与税の課税を避けるため、相続時精算課税制度が同時に用いられることも多いです。
三重県の案件でも、相続時精算課税制度を用いている例は、たまに見かけます。

ところで、アパートの贈与を行うに当たっては、注意しなければならないことがあります。
それは、税負担との関係では、負担付贈与と扱われることを避けた方が良いということです。

前提として、負担付贈与は、贈与を受ける人が一定の負担を負うことを条件に、財産の贈与が行われることを言います。

贈与の際には、土地や建物といった財産の評価を行った上で、贈与税の課税額を算定することとなります。
このとき、通常の贈与であれば、財産の評価は相続税評価額を用いることができます。
したがって、たとえば、土地については、路線価方式または倍率方式により評価が行われることとなりますので、おおむね時価の8割程度に収めることができることが多いです。

これに対して、負担付贈与の場合は、財産の評価は通常の取引価額により行われます。
したがって、土地についても、時価のままで評価が行われることとなり、高額になりがちです。

このように、負担付贈与と扱われた場合は、財産の評価が高額になりがちですので、課税される金額も高額になりがちとなります。
この点を踏まえると、負担付贈与と扱われることは避けたいということになるでしょう。

共有の農地

不動産が関係する案件では、共有の農地が登場することがあります。
相続の案件でも、遺言や遺産分割により、農地を共有にしている例を見かけることがあります。

ところで、土地を共有にした場合であっても、後日、
合意により、共有者の1人の単独所有に変更することができます。
たとえば、共有者同士の折り合いが悪くなったことを理由に、単独所有への変更を希望されることがあります。

この場合、農地については、大きな問題が発生します。
それは、農地の共有物分割を行う際には、農地法3条による農業委員会の許可を得なければならないということです。

農地については、誰でも取得できるというわけではなく、一定の条件を満たす人だけが取得できることとなっています。
これは、農作物の生産力を維持するために、政策的に、農地を効率的に利用できる人だけが農地を取得できることとしているためです。
このように、一定の要件を満たす人が、農業委員会の許可を得ることで、初めて、農地を取得することが認められることとなっているのです。

農地を取得できる一定の条件には、農地を取得する人の許可後の耕作面積が50アール以上である、世帯が年間で農業に従事する日数が150日以上である等があります。
地域によっては、この条件を緩和しているところもあるようですが、三重県では、あまり緩和している地域はないようです。

共有の農地を単独所有に変更する際にも、同様に、農業委員会の許可を得る必要があります。
とはいえ、特に遺言や遺産分割で農地を共有にした場合には、相続人間の購買を図るため、調整的に農地を共有にしていることもあり、必ずしも、取得を希望する人が上記の条件を満たすとは限りません。
このため、農業委員会の許可が期待できず、共有物分割ができない案件も存在します。

それでは、こうした案件で、共有状態を解消する手段はまったくないのでしょうか。
1つの解決策として、農地の取得を希望する人以外の全員が、共有持分の放棄を行うことが考えられます。
共有持分の放棄については、農地法3条の許可の対象とはされていないため、農業委員会の許可を得る必要がないこととなります。
そして、民法255条は、持分の放棄がなされた場合には、放棄されて持分は、他の共有者に帰属すると定めています。
このため、取得を希望する人以外の全員が持分を放棄すれば、取得を希望する人にすべての権利が帰属することとなります。

ただし、持分の放棄を行うと、持分を取得した人に贈与税が課税されることとなります。
農地については、贈与税の課税価額を算定するときの評価倍率が大きくなりがちですので、いくらの贈与税が課税されるかについて、注意を払う必要があります。
他にも、登録免許税(固定資産評価額の2%)、不動産取得税(固定資産評価額の3%)にも注意する必要があります。

このように、税金が課税される可能性があるものの、持分の放棄は、共有状態を解消する有効な手段になることがあります。

遺留分侵害額請求権の時効

遺留分侵害額請求権は、遺留分侵害の事実を知ってから1年以内に行使の意思表示をしなければ、時効によって消滅すると定められています(他に、10年の除斥期間と、侵害額請求権を行使したことによって発生した権利の時効も存在します)。
一般的に、債権の消滅時効の期間が10年と定められていることと比較すると、遺留分侵害額請求権については、かなり短期間で時効により消滅するものとされています。

それでは、時効になるのを防ぐためには、期間内にどのようなことをしなければならないのでしょうか。

遺留分侵害額請求権の場合は、相手方に対して遺留分侵害額請求権を行使するとの意思表示を行えば、時効消滅を避けることができます。
訴訟や調停等の裁判手続を用いなかったとしても、相手方に対する意思表示を行いさえすれば良いということになります。
規定上は、口頭で遺留分侵害額請求権を行使することを告げさえすれば良いのです(証明上の問題はありますが)。

ここで注意しなければならないのは、逆に、(裁判外での意思表示を行うことなく)裁判手続を用いた場合には、どの段階で時効消滅を避けることができるのかということです。

貸金返還請求権等の一般的な債権については、民事訴訟法147条が、訴えを提起したときに時効が中断すると定めています。
つまり、裁判所に訴状を提出すれば、相手方に訴状が送達される前であっても、時効が中断するということになります。
民事調停についても、民事訴訟法147条が準用され、同じ結論になると考えられています。

これに対して、遺留分侵害額請求調停について、裁判所のホームページには以下の記述があります。
http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/lkazi_07_26/index.html
「遺留分侵害額の請求は、・・・家庭裁判所の調停を申し立てただけでは相手方に対する意思表示ではありませんので、調停の申立てとは別に内容証明郵便等により意思表示を行う必要があります」
このように、一般的な債権の時効中断とは異なり、遺留分侵害額請求については、調停の申立を行っただけでは、時効消滅を避けることはできないこととなります。
このため、調停申立だけを行ったものの、別途、相手方に対する意思表示を失念し、1年の期間が経過してしまうと、遺留分侵害額請求権を行使することができないこととなってしまいます。

それでは、遺留分侵害額調停を前置することなく、遺留分侵害額請求訴訟を提起した場合はどうなるのでしょうか。
この場合については、後日、まとめることとしたいと思います。

遺留分侵害額調停申立だけでは時効消滅を避けることができないという点は、弁護士でも勘違いしてしまうポイントのようです。
遺留分侵害額請求の場合は、一般的な債権とは異なり、裁判所に書類を提出すれば時効の問題はなくなると考えるのではなく、別途、内容証明郵便等による意思表示を行うべきでしょう。

遺留分の放棄

相続の権利については,被相続人の生前には放棄することができないこととなっています。
このため,被相続人の生前に,特定の推定相続人の1人が相続権を放棄するとの意思表明を行ったとしても,法律上は,何の意味もないこととなります。
相続権を放棄するとの意思表明を行った相続人は通常の場合と同じように,相続権を主張することができることとなります。

これに対して,遺留分については,被相続人の生前に放棄することが認められています。
家庭裁判所において遺留分放棄の許可審判の申立を行い,家庭裁判所がこれを許可することにより,遺留分の放棄が認められることとなります。
このため,後継者に対してすべての財産を相続させるとの遺言を作成しておき,その他の推定相続人が遺留分放棄の許可審判を得ることができれば,その他の推定相続人は,遺留分も含めて,相続の権利を主張できないものとすることができます(ただし,遺留分を放棄してから,相続が起きるまでの間に,被相続人の財産に大きな変動があった場合は別です)。

ところで,遺留分放棄については,家庭裁判所が許可する必要があることとされています。
そして,家庭裁判所は,その他の推定相続人に対して十分な生前贈与がなされている等,一定の要件を満たす場合に限り,許可の審判を行います。

ところで,これまでの法律では,遺留分権利者に対して生前贈与がなされている場合には,生前贈与の対象となった財産は,遺留分の算定の際に,遺留分額から差し引き計算することができることとなっています。
そうすると,遺留分の放棄が許可されるような十分な生前贈与が行われている事案では,そもそも,遺留分を計算する場面でも,生前贈与の対象となった財産を差し引き計算することができ,結局,遺留分の主張を行うことができないこととなりそうです。
つまり,生前贈与がなされたという証拠をしっかり残しておけば,あえて遺留分の放棄の手続を行わなかったとしても,その他の推定相続人からの遺留分の主張を回避することができることとなりそうです。
この点を踏まえると,遺留分の放棄については,法律関係を明確にする以上の意味はないこととなりそうです。

ところが,このような結論は,令和元年7月に施行された改正相続法により,変わることとなりそうです。
改正相続法では,遺留分侵害額請求の際に差し引き計算される生前贈与が,相続から遡って10年前までになさりた贈与に限られることとなりました。
このため,相続から遡って10年よりも前に贈与がなされた場合には,遺留分の計算上差し引き計算されないこととなり,贈与を受けた相続人は,遺留分の主張もできることとなります。

これに対して,遺留分の放棄については,有効期限はありません(ただし,あくまでも,被相続人の財産に大きな変動がないことが前提です)。
このため,贈与から相続発生まで,長い期間(10年よりも長い期間)が空くことが予想される場合には,遺留分の放棄を行っておくことで,将来の遺留分侵害額請求を避けることができる可能性があります。

このように,改正相続法では,新たに,遺留分の放棄の制度を活用すべき場面が出てくることとなりそうです。

今回の相続法改正に限らず,法改正があったときには,他の規定との相乗効果で,文言を読んだだけでは気づかないような影響が生じることがあります。
弁護士として活動する際には,このような変化により多く気づけるようになりたいものです。