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生命保険と相続税対策―①生命保険金の非課税限度額

1 生命保険は相続税対策に利用できるか?
相続税対策のため,生命保険を利用するという話がなされることがあります。
確かに,生命保険には,相続の際に課税される相続税を減額する効果があります。
もっとも,生命保険契約の内容次第では,このような効果は小さくなることがありますし,逆に,相続税の負担が増えてしまうこともあります。
以下では,これらの点を具体的に説明したいと思います。

2 生命保険金の非課税限度額
そもそも,生命保険には,相続税を減額する効果があると言われているのでしょうか?
生命保険金は,みなし相続財産に該当し,相続税の課税対象になります。
もっとも,生命保険金には,非課税限度額がありますので,全額が相続税の課税対象になるわけではありません。
生命保険金の非課税限度額は,以下のとおりです。

500万円×法定相続人数

たとえば,法定相続人が3人の場合は,1500万円の非課税限度額が設定されることとなります。
このため,預貯金5000万円を,預貯金のまま残しておくと,5000万円全額に対して相続税が課税されるのに対し,生命保険契約を組み,ほぼ同額の生命保険金を受け取れるようにしておくと,5000万円-1500万円=3500万円に対してのみ,相続税が課税されることとなるのです。
このように,生命保険金を利用すると,相続税の課税対象が500万円×法定相続人数だけ減額されることとなるため,相続税の減額の効果が生じることとなるのです。

この生命保険金の非課税限度額は,法定相続人数が増えれば増えるほど,500万円ずつ増額されることとなります。
このため,養子縁組を合わせて活用すると,効果的に生命保険金の非課税限度額を増額し,相続税の負担を減額することができます。
ただし,養子については,生命保険金の非課税限度額の計算上,法定相続人数に算入できる人数が,以下のとおり制限されています。
・ 被相続人に実子がいる場合→養子は1人までしか算入できない
・ 被相続人に実子がいない場合→養子は2人までしか算入できない

もっとも,以上は,生命保険金の非課税限度額の制度をうまく利用することができた場合の話です。
生命保険契約の内容次第では,非課税限度額は利用することができないこともあります。
この点については,場合を分けて説明したいと思います。

松阪の案件でも,生命保険についてのご相談をお受けすることは,しばしばあります。
この点については,場合分けをして整理できるようにしておきたいところです。

被相続人が亡くなってから3か月の期間後の相続放棄

1 被相続人が亡くなったことを知らなかった場合は,相続放棄はできるのでしょうか?
被相続人との生前の交流が乏しかった場合には,被相続人が亡くなってから長期間が経過するまで,被相続人が亡くなったことを知らないということがあり得ます。
その後,債権者が相続関係を調査し,相続人に対して債務の返済を催告した際に,被相続人が亡くなったことが明らかにをなるということも,しばしばあります。
他には,市町村が相続関係を調査し,相続人に対して固定資産税の納付を求めた際に,被相続人が亡くなったことが判明するということも多いです。

被相続人が亡くなったことを知らずに,被相続人が亡くなってから3か月の期間が経過してしまった場合は,相続放棄はできるのでしょうか?
法律は,相続人が相続の開始があったことを知った日から3か月が,相続放棄を行うかどうかを決定することができる期間(熟慮期間)であると定めています。
裏返せば,被相続人が亡くなったことを知らなければ,いつまでも熟慮期間は経過せず,知ってから3か月以内であれば相続放棄を行うことができるということになります。

2 被相続人が亡くなったことを知らなかった場合の相続放棄の手続では,どのようなことに気をつけなければならないのでしょうか?
被相続人が亡くなったことを知らなかった場合に相続放棄の手続を進めるときには,いくつか気をつけるべき点があります。
家庭裁判所は,おおむね,戸籍上,被相続人が亡くなってから3か月以内に相続放棄の申述がなされているかどうかを確認し,3か月の期間が経過した後に相続放棄の申述がなされている場合には,本当に被相続人が亡くなったことを知らなかったのかの確認をしてきます。
たとえば,家庭裁判所から,追加の資料を提出することを求められることがありますし,書面での質問がなされることもあります。
判断に迷う場合には,家庭裁判所への出頭を求められ,裁判官から直接口頭での質問がなされることもあります。
この時,出頭しなければならない裁判所は,被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です(被相続人が松阪でなくなった場合は,家庭裁判所の松阪支部)。
このため,被相続人の最後の住所地次第では,遠方の裁判所への出頭を求められる可能性もあります。

以上から,被相続人が亡くなったことを知らなかった場合の相続放棄手続では,申述の際,時間がたってから被相続人が亡くなったことを知った事情を明らかにすることも検討した方が良いでしょう。

たとえば,被相続人が孤独死しており,死亡の事実が判明するまでに長期間が経過してしまうことがあります。
このような場合は,戸籍上,死亡日が特定されていないことや,死亡の届出がなされるまでに長期間が経過していることがほとんどでしょうから,申述書において,この点を指摘しつつ,死亡の事実が判明した経緯を記載することが考えられます。

また,被相続人との交流がなく,死亡の事実が伝えられることがなかったところ,債権者から相続債務の返済を求める旨の通知がなされ,初めて,被相続人が亡くなっていたことが判明することがあります。
このような場合には,申述書に被相続人と没交渉になっていたことを記載するとともに,債権者からの通知書のコピーを資料として提出することが考えられます。

3 相続債務の存在を知らなかった場合は,相続放棄はできるのでしょうか?
被相続人が亡くなったことは知っていたものの,相続債務の存在を知らなかったという場合があります。
このような場合には,債権者から,相続債務の返済を求める通知がなされて,初めて,相続債務の存在を知ることが多いです。
このような債権者からの通知は,被相続人が亡くなってから3か月以上経過してからなされることがしばしばあります。
このように,相続債務の存在を知らずに3か月が経過してしまった場合には,相続放棄は一切認められなくなってしまうのでしょうか?

この点について,最高裁は,被相続人に相続財産が全く存在しないと信じており,かつ,相続人においてこのように信じることについて相当の理由がある場合には,熟慮期間は,相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時または通常これを認識し得べき時から起算すると判断しています。
このように,最高裁の判断基準からすると,相続財産が全く存在しないと信じていた場合については,被相続人が亡くなったことを知ってから3か月以上が経過していたとしても,相続放棄が認められる可能性があります。

4 相続財産が存在することを知っていた場合には,相続放棄は一切認められなくなるのでしょうか?
最高裁は,相続財産の存在を全く知らなかった場合には,熟慮期間は,相続財産の存在を知った時から起算するとしています。
ところで,現実には,相続財産の一部(たとえば,土地等)の存在を知っていたものの,相続債務の存在を知ることなく,3か月の期間が経過してしまうということがあり得ます。
そして,債権者からの通知がなされて,初めて,相続債務の存在を知ることとなります。
このような場合には,相続債務の存在を知る前から,相続財産が存在すること自体は認識していたわけですから,最高裁の判断に従えば,相続放棄は認められないということになりそうです。

ところが,このような場合であっても,下級審(家庭裁判所,高等裁判所)は,相続放棄を認める可能性があります。
過去の裁判例には,相続人が相続財産の一部を知っていた場合でも,自己が取得すべき財産がないと信じていた事例で,相続債務が存在しないと信じており,かつ,そのように信じたことについて相当の理由があると認められる場合は,熟慮期間は,相続債務の存在を認識した時または通常これを認識し得べき時から起算するとしたものがあります。
このような判断がなされた例としては,以下のものがあります。
① 相続財産の存在を知っていたものの,その評価額がわずかであると認識していた例
② 相続財産の存在を知っていたものの,他の相続人が相続すべきものであり,自分が相続すべき財産はないと信じていた例

このように,裁判所の判断次第では,相続債務の存在を知ってから3か月以内であれば,相続放棄が認められる可能性があります。
もっとも,相続放棄が認められるかどうかはケースバイケースですので,弁護士にご相談いただいた方が良いでしょう。

5 相続債務の存在を知らなかった場合の相続放棄の手続では,どのようなことに気をつけなければならないのでしょうか?
過去の裁判例を踏まえると,相続債務の存在を知らなかった場合については,本当に相続財産の存在を知らなかったのか,相続財産が存在しないと信じたことについて相当の理由が存在するのかが問題になります。

この点を確認するため,家庭裁判所は,追加で資料の提出を求めたり,書面で質問を行ったりします。
判断に迷う場合には,家庭裁判所への出頭を求められ,直接,口頭で裁判官に対して説明を行うことを求められることもあります。

これらの点を踏まえると,やはり,申述の際,上記の事情を説明することも検討した方が良いでしょう。
たとえば,生前,被相続人との交流が乏しかったことを説明することにより,相続財産の存在を知らなかったことや,相当の理由が存在することを明らかにすることができるでしょう。
また,債権者からの相続債務の返済を求める書面のコピーを提出することにより,初めて相続債務の送付を知った日を明らかにすることができるでしょう。

熟慮期間(相続放棄をするかどうかを決める期間)の延長

1 熟慮期間を延長することはできないのでしょうか?
法律上,熟慮期間は,相続があったことを知った時から3か月以内と定められています。
ところが,実際には,被相続人の財産や債務の内容が不明である等の理由により,3か月の期間では,相続放棄をするかどうかを決めることができないことがあります。
このような場合には,家庭裁判所において,相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立を行うことにより,熟慮期間を延長することができます。

2 どのような場合に熟慮期間の延長が認められるのでしょうか?
相続の承認又は放棄の期間の伸長の 申立がなされたからと言って,家庭裁判所は,必ず,期間の伸長を認めるわけではありません。
たとえば,過去には,以下の一般論を述べた裁判例も存在しています。

「(熟慮)期間の伸長の申立を審理するに当たっては,相続財産の構成の複雑性,所在地,相続人の海外や遠隔地所在の状況のみならず,相続財産の積極,消極財産の存在…等を考慮して審理するを要する」

このため,期間の伸長を認めてもらうためには,相続財産や債務の内容を調査する必要性等を具体的に記載する必要があります。
家庭裁判所においてこうした必要性が認められた場合に,初めて,熟慮期間の延長が認められることとなるのです。

3 熟慮期間 は,どれくらい延長されるのでしょうか?
相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立が認められた場合に,どれくらいの期間熟慮期間が延長されるかについては,法律の定めはありません。
一般に,家庭裁判所は,相続財産や債務の内容の調査の必要性,調査に要する期間等を考慮し,どれくらいの期間熟慮期間を延長するかを決定すると言われています。
もっとも,実務上は,おおむねさらに3か月間,熟慮期間の延長を認める傾向にあります。

4 熟慮期間を再延長することはできないのでしょうか?
たとえば,3か月間熟慮期間が延長されたとしても,延長された期間内では,相続財産,債務の調査が完了せず,さらに調査を尽くさなければ,相続放棄を行うかどうかを判断できないことがあります。
このような場合には,どうすれば良いのでしょうか?

法律上は,特別の事情がある場合には,熟慮期間の再延長,再々延長が認められています。
もっとも,調査の必要性がある場合に限って延長が認められるのですから,再延長,再々延長が認められるは,特別の事情がある場3回の合に限られます。
このため,再延長,再々延長の申立に当たっては,延長された期間で調査を行ったが,調査を尽くすことができなかったこと,今後,どのような調査を予定しているか等を具体的に記載すべきでしょう。

このように,再延長,再々延長については,認められない可能性があるということに注意すべきです。
調査を尽くしても,どうしても債務超過であるかどうかが判断できず,相続放棄を行うかどうかの結論が出せない場合には,相続人全員で限定承認を行うこと等も検討した方が良いでしょう。

5 熟慮期間の延長の申立は,どのような手続で行うのでしょうか?
熟慮期間の延長の申立は,家庭裁判所に相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立書を提出することにより行います。
管轄裁判所は,被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所です。
たとえば,被相続人の最後の住所地が松阪である場合は,家庭裁判所の松阪支部が管轄裁判所になります。

申立書は,3か月の熟慮期間内に提出する必要があります。
期間内に申立書が家庭裁判所に届く必要がありますので,不安な場合は,直接,家庭裁判所の窓口へ持って行った方が良いでしょう。

申立に際しては,申立書以外に,被相続人の死亡の記載のある戸籍,被相続人の住民票の除票(除籍の附票でも差し支えありません),申立を行う方の戸籍です。
相続放棄の申述と同じく,どうしても必要書類の準備が間に合わない場合は,申立書のみを3か月の熟慮期間内に提出し,必要書類を期間経過後に提出することも検討しましょう。

被相続人の父母が相続放棄を行った場合,次に相続人になるのは誰でしょうか?

被相続人が若くして亡くなった場合,被相続人の父母が存命であることがあります。
そして,被相続人が多額の相続債務を負っていたときは,被相続人の父母が相続放棄を行うことがあります。
それでは,被相続人の父母が相続放棄を行った場合,次に相続人となるのは誰なのでしょうか?

このような質問を行うと,次に相続人となるのは,被相続人の兄弟姉妹であり,被相続人の兄弟姉妹が存命でない場合は,被相続人の甥姪であるとの回答がなされることがあります。
しかし,このような回答は,完全な誤りとなることがあります。
被相続人の祖父母もまた存命である場合は,被相続人の父母が相続放棄を行うと,被相続人の祖父母が相続人となるためです。

民法889条は,法定相続人の定まり方について,次のような規定を置いています。

次に掲げる者は,・・・次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
被相続人の直系尊属。ただし,親等の異なる者の間では,その近い者を先にする。

そして,被相続人の父母が相続放棄を行うと,被相続人の父母は初めから相続人ではなかったこととなります。
そうすると,上記のただし以下の部分により,次に親等の近い者である被相続人の父母が相続人になることとなるのです。

このように,被相続人の祖父母が存命である場合は,被相続人の祖父母が相続人となる可能性があります。
この場合も,被相続人の相続放棄の申述が受理されてから3か月の熟慮期間内に相続放棄を行う必要があるため,あらかじめ,被相続人の祖父母に説明を行っておいた方が良いこともあるでしょう。

念のため付言すると,被相続人の子が相続放棄を行った場合には,被相続人の子の子(つまり,被相続人の孫)は次の法定相続人にはなりません。
被相続人の子の子が相続人となるのは,民法887条2項により,被相続人の子に代襲相続が発生した場合に限られています。
そして,代襲相続が発生する原因としては,被相続人の子の死亡,相続欠格,相続廃除が挙げられていますが,相続放棄は挙げられていません。
このため,被相続人の子が相続放棄を行ったとしても,代襲相続は発生せず,被相続人の子の子が相続人となることはないこととなります。

この点は,弁護士でも誤った回答をすることがある部分ですでの,注意が必要です。

相続放棄と葬式費用

1 相続財産から葬式費用を支払った場合は,相続放棄を行うことができなくなるのでしょうか?
相続財産である預貯金から出金を行い,これを費消してしまうと,単純承認事由である相続財産の処分に当たり,相続放棄を行うことができなくなってしまいます。
たとえ,預貯金を費消した時点では相続債務の存在を知らなかったとしても,単純承認事由である相続財産の処分に当たる以上は,もはや相続放棄を行う余地はないこととなってしまうのです。

それでは,相続財産である預貯金を出金し,葬式費用の支払に充ててしまった場合はどうなるのでしょうか?
このような場合に,あとから相続債務の存在が明らかになったとしても,相続放棄を行うことはできなくなってしまうのでしょうか?
このように,葬式費用の支払が行われたあとに相続債務の存在が発覚し,相続放棄の申述がなされた場合に関しては,過去の裁判例は,葬式費用の支払は単純承認事由には当たらないとし,相続放棄の申述を受理しています。
その理由としては,葬儀が社会的儀式として必要性が高いものであること,葬儀を執り行うためには必ず相当額の支出を伴うものであること等が挙げられています。

以上から,相続財産である預貯金から葬儀費用の支出を行ったとしても,相続放棄が認められる可能性があることとなります。

2 相続放棄ができるかどうかの場面では,葬式費用の支出として認められる範囲はどこまでなのでしょうか?
この点については,過去の裁判例ごとに判断内容が少しずつ異なっているため,明確な回答をし難いところではあります。
過去の裁判例の中には,身分相応の遺族として当然営むべき程度の葬式のための費用については,相続財産から支出することは単純承認事由にはならないと判断したものがあります。
このような考え方に従えば,葬式費用であれば,いくらであっても支出することが許容されるわけではなく,一般的な葬式費用の範囲に収まる場合に限り,相続放棄が認められることとなります。

3 葬式費用以外に,仏壇,墓石の購入費用を相続財産から支払った場合にも,相続放棄を行うことはできるのでしょうか?
相続財産である預貯金から,仏壇,墓石の購入費用を支払ってしまった場合であっても,相続放棄を行うことはできるのでしょうか?
この点について,過去の裁判例には,仏壇や墓石を購入することは,我が国の通常の慣例であること,相続債務があることが分からない場合に,遺族が被相続人の預貯金を利用することは自然なことであることを理由に,仏壇や墓石を購入することが相続財産の処分には当たらないと,相続放棄を認めたしたものがあります。
この裁判例では,購入した仏壇や墓石が社会的にみて不相当に高額のものとはいえず,購入費用の不足分を自己負担したといった事情があることを踏まえて,仏壇や墓石の購入費用が相続財産の処分に当たるとは断定できないとの判断がなされました。

このように,仏壇,墓石の購入費用についても,相続放棄が認められる可能性はあります。
ただし,上記の事例では,一定の事情があることを考慮した上で相続財産の処分に当たるとは断定できないとの判断を行っていますので,相続放棄が認められるかどうかはケースバイケースであると考えた方が良いでしょう。

なお,当弁護士法人がお受けした案件の中には,相続財産である預貯金を戒名代,墓石の彫り代の支払に充てた行為について,相続財産の処分には当たらないとの判断がなされたものもあります。

4 相続放棄の手続を進めながら,相続財産である預貯金から葬式費用を支払うことは許容されるのでしょうか?
この点について,明確な判断を行った裁判例は見当たりません。
ただ,注意しなければならないのは,葬式費用の支出が相続財産の処分には当たらないとした裁判例も,仏壇や墓石の購入費用の支出が相続財産の処分には当たらないと判断した裁判例も,基本的には,支出した後に相続債務の存在が発覚し,相続放棄を行うことを決意するに至った案件であるということです。
したがって,相続債務の存在を熟知し,相続放棄の手続を進めている最中に,葬式費用を支出する場合とは,事案が異なっているため,同じような判断がなされるとは限らないということができます。
以上から,相続放棄の手続を進めている最中に,相続財産である預貯金から葬式費用を支払うことは,避けた方が良いという結論になります。

相続放棄と生命保険

1 相続放棄を行ったとしても,生命保険金を受け取ることができるのでしょうか?
相続放棄を行った場合には,初めから相続人ではなかったこととなります。
このため,相続人のマイナスの債務を引き継ぐことを避けられる反面,相続人のプラスの財産も引き継ぐことができないこととなります。

ところで,被相続人が亡くなった際に権利が発生するものとして,生命保険金があります。
相続放棄を行った場合に,生命保険金を受け取る権利はどうなるのでしょうか?
結論としては,受取人が誰に指定されているかによって,変わってくることとなります。

2 特定の人が受取人に指定されている場合
特定の人が生命保険金の受取人に指定されている場合には,その人が生命保険金を受け取ることができます。
この生命保険金は,生命保険契約によって受け取る権利が発生するものであり,相続財産ではありません。
したがって,その人が相続放棄を行ったとしても,生命保険金の受取人に指定されている以上は,生命保険金を受け取ることができることとなります。

3 被相続人が受取人に指定されている場合
次に,被相続人が受取人に指定されていることがあります。
この場合には,被相続人が生命保険金を受け取る権利を有していることとなります。
そして,被相続人の有している生命保険金を受け取る権利は,相続財産になります。
したがって,相続人が相続放棄を行った場合には,相続人は,生命保険金を受け取ることができないこととなります。

4 「相続人」が受取人に指定されている場合
他には,「相続人」を受取人に指定するとの契約がなされることがあります。
この場合には,生命保険契約の解釈上,法定相続人が受取人に指定されているものと扱われます。
つまり,相続放棄を行っているかどうかは度外視して,法定相続人が生命保険金を受け取ることができると解釈されています。
したがって,相続人が相続放棄を行ったとしても,法定相続人である以上は,生命保険金を受け取ることができることとなります。

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高齢者消除

戸籍については、高齢者消除と呼ばれる制度があります。

戸籍には、実際には死亡していると思われるにもかかわらず、戦時の混乱や誰からも死亡届が提出されていないこと等の理由により、生存しているままになっている方がいます。
一時期には、国内最高齢を大幅に越える150歳の方が、戸籍上、生存しているのと記載がなされていました。

これらの、特に年齢が100歳以上であり、かつ、住所が分からず生存しているかどうかを確認できない方については、戸籍の記載をそのまま放置しておくのは妥当ではないと考えられています。
というのも、これらの方が実際には亡くなっているのでしたら、今後、誰からも死亡届が提出されないままとなり、戸籍上、いつまでも生存しているのと記載され続けることとなってしまうからです。

このため、100歳以上であり、生存しているかどうかが不明な方については、市町村長が、法務局長の許可を得て、戸籍から消除することができるものとされています。
これを高齢者消除と、言います。
高齢者消除がなされると、戸籍上、「高齢者につき死亡と認定」との記載がなされます。

それでは、死亡の事実を証明できない方がいる場合には、高齢者消除の制度を用いることにより、その方が死亡したものと取り扱うことはできないのでしょうか。
「高齢者につき死亡と認定」との記載からすると、その方を死亡したものと取り扱うことができるような感じがしますが、そうではありません。
高齢者消除は、あくまでも、戸籍の事務処理上、死亡したとの認定を行うに過ぎないものであり、法律上、死亡したものとみなされるわけではありません。
したがって、高齢者消除がなされたとしても、その方を当事者としなければ、遺産分割協議を行うことはできず、不動産や金融資産の手続もできないこととなります。
このため、高齢者消除がなされ、「高齢者につき死亡と認定」との記載がなされている方がいるとしても、失踪宣告等の手続を行わなければ、その方を死亡したものとみなすことはできないこととなります。

なお、高齢者消除とは別に、認定死亡という制度があります。
高齢者消除が戸籍上「高齢者につき死亡と認定」との(まぎらわしい)記載がなされるため、混同されがちですが、認定死亡と高齢者消除はまったく別の制度です。
認定死亡は、火災や水難事故の際、これらの事故に遭った方を、行政が死亡したとの認定を行うものです。
認定死亡の対象になった方は、法律上も死亡したとの推定がなされることとなっています。

このように、制度を正確に理解しなければ、誤った結論を導きかねないため、弁護士としては、細心の注意を払いたいところです。

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死亡の事実の証明2

次に、生死が不明であることを理由として、家庭裁判所で失踪宣告の手続を行うことが考えられます。
失踪宣告がなされると、死亡したものとみなされますので、その人を手続の当事者に含む必要はないこととなります。

もっとも、失踪宣告についても、一定の問題があります。
いわゆる普通失踪の場合は、7年間生死不明であることを証明する必要があります。この証明は、警察に捜索願いを出されており、その後7年以上所在等が確認できないことによりなされることが多いです。
しかし、長期間生死不明になっている人ですと、そもそも誰も捜索願い等を出していないことがほとんどです。このため、失踪宣告の手続を進めるには、ほとんどの場合、警察に捜索願いを出すところから始める必要があります。
さらに、失踪宣告の申立を行ってからも、手続が完了するまでに1年程度の期間が必要です。
つまり、ご相談を受けてから、遺産分割協議を開始することができるまて、8年程の期間が必要となります。

また、失踪宣告がなされると、7年の期間が満了した時点でその人が死亡したものとみなされますので、新たな相続が発生することとなります。
案件によっては、次の相続人に外国籍の人が含まれることがあり、かえって相続関係が錯綜してしまい、遺産分割協議が事実上不可能になることもあります。

このため、失踪宣告も、適当な解決策にならないことがあります。

3つ目の対処として、不在者財産管理人を選任することが考えられます。
所在不明の人については、不在者財産管理人を選任することができます。
不在者財産管理人選任申立は、その人の従来の住居所(最後の住居所だけではない)か、財産所在地(遺産の所在地を含む)を管轄する家庭裁判所で行います。これらが三重県内にあるのでしたら、津家庭裁判所の本庁か該当する支部が管轄を有することとなります。
不在者財産管理人については、遺産分割等の法律問題に対処しなければなりませんので、弁護士が選任されることが多いです。
不在者財産管理人を選任すると、不在者財産管理人を当事者として、有効な遺産分割協議を進めることが可能となります。
不在者財産管理人の選任自体は、おおむね2~3か月程の期間で行うことができます。
また、不在者財産管理人が当事者となりますので、新たな相続が発生することとなるわけではありません。

ただ、不在者財産管理人は、家庭裁判所の許可のもとに遺産分割協議を行うこととなります。
このため、当方が遺産を取得することを希望するのでしたら、法定相続分額に相当する金額の代償金を支払を行う必要があります。

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死亡の事実の証明1

遺産分割の案件では、相続関係を調査し、相続人を特定する必要があります。
相続人全員の合意のある遺産分割協議書が作成できなければ、法務局は不動産の名義変更を受け付けてくれないですし、銀行や証券会社も金融資産の払戻や名義変更を行ってくれません。
したがって、遺産分割の案件では、前提として、相続人を特定することが必要不可欠です。

そして、相続関係の特定は、ほぼすべての案件で、市町村役場が発行する戸籍によって行われます。
戸籍に何らかの記載があれば、その記載を前提として手続を進めなければなりません。

ここで問題となるのが、生存を確認できない人物が、戸籍上、生存していることとなっている場合です。
中には、間違いなく死亡したはずであり、親族もそのことを共通して認識している人物が、戸籍上、生存していることとなっていることがあります。
三重県の案件でも、国内最高齢に近い人物が、戸籍上は、生存していることとなっていた例がありました。

これは、戸籍上の事務処理の誤り等によって起きる問題です。
三重県ですと、津市について、戦災により戸籍が焼失した時期があるため、このような事態が生じることがあります。

このような場合であっても、戸籍上は生存していることとなっているのですから、生存していることを前提として手続を進めなければ、不動産や金融資産の手続を進めることはできないこととなります。
とはいえ、本人の生存を確認することができない状態であるわけですから、その人と遺産分割協議を行うように言われても、不可能な話です。
このような場合は、どのように対処すれば良いのでしょうか。

1つ目の対処として、戸籍自体の記載を死亡に改めることが考えられます。
しかし、死亡の記載を行うには、死亡届を行う必要があります。そして、死亡届を提出する際には、医師の死亡診断書か警察の死体検案書を提出する必要がありますが、いつどこで亡くなったかが分からない場合や、古くに亡くなった場合には、これらの書類を提出することは不可能です。
死亡届以外に、戸籍訂正許可申立を行うことも考えられますが、家庭裁判所の許可を得る必要があり、そのためには死亡の事実を証明しなければなりません。
現実には、そもそも証明する資料がなかったり、あっても親族の証言だけであったりして、死亡の事実を証明することが困難なことが多いです。

アパートの贈与2

それでは、どのような場合に、通常の贈与ではなく、負担付贈与と扱われることとなるのでしょうか。

負担付贈与は、贈与を受ける人が一定の負担を負うことを条件に、財産の贈与が行われることを言います。

分かりやすいのは、贈与の際に、一定の経済的負担を負う場合です。
たとえば、贈与を受けた人が贈与をしてくれた人に対して、今後の生活費を支払うことを約束する場合です。

見逃されるおそれがあるのは、アパートローンの残債務がある場合に、アパートを子に贈与するとともに、今後のアパートローンを子が返済することとする場合です。
感覚的な話としては、贈与されて以降は、アパートの賃料は子が取得することとなりますので、アパートローンの返済を子が行うのは自然なことに見えます。
ところが、税との関係では、子がアパートローンを返済することを条件に、アパートの贈与を受けることとなりますので、負担付贈与であるとの評価がなされることとなります。
このため、時価により、アパートの評価額を算定し、贈与税と相続税(相続時精算課税制度を用いた場合)のを納付する必要があることとなります。

以上から、アパートローンの残債務がある場合は、残債務を一括返済し、アパートの贈与をするだけにしてしまうこと等を検討した方が良いこととなります。

分かりにくいのは、敷金がある場合です。
アパートの贈与がなされると、敷金については、未払賃料があると未払賃料に充当されますが、残額については、譲受人に引き継がれます。昭和44年の最高裁の判決がこのような結論を述べているからです。
このため、子へのアパートの贈与がなされると、敷金の返還義務についても、子に引き継がれることとなります。
これは、敷金返還義務の負担付の贈与と評価されますので、アパートについては、時価での評価を行わなければならないこととなってしまいます。

このような事態を避けるには、アパートの贈与と同時に、敷金相当額の金銭も贈与することとし、実質的には敷金返還義務の負担のない贈与であるとの評価をしてもらう必要があります。

このように、弁護士の感覚では当然の処理であったとしても、税金のと関係では思わね結果を招いてしまうこともあります。
資産の移転についての契約書作成に際しては、税金がどのように課税されるかも合わせて検証することが推奨されます。