月別アーカイブ: 2018年 9月

相続法改正(遺留分減殺請求)3

遺留分減殺請求権の金銭債務化については,もう1つ気になっている点があります。
それは,課税関係の変化が生じるのではないかということです。

前回と同じく,遺産がA不動産とB不動産であり,預貯金等の金融資産がほとんどない場合を考えたいと思います。同じく,当方が遺言によりすべての遺産を取得することとされており,相手方が遺留分減殺請求権を行使したとします。

こうした事例で,当方が遺留分に相当する金銭を支払うことができない場合に,相手方と合意し,金銭の代わりにB不動産を相手方に譲渡するとの解決がなされることがあります。
相手方と合意ができれば,改正法においても,こうした解決を行うこともできることとなります。

ここで問題となってきそうなのが,本来金銭債務であるはずの遺留分減殺請求権の行使に対して,不動産を代わりに譲渡することで解決を図ることは,代物弁済に他ならないと捉えられるのではないかということです。
そして,不動産をもって代物弁済を行った場合には,不動産を譲渡した当方に対し,譲渡所得税が課税されることとなります。
この譲渡所得税は,取得費が少額である場合や取得費を証明できない場合には,かなりの経済的負担になります。具体的には,代物弁済時の不動産の評価額の約15%の所得税(長期譲渡所得)が課されることとなります(さらに,住民税5%の課税,健康保険料の増額等もなされることとなります)。
このため,改正法では,不動産を譲渡することによる解決を図った場合,莫大な課税がなされるのではないかという懸念があるところです。

このように,改正法では,遺留分減殺請求権が金銭債務化されることで,遺言により財産を取得した人にとって,酷な結果が生じる可能性があります。
この点を踏まえると,預貯金等の金融資産が多くない場合には,将来の遺留分減殺請求権の行使を想定し,どのような遺言を作成するかを慎重に検討する必要が生じてくるように思います。

1つの結論として,預貯金等の金融資産が多くない場合には,「すべての財産を○○に相続させる。」との遺言は,今後は,大きな問題を引き起こす可能性があるということが言えそうです。
このような問題は,遺言作成の段階で,「A不動産は○○に相続させる。B不動産は××に相続させる。」とすることにより,避けることができるでしょう。
遺言により不動産を分けて取得することとしていれば,B不動産の取得について,譲渡所得税が課税されないで済むこととなります。
このように,遺言作成の段階で工夫をすることにより,多額の課税を避け,より多くの財産を次世代に引き継ぐことができるのです。

このように,今後は,改正法を踏まえ,遺言作成の段階で,より多くの工夫を行う必要があることとなりそうです。
弁護士として遺言作成に関与する場面でも,適切な助言を行えるよう,課税関係も含めた情報収集が必要になってきそうです。

相続法改正(遺留分減殺請求)2

遺言により,特定の相続人が遺産のすべてを取得することとされることがあります。
このような場合であっても,他の相続人は,遺留分減殺請求権を行使し,遺産の一定割合について権利主張することができることとされています。

現行法では,遺留分減殺請求権を行使すると,遺言により特定の相続人が取得した財産について,遺留分減殺請求権を行使した人は,共有持分をもつこととなります(物権的効果説)。
たとえば,不動産については,遺留分減殺請求権を行使することにより,遺言により財産を取得した相続人と,遺留分減殺請求権を行使した人は,その不動産を共有することとなります。

ただし,現行法でも,遺言により財産を取得した相続人が,金銭の支払による解決を望む場合は,遺留分減殺請求を行使した人に対して金銭を支払うことにより,不動産全体の所有権を得ることができます(価額弁償)。

この点について,改正民法は,次のような規定を置いています。

改正民法1046条
遺留分権利者及びその承継人は,受遺者又は受贈者に対し,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

このように,改正相続法では,遺留分減殺請求権は,金銭の請求権とされることとなります(正確には,遺留分侵害額請求権に名称が変わりますが,便宜上,遺留分減殺請求権と記載します)。

このような法改正は,遺産に多額の預貯金や有価証券が含まれている場合には,それ程大きな問題を引き起こしません。
困難な問題が生じるのは,遺産の大部分が不動産であるような場合です。

たとえば,遺産がA不動産とB不動産であり,預貯金等の金融資産がほとんどない場合を考えます。そして,当方が遺言によりすべての遺産を取得することとされていたとします。
現行法では,相手方が遺留分減殺請求権を行使したら,A不動産もB不動産ともに遺留分減殺権を行使した相手方と共有することとなります。
そして,A不動産を当方が現に利用している場合には,共有物分割を行ったとしても,当方がA不動産を取得し,相手方がB不動産を取得するとの結論になることが予想できます。

これに対して,改正法では,遺留分減殺請求権は金銭の請求になります。
このため,当方は,相手方の遺留分減殺請求に対しては,金銭の支払をもって解決する義務を負うこととなってしまいます。
たとえ,当方が代わりにB不動産を相手方に譲渡することで解決したいと思ったとしても,相手方がこれを拒否し,あくまでも金銭を請求するとの対応を行う場合には,当方は,金銭の支払を免れることができません。
このため,当方は,B不動産を売却し,(取得費が少額である場合や取得費を証明できない場合には,)多額の譲渡所得税を納付し,仲介手数料も負担した上でこれを金銭に換え,相手方に対して遺留分に相当する金銭の支払を行わなければならないことになります。

このように,改正相続法は,事案によっては,当事者にとって酷な結果を招きかねないものです。
弁護士として対応する場合にも,慎重な対応が必要になる場面が出てきそうです。

相続法改正(配偶者居住権)3

配偶者居住権は,今回の相続法改正の目玉の1つと言うべきものです。
もっとも,私自身は,配偶者居住権が用いられる場面は,実際にはそれ程多くないのではないかと考えています。

遺産分割審判において,配偶者居住権が設定される場合としては,以下のように定められています。

改正民法1029条
遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は,次に掲げる場合に限り,配偶者が配偶者の居住権を取得する旨を定めることができる。
一 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについての合意が成立しているとき
二 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において,居住建物の所有者の定める不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき

このうち,「一 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについての合意が成立しているとき」については,紛争関係にある当事者の一方が底地と建物を所有し,他方が配偶者居住権を取得することを合意することは,そうそうないことだと思いますので,適用される場面は少ないと思います。
それでは,「二 …居住建物の所有者の定める不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき」についてはどうでしょうか。

一般に,家庭裁判所は,遺産分割審判により,後日の紛争の火種をできるだけなくそうとする傾向にあります。
たとえば,家庭裁判所は,遺産分割により,対立関係にある相続人が不動産を共有するものとすること(いわゆる共有分割)は,避けようとする傾向にあります。不動産を共有にすることは,基本的には,他に解決方法がない場合の最後の手段と位置づけられています。これは,対立関係にある相続人が不動産を共有することにより,後日の紛争の火種が残ってしまうからです。
この点については,紛争関係にある当事者の一方が底地と建物を所有し,他方が配偶者居住権を取得することとした場合も同様だと考えられます。こうした状態が長期間継続することは,後日の紛争の火種となりかねません。
この点を踏まえると,「二 …居住建物の所有者の定める不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき」として配偶者居住権が設定されることは,他に解決方法がない場合に限られてくるのではないかと思われます。たとえば,配偶者の有する相続分額が少額であり,建物の所有権を取得することができないが,建物の一部の権利である配偶者居住権であれば取得できるような場合です。
そして,築後何十年も経過した建物であれば,建物の固定資産評価額は,金額がかなり減価していることが多いです。この点も踏まえると,建物の所有権を取得することができないが,建物の一部の権利である配偶者居住権であれば取得できるような場合自体,かなり限られた事例になってくるのではないかと思います。

以上は,家庭裁判所が遺産分割審判を行う場合の話です。
これに対して,遺産分割協議や遺産分割調停の場面では,法律の規定だけ読むと,配偶者居住権を設定できる場合については,特に制限が設けられていません。
しかしながら,弁護士が関与するような紛争事案では,遺産分割協議や遺産分割調停の場面でも,遺産分割審判になった場合の分割方法を念頭に置いて協議を行います。このため,遺産分割審判で配偶者居住権が認められる事例が限られてくると,遺産分割協議や遺産分割調停で配偶者居住権が設定される場面も,限られてくるのではないかと思われます。

このように考えると,配偶者居住権が用いられる場面は,実務上それ程多くないのではないかと予想されます。
この点については,今後の運用を注視していく必要があるように思います。

相続法改正(配偶者居住権)2

先日,弁護士会で,相続法改正の講演会がありました。
改正相続法については,来年以降施行となっており,施行の時期が当初の想定よりも早まっています。
今後,改正相続法についての情報が色々な場面で出てくると思いますので,一層,情報収集が必要となってきそうです。

改正相続法が配偶者居住権を新設予定であることは,先日紹介したとおりです。
改正後は,審判において,配偶者居住権が設定される例も(多数ではないと思いますが,)出てくるところでしょうし,調停や協議において,配偶者居住権の設定を前提とする話し合いが行われる例も出てくるところでしょう。

このような場面では,配偶者居住権をどのように評価するかが問題となってきます。
この点については,改正民法は何らの規定も置いていませんので,最終的には実務に委ねられることとなりますが,当面は,立法段階でどのような議論が行われていたかが参考にされることが多いのではないかと思います。
相続法改正の部会の議論では,先日も紹介したとおり,以下のような算定方法が挙げられていました。

配偶者居住権の評価=賃借権の評価額+(賃借権の評価額×存続期間-中間利息

もっとも,上記の計算方法については,賃借権をどのように評価するか,存続期間を何年と設定するか等が不明であり,やはり算定が困難であるとの問題があります。
このため,最後の方の部会では,簡易な計算方法として,以下の算定方法が挙げられていました。

建物の固定資産評価額-建物の固定資産評価額×{法定耐用年数-(経過年数+存続年数)}÷(法定耐用年数-経過年数)×ライプニッツ係数

終身の場合は,存続年数は簡易生命表記載の平均余命とする。

確かに,上記の計算方法を用いれば,それぞれの事案において,すべての数値を確定することができます。
上記の計算方法は,あくまでも立法段階での議論ですので,実務でも上記の計算方法が用いられるかは不確定なところがありますが,当面の間は,参照される場面が多いのではないかと予想されます。

上記の計算方法を用いる場合,配偶者居住権は,建物の評価額の一部であることとなります。
建物の固定資産評価額は,築後何十年も経過した建物である場合,金額がかなり減価していることが多いです。
このため,配偶者居住権の評価額を算定した結果,評価額がそれ程大きくならないことも多いのではないかと考えられるところです。
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和洋折衷なデザートです。
食べると少しずつ味が変わるため,面白い工夫だと思いました。