日別アーカイブ: 2018年9月5日

相続法改正(遺留分減殺請求)2

遺言により,特定の相続人が遺産のすべてを取得することとされることがあります。
このような場合であっても,他の相続人は,遺留分減殺請求権を行使し,遺産の一定割合について権利主張することができることとされています。

現行法では,遺留分減殺請求権を行使すると,遺言により特定の相続人が取得した財産について,遺留分減殺請求権を行使した人は,共有持分をもつこととなります(物権的効果説)。
たとえば,不動産については,遺留分減殺請求権を行使することにより,遺言により財産を取得した相続人と,遺留分減殺請求権を行使した人は,その不動産を共有することとなります。

ただし,現行法でも,遺言により財産を取得した相続人が,金銭の支払による解決を望む場合は,遺留分減殺請求を行使した人に対して金銭を支払うことにより,不動産全体の所有権を得ることができます(価額弁償)。

この点について,改正民法は,次のような規定を置いています。

改正民法1046条
遺留分権利者及びその承継人は,受遺者又は受贈者に対し,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

このように,改正相続法では,遺留分減殺請求権は,金銭の請求権とされることとなります(正確には,遺留分侵害額請求権に名称が変わりますが,便宜上,遺留分減殺請求権と記載します)。

このような法改正は,遺産に多額の預貯金や有価証券が含まれている場合には,それ程大きな問題を引き起こしません。
困難な問題が生じるのは,遺産の大部分が不動産であるような場合です。

たとえば,遺産がA不動産とB不動産であり,預貯金等の金融資産がほとんどない場合を考えます。そして,当方が遺言によりすべての遺産を取得することとされていたとします。
現行法では,相手方が遺留分減殺請求権を行使したら,A不動産もB不動産ともに遺留分減殺権を行使した相手方と共有することとなります。
そして,A不動産を当方が現に利用している場合には,共有物分割を行ったとしても,当方がA不動産を取得し,相手方がB不動産を取得するとの結論になることが予想できます。

これに対して,改正法では,遺留分減殺請求権は金銭の請求になります。
このため,当方は,相手方の遺留分減殺請求に対しては,金銭の支払をもって解決する義務を負うこととなってしまいます。
たとえ,当方が代わりにB不動産を相手方に譲渡することで解決したいと思ったとしても,相手方がこれを拒否し,あくまでも金銭を請求するとの対応を行う場合には,当方は,金銭の支払を免れることができません。
このため,当方は,B不動産を売却し,(取得費が少額である場合や取得費を証明できない場合には,)多額の譲渡所得税を納付し,仲介手数料も負担した上でこれを金銭に換え,相手方に対して遺留分に相当する金銭の支払を行わなければならないことになります。

このように,改正相続法は,事案によっては,当事者にとって酷な結果を招きかねないものです。
弁護士として対応する場合にも,慎重な対応が必要になる場面が出てきそうです。