1 遺留分減殺請求とは
特定の相続人がすべての遺産を取得するとの遺言が残されていた場合,その他の相続人は,遺産を取得した相続人に対し,遺留分減殺請求を行うことができる可能性があります。
遺留分減殺請求を行うとの意思が示された場合には,遺留分減殺請求をした人は,法的には,相続が始まった時点から,遺産に属する個々の財産について,権利を有していたものとされます。
とはいえ,実際には,相手方との間で交渉,訴訟を経て,最終的に遺留分に相当する財産を受け取るまでには,いくらかの時間がかかってしまいます。
事案によっては,最終的な解決に至るまで,1年以上の期間を要することもあります。
ここで注意しなければならないのが,相続税が発生する場合に,遺留分減殺請求をする人は,どのタイミングで税金の申告,納付をしなければならないのかということです。
2 遺留分減殺請求する意思を示しただけの段階
遺留分減殺請求する意思を示しただけの段階では,遺言により遺産を取得することとなった人が相続税を負担することとなります。
この段階では,遺留分減殺請求をした人は,遺言により遺産を取得しないのであれば,相続税の申告・納付を行う必要はありません(ただし,生命保険金等のみなし相続財産は存在しないものとします)。
3 返還・弁償される金額が確定した段階
その後,交渉,訴訟を経て,遺留分減殺請求により返還・弁償される金額が確定されると,状況が変わってきます。
返還・弁償すべき金額が確定すると,遺言により遺産を取得した人は,遺留分減殺請求を行った人に対して,財産を交付する必要があり,被相続人から取得した財産がその分減少することとなります。
被相続人から取得した財産が減少すると,本来負担すべき相続税よりも多く納付していたこととなりますので,返還・弁償を行った人は,更正の請求を行うことにより,相続税の還付を受けることができます。
この更正の請求については,金額が確定してから4か月以内に行う必要があります。4か月以内に更正の請求を行わなければ,相続税の還付を受けることができなくなってしまいます。
このように,遺留分による返還・弁償を行う場合には,期間内に手続を行う必要がありますので,注意が必要です。
他方,遺留分減殺請求をし,財産の返還・弁償を受けた人は,受け取った財産の評価額に応じ,相続税を納付しなければならないこととなります。
もっとも,実際には,財産の返還・弁償を行った人が期限内に更正の請求を行わなければ,財産の返還・弁償を受けた人に対して,さらに相続税の納付を求められることはありません。
裏返せば,財産の返還・弁償を受けた人に対して相続税が課されるのは,財産の返還・弁償を行った人が期限内に更正の請求を行った場合であるということになります。
そして,更正の請求が行われたにもかかわらず,財産の返還・弁償を受けた人が申告,納付を行わないままにしてしまうと,財産の返還,弁償を受けた人に対しては,さらに,無申告加算税(15%)等が課税されることとなります。
以上を踏まえると,更正の請求が行われる可能性がある場合は,財産の返還・弁償を受けた人は,早目に申告,納付を行った方が安全であるということになります(さらに付け加えると,この段階での申告が期限後申告に当たる場合には,延滞税の発生を避けるため,納付と同時に申告,または納付後に申告するという流れになります)。
このように,遺留分減殺請求については,相続税の課税に注意すべき場面があります。
弁護士に依頼した場合には,この点についての助言が得られないことがありますので,税理士等にも相談の上,どのように解決すべきかを検討した方が良いこともあります。