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相続分を主張することを希望しない相続人がいる場合①
相続分を主張することを希望しない相続人がいる場合相続が発生すると、各相続人は、相続財産について、割合的な持分を有することとなります。
このような割合的な持分が、相続分になります。
ところで、相続人の中には、相続分を主張することを希望しない相続人がいる場合があります。
相続分を主張することを希望しなかったとしても、相続人である以上は、当然に遺産分割の当事者になってしまい、何らかの手続をとらない限り、相続に巻き込まれた状態が続くこととなります。
それでは、相続分を主張することを希望しない相続人がいる場合は、どのような手続を取れば良いのでしょうか?
ここでは、考えられる手続を説明したいと思います。
① 相続放棄による解決
まず、相続分を主張することを希望しない相続人が、家庭裁判所において、相続放棄を行うことが考えられます。
相続放棄を行うと、その人は、最初から相続人ではなかったこととなります。
ただ、相続放棄については、いくつかの注意点があります。
1つ目は、原則、相続が発生したことを知ってから3か月以内に、家庭裁判所で手続を行う必要があります。
このため、相続が発生したことを知ってから3か月が経過してしまっていると、基本的には、相続放棄ができないこととなります。
相続が発生してから時間が経ってしまっている場合は、別の手続を用いる必要があります。
2つ目は、相続放棄を行うにあたり、家庭裁判所に、様々な必要書類を提出したり、一定の手続を踏んだりする必要があります。
必要書類については、たとえば、被相続人との相続関係を明らかにする戸籍を提出する必要があり、被相続人が遠縁であったり、三重県以外に本籍地があったりすると、戸籍の取得にかなりの手間がかかってしまいます。
家庭裁判所の手続についても、1つでも手続を行っていただくことができなければ、相続放棄が受理されかねないこととなりかねません。
こうした手続上の手間は、相続放棄のデメリットであると思います。
3つ目は、相続放棄を行うと、別の人が相続人になる可能性があるという問題です。
たとえば、被相続人の子が相続放棄を行うと、被相続人の父母が相続人になってしまいます。
被相続人の父母が存命でなかったり、被相続人の父母も相続放棄を行ったりすると、被相続人の兄弟姉妹(兄弟姉妹が存命でない場合は、甥姪)が相続人になってしまいます。
このため、被相続人の子や父母が相続放棄を行う場合は、別の人が相続人になる可能性がないか、注意する必要があります。
新たに相続人になった人が交流の乏しい人だと、かえって、解決が遠のいてしまいかねません。
このように、家庭裁判所での相続放棄による解決については、一定の問題が生じる可能性があり、注意が必要です。
場合によっては、相続放棄による解決に適しないこともあります。
こうした手続選択を行うには、法的問題を網羅的に検討する必要がありますので、弁護士に相談した方が良いのではないかと思います。
管轄税務署3
税金については、申告書の提出と納付の手続を分けて行う必要があります。
相続税についても、申告書の提出とは別に、納付の手続を行う必要があります。
納付の手続については、複数の方法がありますが、いずれも、納付先の税務署を明記して手続を行う必要があります。
納付先の税務署は、管轄税務署になりますので、相続税の場合は、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署になります。
それでは、納付書に管轄外の税務署を記載してしまい、納付の手続を行ってしまった場合は、どうなるのでしょうか?
改めて、本来の税務署に納付をし直す必要があるのでしょうか?
また、管轄税務署が別の税務署であることが判明した時点で、申告期限が経過してしまっていると、申告期限内に適切に納付の手続がなされていないこととなり、延滞税が課税されることとなってしまうのでしょうか?
納付についても、誤った税務署を納付書に記載して納付の手続を行ったとしても、税務署内で、本来の管轄税務署に納付したとの処理を行ってもらうことができます。
このため、誤った税務署に納付したのが申告期限内であれば、申告期限内に納付の手続が完了しているものと扱われます。
本来の管轄税務署に納付をし直す必要はありませんし、延滞税も課税されません。
三重県内の税務署と三重県外の税務署との間でも、このような処理を行ってもらうことができます。
とはいえ、管轄税務署の側から見ると、税務署内で処理がなされるまでは、申告書の提出だけがなされ、納付の手続は行われていないものと捉えられてしまいます。
このため、管轄外の税務署に納付の手続を行ってしまった場合は、速やかに、管轄税務署にその旨を伝えた方が良いと思います。
また、印象も良くないでしょうから、できる限り、管轄税務署がどこであるかの検討は慎重に行うべきでしょう。
管轄税務署2
相続税の管轄税務署がどこであるかについては、判断に迷うことがしばしばあります。
それでは、ある税務署が管轄税務署だと考え、その税務署に申告書を提出したものの、後日、他の税務署が管轄税務署であることが判明した場合は、どうなるのでしょうか?
他の税務署が管轄税務署であることが判明した時点で、申告期限が経過してしまっていると、管轄税務署に申告書が提出されていないこととなります。
このような場合には、申告期限を徒過したものと扱われ、無申告加算税が課税されることとなってしまうのでしょうか?
実のところ、管轄外の税務署に申告書が提出された場合であっても、税務署内で、申告書を管轄税務署に回付するとの処理がなされます。
この場合、管轄外の税務署に申告書が提出された日が、申告書の提出がなされた日であると扱われることとなります。
このため、申告期限内に管轄外の税務署に申告書を提出してしまったとしても、申告期限を遵守して申告書の提出がなされたと扱われることとなります。
したがって、無申告加算税が課税されることもありません。
余談ながら、裁判所に、たとえば控訴状を提出する場合にも、誤って、管轄外の裁判所に控訴状の提出がなされることがあります。
この場合、裁判所内で、管轄裁判所に控訴状を回付するとの処理を行うこともできますが、この場合には、実際に管轄裁判所に控訴状が届いた日に、控訴がなされたものと扱われます。
このため、管轄外の裁判所に控訴状を提出したのが控訴期限内であったとしても、管轄裁判所に控訴状が届いたのが控訴期限後になってしまうと、期限内に控訴がなされなかったものと扱われ、控訴却下となってしまいます。
この点では、税務署の方が、救済の幅が広いと言うことができます。
とはいえ、管轄外の税務署に申告書を提出してしまうと、申告書の処理に時間がかかってしまいますし、おそらく印象も良くないでしょうから、管轄税務署がとこであるかを慎重に判断して、申告書を提出すべきでしょう。
三重県だと、裁判所、税務署、法務局で、管轄の分け方が異なっている地域もありますので、注意が必要です。
管轄税務署1
相続税申告を行う際には、管轄税務署に申告書を提出する必要があることとなっています。
そして、相続税の管轄税務署は、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署になります。
最後の住所地は、被相続人の最後の生活の本拠地です。
多くの場合は、被相続人の住民票が置かれていた場所が被相続人の最後の住所地であることとなると思います。
もっとも、現実には、最後の住所がどこにあったか、判断に迷うことがあります。
1 被相続人が三重県内の市町村に住民票を置き、そこで生活していたものの、三重県外の病院に長期入院していた場合
この場合は、入院先の病院は、治療のためにいる場所に過ぎず、生活の本拠にはなり得ないと考えられます。
このため、被相続人が生活の本拠としていた、三重県内の税務署が管轄税務署になります。
2 被相続人が三重県内の市町村に住民票を置き、そこで生活していたが、相続時に一時的に単身赴任していた場合
多くの場合、一時的に単身赴任先に転居していたに過ぎず、単身赴任が終了した後は本来の住所に戻ってくることが予定されているでしょうから、本来の住所を管轄する三重県内の税務署が管轄税務署になると考えられます。
3 被相続人が三重県内の市町村に住民票を置き、そこで生活していたが、その後、三重県外の介護施設に入所した場合
多くの場合、介護施設でそのまま生活を続けることを予定しており、従来の住所に戻ることは予定していないでしょうから、生活の本拠を介護施設に移した考えられ、介護施設の所在地を管轄する三重県外の税務署が管轄税務署になると考えられます。
4 被相続人が三重県内の市町村に住民票を置いていたが、実際には、三重県外で生活していた場合
住民票上の住所地以外の場所で生活している方は、しばしばいらっしゃいます。
この場合は、実態として、生活の本拠となっている場所が住所地となりますので、三重県外の生活地を管轄する税務署が管轄税務署になる可能性があります。
もっとも、生活の本拠がどこにあるかを判断するに当たっては、居住の経緯、将来想定していた居住場所、生活実態、経済活動の状況等、諸般の事情を考慮する必要があります。
全血兄弟と半血兄弟2
次の場合はどうでしょうか。
・ 甲と乙の間に、実子として、被相続人とAが生まれた。
・ 丙と丁の間に、実子として、Bが生まれた。
・ その後、Bが、甲と乙の養子となった。
この場合、Bは、法律上、甲と乙との間に親子関係が生じることとなります。
このため、被相続人とBは、ともに、甲と乙を共通の親とするの子であることとなりますので、全血兄弟になります。
したがって、被相続人が亡くなった場合の相続分は、Aが2分の1、Bが2分の1になります。
次の場合はどうでしょうか。
・ 甲と乙の間に、実子として、被相続人とAが生まれた。
・ 丙と丁の間に、実子として、Bが生まれた。
・ 乙が死亡した。
・ その後、Bが、甲の養子となった。
このような事例で、法務局の先例は以下のような判断を行っています。
この場合、Bは、法律上、甲との間だけ、親子関係が生じます。
このため、被相続人とBは、甲のみを共通の親とする子であることとなりますので、半血兄弟になります。
Bからみると、甲が唯一の養親となりますが、全血兄弟かどうかは、あくまでも、何名の親を共通とするかで判断されることとなります。
今回は、1名の親を共通とするのみですので、半月兄弟であることとなります。
したがって、被相続人が亡くなった場合の相続分は、Aが3分の2、Bが3分の1になります。
三重県で担当した案件でも、上記の2番目の事例が問題となったことがあります。
家庭裁判所と協議し、法務局の先例を踏まえ、半血兄弟であるとの前提で、調停に代わる審判がなされることとなりました。
全血兄弟と半血兄弟1
被相続人に子がいなかった場合で、父母も存命ではない場合には、被相続人の兄弟姉妹が相続人になります。
この場合は、被相続人の兄弟姉妹の相続分を算定する必要が出てきます。
このとき、被相続人の全血兄弟については、相続分は均等になりますが、半血兄弟については、相続分は全血兄弟の半分になります。
このため、被相続人の兄弟姉妹の相続分を算定するにあたっては、全血兄弟と半血兄弟の違いを正確に把握しておく必要があります。
全血兄弟は、被相続人と、父母のいずれもが同じである兄弟姉妹のことを言います。
他方、半血兄弟は、被相続人と、父母の片方だけが同じである兄弟姉妹のことを言います。
たとえば、次の場合を考えたいと思います。
・ 甲と乙の間に、実子として、被相続人とAとBが生まれた。
この場合、AもBも、被相続人と父母のいずれもが同じになりますので、AもBも全血兄弟になります。
このため、AとBの相続分は均等になり、1/2ずつになります。
それでは、次の場合はどうでしょうか。
・ 甲と乙の間に、実子として、被相続人とAが生まれた。
・ 甲と丙の間に、実子として、Bが生まれた。
この場合、Aは、被相続人と父母のいずれもが同じになり、全血兄弟になります。
Bは、被相続人と父母の片方だけが同じになりますので、半血兄弟になります。
このため、Bの相続分はAの相続分の半分になりますので、Aの相続分は2/3、Bの相続分は1/3になります。
このように、全血兄弟か半血兄弟かの判断は、通常は、迷わずに行うことができますが、中には、どちらに該当するか、弁護士であっても判断に迷う例があります。
次回は、判断に迷う例について説明したいと思います。
相続させる遺言と遺贈する遺言2
1 不動産名義変更手続と税金の違い
相続させる遺言、包括遺贈する遺言、特定遺贈する遺言は、異なる種類の遺言であると解釈されています。
このため、不動産名義変更手続や課税される税金がまったく異なってくることがあります。
このあたりに取り扱いは、不動産名義変更手続の種類、税金の種類によって、違った定められ方をしていますので、正確に把握することは困難です。
しかも、不動産名義変更手続については、近年の法改正もあるため、古い情報を参照すると、思わぬ間違いが生じるおそれがあります。
ここでは、不動産の名義変更手続、課税される税金の違いについて、まとめておきたいと思います。
2 全体の整理
令和6年4月以降の全体的な取り扱いの違いを整理すると、以下のとおりです。
・ 登記を単独申請でできる、登録免許税が0・4%で済む
相続させる遺言
相続人に対する包括遺贈
相続人に対する特定遺贈
・ 農地法3条の許可申請が不要、不動産取得税が課税されない
相続させる遺言
包括遺贈(相続人に対するものも、相続人以外の人に対するものも)
相続人に対する特定遺贈
3 個別の説明
⑴ 登記を単独申請でできるか
令和4年時点では、登記を単独申請できるのは、相続させる遺言に限られています。
遺贈する遺言については、相続人全員の協力を得なければ、登記手続を行うことができません。ただし、遺言執行者が就任している場合は、相続人全員ではなく、遺言執行者の協力を得て登記手続を行うこととなります。
いずれにせよ、現時点では、遺贈する遺言の場合は、取得者が単独で登記申請を行うことはできず、相続人全員か遺言執行者と共同で登記申請を行う必要があります。
ところが、令和3年4月28日の不動産登記法改正により、令和6年4月1日以降、相続の登記が義務化されることとなりました。
上記のとおり、遺贈については、共同で登記申請を行う必要があり、手続が困難であるにもかかわらず、相続の登記が義務化され、登記が完了していないことを理由として罰則のみが科されることは不合理だと考えられました。
そこで、遺贈のうち、相続人に対するものに限り、取得者が単独での登記申請を行うことができることとなりました。
相続人に対する遺贈の登記が単独申請できるようになるのは、令和6年4月1日の改正法の施行後のことになります。
⑵ 登録免許税が0・4%で済むか
不動産の所有者が変更になる場合には、登記申請を行います。
登記申請を行う際には、登録免許税を納付する必要があります。
登録免許税の税率は、固定資産評価額の2%になることが多いですが、相続人に関する一定の登記では、0・4%になります。
相続させる遺言による登記、相続人に対する遺贈の登記が、登録免許税が0・4%になる場合に該当します。
不動産登記法の改正法の施行後は、結果として、登記を単独申請でできる場合=登録免許税が0・4%で済む場合になります。
⑶ 農地法3条の許可申請が不要か
農地の所有者が変更になる場合には、農地法3条により、農業委員会の許可が必要になります。
この農業委員会の許可が得られない限り、農地の所有者を変更することは基本的にはできませんが、相続に関する一定の名義変更については、農地法3条の許可が不要とされており、農業委員会の許可を得ることなく、所有者を変更することができます。
かつては、相続させる遺言による農地の取得、包括遺贈による農地の取得については、農地法3条の許可が不要とされていました。
ところが、平成24年に、大阪高裁が、包括遺贈と特定遺贈(特に相続人に対するもの)とで農地法3条の許可の要否を分ける合理的な理由がないとの判決を下したため、平成24年12月24日に農地法施行規則の改正がなされることとなり、同日以降、相続人に対する特定遺贈についても農地法3条の許可が不要とされることとなりました。
⑷ 不動産取得税が課税されないか
不動産を取得した場合には、地方税として不動産取得税が課税されます。
不動産取得税の税率は3~4%前後ですが、一定の軽減措置も設けられています。
この点、相続させる遺言による不動産の取得、包括遺贈による不動産の取得、相続人に対する特定遺贈による不動産の取得については、不動産取得税が非課税とされています。
このため、現在では、農地法3条の許可申請が不要な場合=不動産取得税が課税されない場合になっています。
弁護士として相談を受ける際にも、実際に手続を行うことが可能か、どのような税金がかかるかについては、把握しておく必要がある部分だと思います。
相続させる遺言と遺贈する遺言1
1 遺言の種類
遺言の文例を確認すると、「●●に相続させる」と記載しているものと、「●●に遺贈する」と記載しているものがあります。
こうしたわずかな書き方の違いがあるだけで、まったく異なる種類の遺言が作成されたと扱われることとなります。
このため、書き方が違うだけで、遺言による手続の進め方や、課税される税金も違ってくることがあります。
ここでは、遺言の種類について、概略を説明したいと思います。
2 相続させる遺言
相続させる遺言は、相続人が遺産分割する方法を指定するものです。
このため、相続人に対してのみ、相続させる遺言を残すことができます。
仮に、相続人以外の人に対して、形上、「●●に相続させる」との文言の遺言を作成したとしても、その遺言は後述の遺贈する遺言に読み替えられることとなります。
3 遺贈する遺言
遺贈する遺言は、特定の人に遺産を引き継ぐものとすることを記載したものとなります。
遺贈する遺言は、相続人に対しても、相続人以外の人に対しても、残すことができます。
4 包括遺贈と特定遺贈
遺贈する遺言には、包括遺贈と特定遺贈があります。
包括遺贈と特定遺贈のどちらかであるかによっても、異なる手続により名義変更がなされ、異なる税金が課税される可能性がありますので、ここで違いを説明しておきたいと思います。
包括遺贈は、「すべての財産を遺贈する」、「財産の2分の1を遺贈する」というように、個々の財産を特定せず、遺産全体をまとめて遺贈することを言います。
特定遺贈は、「●●市●●町●●番地の土地、建物を遺贈する」というように、個々の財産を特定して遺贈することを言います。
中には、包括遺贈か特定遺贈か、判断に迷うことがあります。
たとえば、「預貯金のすべてを遺贈する」、「預貯金の全額の2分の1を遺贈する」の場合はどうでしょうか?
この場合は、預貯金全体をまとめて遺贈していますが、遺産全体をまとめて遺贈しているわけではありません。
このため、特定遺贈に該当すると解釈されます。
「●●市●●町●●番地の土地、建物以外の財産を遺贈する」の場合はどうでしょうか?
この場合は、特定の不動産以外については、遺産全体をまとめて遺贈することとなりますので、包括遺贈に該当すると解釈されます。
こうした遺言の解釈は、専門家でも迷うところですので、相続に詳しい弁護士にご相談いただいた方が良いと思います。
権利落ちと上場株式の相続税評価
1 上場株式の相続税評価の方法
上場株式については、以下の4つの金額のうち、最も低い金額が評価額となり、相続税が課税されることとなります。
・ 被相続人が亡くなった日の終値
・ 被相続人が亡くなった月の終値の平均
・ 被相続人が亡くなった前月の終値の平均
・ 被相続人が亡くなった前々月の終値の平均
2 権利落ちがある場合の例外
以上の原則に対して、権利落ちがあった場合には、権利落ちよりも前の取引日の終値をもって、被相続人が亡くなった日の終値とします。
そもそも、権利落ちとは何なのでしょうか?
これは、投資を行っていると、よく知っている方が多いと思いますが、一般的な弁護士にとっては、馴染みが薄い概念だと思います。
株式を保有していると、新株の割当や配当等、一定の利益を得られることがあります。
このような新株の割当や配当は、権利確定日に株式を保有している人に対してなされます。
配当に関しては、多くの場合、3月、6月、9月、12月の最後の平日に株式を保有している人に対してなされます(一般には、3月、9月の最後の平日に配当を行う会社が多いでしょう)。
しかし、実際には、権利確定日の当日に株式を取得したとしても、新株の割当や配当を受けることはできません。
株式を取得してから株主名簿に株主として名前が記載されるまで、現在でも、2営業日の日数を要するからです。
このため、新株の割当や配当を受けるには、権利確定日の2営業日前(これを権利付最終日といいます)までに株式を取得する必要があります。
そうすると、権利確定日の1営業日前に株式を取得した場合と、権利確定日の当日に株式を取得した場合には、権利確定日までに株式を取得したにもかかわらす、株主名簿に株主として記載されていないという手続上の理由から、新株の割当や配当を受けることができないこととなります。
このような事情から、理論上は、権利確定日の1営業日前(これを権利落ち日といいます)と権利確定日の当日には、株価が本来よりも低い金額で値動きするといわれています。
このように、株主名簿に株主として記載されていないという手続上の理由により、新株の割当や配当を受ける権利が消滅することを権利落ちといいます。
このような事情から、被相続人が亡くなったのが権利確定日の1営業日前(権利落ち日)または権利確定日の当日である場合は、本来の株価で評価を行うため、権利確定日の2営業前の終値をもって、被相続人が亡くなった日の終値とします。
配当に関しては、被相続人が亡くなったのが、3月、6月、9月、12月の最後の平日、最後から2番目の平日である場合に、権利落ちの問題が生じ、権利確定日の2営業日前の終値で評価しなければならなくなる可能性があります。
※ もちろん、業績不振等の理由により実際に配当がなされていなければ、権利落ちの問題が生じることはありません。
相続放棄と相続財産の管理義務2
このように、従来の民法では、民法940条により、相続放棄をした人が、相続放棄を行った後も、相続財産について管理義務を負うかどうかが問題となり得る場面が広かったと言えます。
もっとも、今後は、このような問題が生じ得る場面は限られてくることとなりそうです。
というのも、令和3年(2021年)の民法改正により、すでに民法940条の改正がなされており、令和5年4月1日以降、改正法の施行が予定されているためです。
このため、令和5年(2023年)4月1日以降は、改正後の民法940条の規定により、相続放棄を行った人の管理責任が決まることとなります。
それでは、改正後の民法940条では、どのような規定がなされているのでしょうか?
改正後の民法940条の条文は、以下のとおりです。
民法940条1項 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
改正に伴う変更点は複数ありますが、ここで着目したいのは、相続財産を保存する義務の範囲が、相続放棄の時に現に占有している財産に限定されているということです。
裏返せば、現に占有している財産でなければ、相続放棄をした人は、相続財産を保存する義務を負わないこととなります。
相続放棄の時に現に占有している財産というと、たとえば、相続放棄の時点で現に居住したり、使用収益(第三者への賃貸を含む)したりしている不動産が該当することとなります。
裏返せば、現に居住したり使用収益したりしていない不動産については、保存の義務を負わないこととなります。
また、相続時点で居住したり使用収益したりしていた不動産であったとしても、相続放棄を行うまでに退去したり使用収益を停止したりした場合には、保存の義務を負わないこととなりそうです。
このように、改正後の民法940条の施行後は、相続放棄をした人が相続財産を保存する義務を負う場面は、かなり限定されることとなりそうです。
このため、改正法の施行後は、相続財産の管理上の心配から、新たに相続人となった人への財産の引き継ぎや、相続財産管理人の選任について、弁護士等が相談をお受けすべき場面も、少なくなる可能性があります。
この点については、改正後の運用面も含めて、注視していく必要がありそうです。