日別アーカイブ: 2018年9月7日

相続法改正(遺留分減殺請求)3

遺留分減殺請求権の金銭債務化については,もう1つ気になっている点があります。
それは,課税関係の変化が生じるのではないかということです。

前回と同じく,遺産がA不動産とB不動産であり,預貯金等の金融資産がほとんどない場合を考えたいと思います。同じく,当方が遺言によりすべての遺産を取得することとされており,相手方が遺留分減殺請求権を行使したとします。

こうした事例で,当方が遺留分に相当する金銭を支払うことができない場合に,相手方と合意し,金銭の代わりにB不動産を相手方に譲渡するとの解決がなされることがあります。
相手方と合意ができれば,改正法においても,こうした解決を行うこともできることとなります。

ここで問題となってきそうなのが,本来金銭債務であるはずの遺留分減殺請求権の行使に対して,不動産を代わりに譲渡することで解決を図ることは,代物弁済に他ならないと捉えられるのではないかということです。
そして,不動産をもって代物弁済を行った場合には,不動産を譲渡した当方に対し,譲渡所得税が課税されることとなります。
この譲渡所得税は,取得費が少額である場合や取得費を証明できない場合には,かなりの経済的負担になります。具体的には,代物弁済時の不動産の評価額の約15%の所得税(長期譲渡所得)が課されることとなります(さらに,住民税5%の課税,健康保険料の増額等もなされることとなります)。
このため,改正法では,不動産を譲渡することによる解決を図った場合,莫大な課税がなされるのではないかという懸念があるところです。

このように,改正法では,遺留分減殺請求権が金銭債務化されることで,遺言により財産を取得した人にとって,酷な結果が生じる可能性があります。
この点を踏まえると,預貯金等の金融資産が多くない場合には,将来の遺留分減殺請求権の行使を想定し,どのような遺言を作成するかを慎重に検討する必要が生じてくるように思います。

1つの結論として,預貯金等の金融資産が多くない場合には,「すべての財産を○○に相続させる。」との遺言は,今後は,大きな問題を引き起こす可能性があるということが言えそうです。
このような問題は,遺言作成の段階で,「A不動産は○○に相続させる。B不動産は××に相続させる。」とすることにより,避けることができるでしょう。
遺言により不動産を分けて取得することとしていれば,B不動産の取得について,譲渡所得税が課税されないで済むこととなります。
このように,遺言作成の段階で工夫をすることにより,多額の課税を避け,より多くの財産を次世代に引き継ぐことができるのです。

このように,今後は,改正法を踏まえ,遺言作成の段階で,より多くの工夫を行う必要があることとなりそうです。
弁護士として遺言作成に関与する場面でも,適切な助言を行えるよう,課税関係も含めた情報収集が必要になってきそうです。