相続法改正(配偶者居住権)3

配偶者居住権は,今回の相続法改正の目玉の1つと言うべきものです。
もっとも,私自身は,配偶者居住権が用いられる場面は,実際にはそれ程多くないのではないかと考えています。

遺産分割審判において,配偶者居住権が設定される場合としては,以下のように定められています。

改正民法1029条
遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は,次に掲げる場合に限り,配偶者が配偶者の居住権を取得する旨を定めることができる。
一 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについての合意が成立しているとき
二 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において,居住建物の所有者の定める不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき

このうち,「一 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについての合意が成立しているとき」については,紛争関係にある当事者の一方が底地と建物を所有し,他方が配偶者居住権を取得することを合意することは,そうそうないことだと思いますので,適用される場面は少ないと思います。
それでは,「二 …居住建物の所有者の定める不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき」についてはどうでしょうか。

一般に,家庭裁判所は,遺産分割審判により,後日の紛争の火種をできるだけなくそうとする傾向にあります。
たとえば,家庭裁判所は,遺産分割により,対立関係にある相続人が不動産を共有するものとすること(いわゆる共有分割)は,避けようとする傾向にあります。不動産を共有にすることは,基本的には,他に解決方法がない場合の最後の手段と位置づけられています。これは,対立関係にある相続人が不動産を共有することにより,後日の紛争の火種が残ってしまうからです。
この点については,紛争関係にある当事者の一方が底地と建物を所有し,他方が配偶者居住権を取得することとした場合も同様だと考えられます。こうした状態が長期間継続することは,後日の紛争の火種となりかねません。
この点を踏まえると,「二 …居住建物の所有者の定める不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき」として配偶者居住権が設定されることは,他に解決方法がない場合に限られてくるのではないかと思われます。たとえば,配偶者の有する相続分額が少額であり,建物の所有権を取得することができないが,建物の一部の権利である配偶者居住権であれば取得できるような場合です。
そして,築後何十年も経過した建物であれば,建物の固定資産評価額は,金額がかなり減価していることが多いです。この点も踏まえると,建物の所有権を取得することができないが,建物の一部の権利である配偶者居住権であれば取得できるような場合自体,かなり限られた事例になってくるのではないかと思います。

以上は,家庭裁判所が遺産分割審判を行う場合の話です。
これに対して,遺産分割協議や遺産分割調停の場面では,法律の規定だけ読むと,配偶者居住権を設定できる場合については,特に制限が設けられていません。
しかしながら,弁護士が関与するような紛争事案では,遺産分割協議や遺産分割調停の場面でも,遺産分割審判になった場合の分割方法を念頭に置いて協議を行います。このため,遺産分割審判で配偶者居住権が認められる事例が限られてくると,遺産分割協議や遺産分割調停で配偶者居住権が設定される場面も,限られてくるのではないかと思われます。

このように考えると,配偶者居住権が用いられる場面は,実務上それ程多くないのではないかと予想されます。
この点については,今後の運用を注視していく必要があるように思います。

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