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相続法改正(遺留分減殺請求)5

6 その他の影響①
相続法改正により,遺留分減殺請求が金銭の請求権となったことの影響は,様々な場面で現れてくると思います。
改正により影響が現れると思われるいくつかの場面を紹介したいと思います。

⑴ 現行法における金融機関の取り扱いについて
現行法では,「相続させる」旨の遺言により財産を取得した人は,相続財産である預金の払戻を行うことができます。
ところが,遺言により財産を取得しなかった相続人が遺留分減殺請求権を行使したことが明らかになると,金融機関は,遺言により財産を取得した人から請求があっても,預金の払戻に応じてなくなってしまいます。
これは,現行法では,遺留分減殺請求権が行使されることにより,預金のうち遺留分に相当する分が遺留分減殺請求を行った相続人に帰属することとなるためであると言われています(物権的効果説)。

⑵ 予想される相続法改正の影響について
ところが,改正相続法では,遺留分減殺請求を行った相続人は,金銭の請求のみができることとなります。
他方,相続財産である預金については,遺言によって財産を取得した相続人にのみ帰属することとなり,遺留分を主張する相続人は,何らの権利も有しないこととなってしまいます。
この点を踏まえると,理屈上は,改正相続法の下では,金融機関は,遺留分減殺請求がなされていたとしても,遺言によって財産を取得した相続人に対して払戻を行うこととなりそうです。

現行法下では,金融機関に対して遺留分減殺請求権を行使したとの通知を行うことにより,遺言により財産を取得した相続人に対して預金の払戻がなされず,預金が金融機関に預けられたままとなり,後日,遺留分減殺請求権を行使した相続人の権利実現の担保となっていた側面がありました。
これに対し,改正相続法の下で,金融機関に対して遺留分減殺請求権を行使したとの通知を行ったとしても,遺言により財産を取得した相続人に対して預金の払戻がなされることとなってしまうと,払い戻された預金が費消されてしまい,後日,遺留分に相当する権利が実現できなくなってしまう可能性があります。

もちろん,将来の権利実現に不安がある場合には,遺留分減殺請求権を被保全権利として,預金の仮差押を行うことも考えられますが,仮差押に際しては,多額の供託金を供託する必要があります(最近の事例でも,遺留分額の3割程度の供託金を供託した例があります)。多額の供託金を準備できるのであれば問題は少ないですが,現実には,多額の供託金が準備できないこともあります。
また,預金以外に強制執行の対象となり得る財産がある場合には,このような財産について強制執行を行うことも考えられますが,強制執行に適した財産が存在しない場合には,やはり,遺留分に相当する権利が実現できないという問題が生じてしまいます。
このように,改正法の下では,遺留分に相当する権利が実現できない事案が出てくるのではないかという懸念もあるところです。

このように,相続法の改正により,様々な実務上の取り扱いが変わる可能性があります。
弁護士としては,金融機関等の実務上の取り扱いの変化も注視しなければならないところだと思います。

相続法改正(遺留分減殺請求)3

4 課税関係についての懸念
遺留分減殺請求権の金銭債務化については,もう1つ気になっている点があります。
それは,課税関係の変化が生じるのではないかということです。

前回と同じく,遺産がA不動産とB不動産であり,預貯金等の金融資産がほとんどない場合を考えたいと思います。同じく,当方が遺言によりすべての遺産を取得することとされており,相手方が遺留分減殺請求権を行使したとします。

こうした事例で,当方が遺留分に相当する金銭を支払うことができない場合に,相手方と合意し,金銭の代わりにB不動産を相手方に譲渡するとの解決がなされることがあります。
相手方と合意ができれば,改正法においても,こうした解決を行うこともできることとなります。

ここで問題となってきそうなのが,本来金銭債務であるはずの遺留分減殺請求権の行使に対して,不動産を代わりに譲渡することで解決を図ることは,代物弁済に他ならないと捉えられるのではないかということです。
そして,不動産をもって代物弁済を行った場合には,不動産を譲渡した当方に対し,譲渡所得税が課税されることとなります。
この譲渡所得税は,取得費が少額である場合や取得費を証明できない場合には,かなりの経済的負担になります。具体的には,代物弁済時の不動産の評価額の約15%の所得税(長期譲渡所得)が課されることとなります(さらに,住民税5%の課税,健康保険料の増額等もなされることとなります)。
このため,改正法では,不動産を譲渡することによる解決を図った場合,莫大な課税がなされるのではないかという懸念があるところです。

5 今後の対応
このように,改正法では,遺留分減殺請求権が金銭債務化されることで,遺言により財産を取得した人にとって,酷な結果が生じる可能性があります。
この点を踏まえると,預貯金等の金融資産が多くない場合には,将来の遺留分減殺請求権の行使を想定し,どのような遺言を作成するかを慎重に検討する必要が生じてくるように思います。

1つの結論として,預貯金等の金融資産が多くない場合には,「すべての財産を○○に相続させる。」との遺言は,今後は,大きな問題を引き起こす可能性があるということが言えそうです。
このような問題は,遺言作成の段階で,「A不動産は○○に相続させる。B不動産は××に相続させる。」とすることにより,避けることができるでしょう。
遺言により不動産を分けて取得することとしていれば,B不動産の取得について,譲渡所得税が課税されないで済むこととなります。
このように,遺言作成の段階で工夫をすることにより,多額の課税を避け,より多くの財産を次世代に引き継ぐことができるのです。

このように,今後は,改正法を踏まえ,遺言作成の段階で,より多くの工夫を行う必要があることとなりそうです。
弁護士として遺言作成に関与する場面でも,適切な助言を行えるよう,課税関係も含めた情報収集が必要になってきそうです。

相続法改正(遺留分減殺請求)2

1 遺留分減殺請求権(現行法)
遺言により,特定の相続人が遺産のすべてを取得することとされることがあります。
このような場合であっても,他の相続人は,遺留分減殺請求権を行使し,遺産の一定割合について権利主張することができることとされています。

現行法では,遺留分減殺請求権を行使すると,遺言により特定の相続人が取得した財産について,遺留分減殺請求権を行使した人は,共有持分をもつこととなります(物権的効果説)。
たとえば,不動産については,遺留分減殺請求権を行使することにより,遺言により財産を取得した相続人と,遺留分減殺請求権を行使した人は,その不動産を共有することとなります。

ただし,現行法でも,遺言により財産を取得した相続人が,金銭の支払による解決を望む場合は,遺留分減殺請求を行使した人に対して金銭を支払うことにより,不動産全体の所有権を得ることができます(価額弁償)。

2 遺留分侵害額請求権(改正法)
この点について,改正民法は,次のような規定を置いています。

改正民法1046条
遺留分権利者及びその承継人は,受遺者又は受贈者に対し,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

このように,改正相続法では,遺留分減殺請求権は,金銭の請求権とされることとなります(正確には,遺留分侵害額請求権に名称が変わりますが,便宜上,遺留分減殺請求権と記載します)。

3 注意を要する事案
このような法改正は,遺産に多額の預貯金や有価証券が含まれている場合には,それ程大きな問題を引き起こしません。
困難な問題が生じるのは,遺産の大部分が不動産であるような場合です。

たとえば,遺産がA不動産とB不動産であり,預貯金等の金融資産がほとんどない場合を考えます。そして,当方が遺言によりすべての遺産を取得することとされていたとします。
現行法では,相手方が遺留分減殺請求権を行使したら,A不動産もB不動産ともに遺留分減殺権を行使した相手方と共有することとなります。
そして,A不動産を当方が現に利用している場合には,共有物分割を行ったとしても,当方がA不動産を取得し,相手方がB不動産を取得するとの結論になることが予想できます。

これに対して,改正法では,遺留分減殺請求権は金銭の請求になります。
このため,当方は,相手方の遺留分減殺請求に対しては,金銭の支払をもって解決する義務を負うこととなってしまいます。
たとえ,当方が代わりにB不動産を相手方に譲渡することで解決したいと思ったとしても,相手方がこれを拒否し,あくまでも金銭を請求するとの対応を行う場合には,当方は,金銭の支払を免れることができません。
このため,当方は,B不動産を売却し,(取得費が少額である場合や取得費を証明できない場合には,)多額の譲渡所得税を納付し,仲介手数料も負担した上でこれを金銭に換え,相手方に対して遺留分に相当する金銭の支払を行わなければならないことになります。

このように,改正相続法は,事案によっては,当事者にとって酷な結果を招きかねないものです。
弁護士として対応する場合にも,慎重な対応が必要になる場面が出てきそうです。

相続法改正(配偶者居住権)3

6 配偶者居住権が利用される場面(予想)
配偶者居住権は,今回の相続法改正の目玉の1つと言うべきものです。
もっとも,私自身は,配偶者居住権が用いられる場面は,実際にはそれ程多くないのではないかと考えています。

⑴ 遺産分割審判の場合
遺産分割審判において,配偶者居住権が設定される場合としては,以下のように定められています。

改正民法1029条
遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は,次に掲げる場合に限り,配偶者が配偶者の居住権を取得する旨を定めることができる。
一 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについての合意が成立しているとき
二 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において,居住建物の所有者の定める不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき

このうち,「一 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについての合意が成立しているとき」については,紛争関係にある当事者の一方が底地と建物を所有し,他方が配偶者居住権を取得することを合意することは,そうそうないことだと思いますので,適用される場面は少ないと思います。
それでは,「二 …居住建物の所有者の定める不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき」についてはどうでしょうか。

一般に,家庭裁判所は,遺産分割審判により,後日の紛争の火種をできるだけなくそうとする傾向にあります。
たとえば,家庭裁判所は,遺産分割により,対立関係にある相続人が不動産を共有するものとすること(いわゆる共有分割)は,避けようとする傾向にあります。不動産を共有にすることは,基本的には,他に解決方法がない場合の最後の手段と位置づけられています。これは,対立関係にある相続人が不動産を共有することにより,後日の紛争の火種が残ってしまうからです。
この点については,紛争関係にある当事者の一方が底地と建物を所有し,他方が配偶者居住権を取得することとした場合も同様だと考えられます。こうした状態が長期間継続することは,後日の紛争の火種となりかねません。
この点を踏まえると,「二 …居住建物の所有者の定める不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき」として配偶者居住権が設定されることは,他に解決方法がない場合に限られてくるのではないかと思われます。たとえば,配偶者の有する相続分額が少額であり,建物の所有権を取得することができないが,建物の一部の権利である配偶者居住権であれば取得できるような場合です。
そして,築後何十年も経過した建物であれば,建物の固定資産評価額は,金額がかなり減価していることが多いです。この点も踏まえると,建物の所有権を取得することができないが,建物の一部の権利である配偶者居住権であれば取得できるような場合自体,かなり限られた事例になってくるのではないかと思います。

⑵ 遺産分割協議,遺産分割調停の場合
以上は,家庭裁判所が遺産分割審判を行う場合の話です。
これに対して,遺産分割協議や遺産分割調停の場面では,法律の規定だけ読むと,配偶者居住権を設定できる場合については,特に制限が設けられていません。
しかしながら,弁護士が関与するような紛争事案では,遺産分割協議や遺産分割調停の場面でも,遺産分割審判になった場合の分割方法を念頭に置いて協議を行います。このため,遺産分割審判で配偶者居住権が認められる事例が限られてくると,遺産分割協議や遺産分割調停で配偶者居住権が設定される場面も,限られてくるのではないかと思われます。

このように考えると,配偶者居住権が用いられる場面は,実務上それ程多くないのではないかと予想されます。
この点については,今後の運用を注視していく必要があるように思います。

相続法改正(配偶者居住権)2

先日,弁護士会で,相続法改正の講演会がありました。
改正相続法については,来年以降施行となっており,施行の時期が当初の想定よりも早まっています。
今後,改正相続法についての情報が色々な場面で出てくると思いますので,一層,情報収集が必要となってきそうです。

4 配偶者居住権の評価方法(追記)
改正相続法が配偶者居住権を新設予定であることは,先日紹介したとおりです。
改正後は,審判において,配偶者居住権が設定される例も(多数ではないと思いますが,)出てくるところでしょうし,調停や協議において,配偶者居住権の設定を前提とする話し合いが行われる例も出てくるところでしょう。

このような場面では,配偶者居住権をどのように評価するかが問題となってきます。
この点については,改正民法は何らの規定も置いていませんので,最終的には実務に委ねられることとなりますが,当面は,立法段階でどのような議論が行われていたかが参考にされることが多いのではないかと思います。
相続法改正の部会の議論では,先日も紹介したとおり,以下のような算定方法が挙げられていました。

配偶者居住権の評価=賃借権の評価額+(賃借権の評価額×存続期間-中間利息

もっとも,上記の計算方法については,賃借権をどのように評価するか,存続期間を何年と設定するか等が不明であり,やはり算定が困難であるとの問題があります。
このため,最後の方の部会では,簡易な計算方法として,以下の算定方法が挙げられていました。

建物の固定資産評価額-建物の固定資産評価額×{法定耐用年数-(経過年数+存続年数)}÷(法定耐用年数-経過年数)×ライプニッツ係数

終身の場合は,存続年数は簡易生命表記載の平均余命とする。

確かに,上記の計算方法を用いれば,それぞれの事案において,すべての数値を確定することができます。
上記の計算方法は,あくまでも立法段階での議論ですので,実務でも上記の計算方法が用いられるかは不確定なところがありますが,当面の間は,参照される場面が多いのではないかと予想されます。

5 注目すべきポイント
上記の計算方法を用いる場合,配偶者居住権は,建物の評価額の一部であることとなります。
建物の固定資産評価額は,築後何十年も経過した建物である場合,金額がかなり減価していることが多いです。
このため,配偶者居住権の評価額を算定した結果,評価額がそれ程大きくならないことも多いのではないかと考えられるところです。
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和洋折衷なデザートです。
食べると少しずつ味が変わるため,面白い工夫だと思いました。

相続法改正(配偶者居住権)1

1 配偶者居住権の創設
改正相続法では,新たに,配偶者居住権を創設することが予定されています。
配偶者居住権に関する条文は,以下のとおりです。

改正民法1028条
被相続人の配偶者は,被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において,次の各号のいずれかに該当するときは,その居住していた建物の全部について無償で使用及び収益をする権利を取得する。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき

このように,被相続人の配偶者は,①遺産分割によって居住権を取得するものとされたときか,②居住権が遺贈の目的とされたときには,自宅不動産の居住権を取得することができるとされています。

2 持ち戻し免除の意思表示の推定
さらに,改正民法1028条3項は,婚姻期間が20年以上の夫婦の場合は,配偶者の居住権の取得について,持ち戻し免除の意思表示がなされたものと推定するとの規定を置いています。
たとえば,相続人が配偶者と子の2名であり,遺産総額が2000万円,配偶者居住権の評価額が1000万円の場合があったとします。
この場合,配偶者の相続分は2分の1ですので,改正民法1028条3項がなければ,配偶者は,1000万円の居住権を取得すると,その他の遺産(預貯金等)を取得することができなくなってしまいます。
この点,改正民法1028条3項が新設されると,居住権については持ち戻し免除の意思表示がなされたと推定されますので,配偶者は,その他の遺産(預貯金等)について,さらに2分の1を取得することができることとなります。

このように,改正民法1028条3項は,居住権以外の遺産について,配偶者の権利主張ができる範囲を拡大し,配偶者の生活保障を行うことを意図するものです。
現行の審判例では,多くの事案において,黙示の持ち戻し免除の意思表示がなされたとの認定が行われていますので,持ち戻しの免除の意思表示がなかったことを証明することは,事実上困難であるように思います。このため,改正民法1028条3項は,文言上は推定規定ですが,みなし規定に近いものと扱われるのではないかと思います。

3 持ち戻し免除の意思表示の推定が及ぶ範囲
このように,改正民法は,婚姻期間20年以上の配偶者が,遺産分割によって居住権を取得したときには,居住権について持ち戻し免除の意思表示がなされたとの推定を行うこととしています。
ここで疑問となってくるのは,たとえば,遺産分割調停・審判において,婚姻期間20年以上の配偶者が自宅不動産を取得する場合に,居住権相当額につき,持ち戻し免除の推定規定が及ぶかどうかということです。
遺産分割により自宅の居住権を取得した場合については,改正民法1028条3項の規定が及ぶことは明らかですが,遺産分割により自宅そのものを取得した場合には,同項の規定が及ぶかどうかについては,定かではありません。

この場合についても,居住権相当額について持ち戻し免除の意思表示がなされたとの推定がなされなければ,アンバランスになるように思います。
反面,居住権相当額が広く持ち戻し免除の意思表示の推定の対象になると,多くの調停・審判手続において,持ち戻し免除の対象にならない部分(自宅の評価額-居住権の評価額)がいくらであるかを算定して遺産分割を行わなければならないこととなってしまいます。調停・審判において,不動産の評価方法につき,相続人のコンセンサスを得られず,手続が紛糾し,長期化することも多い中で,さらに居住権の評価も行わなければならないとなると,さらに手続が紛糾し,長期化する結果を招くこととなりかねません(相続法改正の部会資料には,「賃借権の評価額+(賃借権の評価額×存続期間-中間利息)」の計算式により算定できるとの記載もありますが,賃借権の評価方法や存続期間をどのように算定するかは,明らかではありません)。

この点も含めて,今後の弁護士の活動にも影響する部分が多々ありますので,相続法改正についての議論を注視する必要があるように思います。

相続法改正(遺留分減殺請求)1

1 相続法改正について
先日,相続法の改正案が,衆議院の法務委員会で審議入りとなりました。
早ければ,2022年には,改正相続法が施行されることとなる見込みです。

個人的な意見としては,相続法改正案については,実務上,多大な混乱をもたらすであろう条項も含まれており,改正の可否について,慎重な審理が行われるべきであると考えています。
とはいえ,弁護士実務に携わる者としては,改正相続法の施行後を見据え,実務上,どのような変化が生じるかについて,試行錯誤を行っておくべきところです。

改正のポイントは何個かありますが,個人的に気になっている部分について,何個か紹介を行いたいと思います。

2 遺留分についての改正のポイント
遺留分については,次のような改正が予定されています。

改正民法1044条
1 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

現在の民法では,遺留分額算定の基礎となる財産には,相続人に対する贈与のうち,いわゆる特別受益に当たるものを加算して計算するとの解釈がなされています。
このため,特定の相続人が,遺産のほとんどを取得し,かつ,生前にも多額の贈与を受けていた場合には,遺産の額に生前贈与された財産を加算した額について,遺留分減殺請求を行うことができます。

これに対して,上記の改正案では,相続人に対する贈与のうち,いわゆる特別受益に当たるものについては,相続開始前10年間にされたものに限り,遺留分算定の基礎となります。
裏返せば,相続開始前10年以上前に贈与された財産については,遺留分の算定に当たっては,考慮されないこととなってしまいます。

3 改正の影響について(予想)
こうした改正により,今後,早期に生前贈与を行うことで,贈与を受けていない相続人からの遺留分減殺請求が行いにくくなることが予想されます。
なぜなら,早期に生前贈与を行うことにより,相続開始前10年以上前になされた贈与に該当する可能性が高まり,遺留分の算定に当たって考慮されない贈与となる可能性が高くなるからです。
この点を踏まえると,まとまった財産を特定の後継者に引き継がせることを希望する場合には,「早期に生前贈与を行うことにより,将来,遺留分減殺請求の対象となる財産を,できるだけ少なくする」といった相続対策がとられる可能性が高くなるように思います。

4 追記
なお,こうした相続対策については,改正民法1044条2項が,「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたとき」も遺留分算定の基礎に含めるとの規定を行っているため,歯止めの役割を果たすのではないかという意見もあるかもしれません。
しかし,改正民法1044条2項の「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をした」ことについては,実際には,証明がかなり困難であり,現行法の裁判例も,条項の適用範囲を限定しています。
このため,改正民法1044条2項が歯止めの役割を果たす場面は,ほとんどないのではないかと思います。

遺言の付言事項と遺留分減殺請求2

5 事実に反する付言事項
遺言の付言事項に記載された内容は,訴訟において有力な証拠として利用されることがあります。
実際の事件でも,付言事項において,特定の相続人が贈与を受けたことが記載されていたため,その記載に基づき,過去に贈与が行われたことが認定され,遺留分等の主張が認められなかった例があります。

ところが,現実には,過去に贈与を受けたことがないにもかかわらず,付言事項において贈与を受けたと書かれている,実際に贈与を受けた金額を遥かに超える金額の贈与がなされたことが付言事項に書かれているといったことがあります。
付言事項にこうした事実とは異なる記載がなされる原因には,たとえば,一部の相続人が財産のすべてを引き継ぐことを希望し,「他の相続人が多額の生前贈与を受けているため,遺留分等の主張をすることができない」ことを遺言に記載することを要望したためである,といったものがあります。

6 具体的な対応方法
もちろん,付言事項に贈与を受けたと記載されていたとしても,事実に反する記載であることが明らかになれば,訴訟でも贈与を受けたと認定されることはなく,遺留分等の主張を行うことができます。
ただ,遺言書の付言事項に書かれていることは有力な証拠となりますので,どのようにして付言事項に書かれた内容が事実に反するものであることを明らかにできるかが,悩ましい問題となることがあります。
過去の事例では,贈与が行われたと記載されている前後の時期の,預貯金の履歴を照合する,現金の受け渡しの際に作成されたとされる受領証の内容を検証するといった行動を地道に行うことにより,実際には贈与は行われていなかったという認定を得ることができた例があります。
この事例では,預貯金の履歴から,実際には被相続人の預貯金が他の人物の口座に移動していたことが明らかになったこと,受領証の内容にも不自然な点があったこと等から,実際には贈与は行われていないとの認定を得ることができました。

こうした事実に反する記載が存在する事例では,地道な証明活動が結論を左右する可能性があります。
当方の主張を基礎付ける証拠を得ることができるかどうかが重要なポイントになりますので,こうした案件については,証拠収集の方法等を熟知している弁護士にご相談いただいた方が良いと思います。

遺言の付言事項と遺留分減殺請求1

1 遺言による紛争の予防
遺言を作成し,どの財産を誰が取得するかを定めておくことにより,将来,相続の場面で,争いが発生することを予防することができると言われています。
確かに,遺言を作成しなかった場合は,相続人間で遺産分割についての合意を行うまでは,払戻・名義変更等の手続を進めることができなくなってしまいます。
これに対し,遺言を作成しておくと,基本的には,遺言に基づいて払戻・名義変更等を行うことができます。

2 遺留分減殺請求の可能性
もっとも,遺言を作成したとしても,実際に相続が発生すると,様々な争いが生じる可能性があります。
たとえば,作成した遺言が無効であるとの主張がなされることもありますし,遺留分減殺請求がなされることもあります。
このような場合には,相続人間の協議・法的手続による解決が必要になることがあります。
このような場面で最も主張されることが多いのが,遺留分減殺請求です。
たとえば,遺言により,特定の相続人がすべての相続財産を取得することとしたとしても,他の相続人が遺留分減殺請求を行い,相続財産に対する権利を主張する可能性があります。
そして,遺留分減殺請求がなされた時点で銀行の払戻が完了していなければ,遺留分減殺請求がなされていることを理由に銀行が払戻に応じず,相続人間での紛争が解決するまで,預貯金を動かすことができなくなってしまうこともあります。
それでは,こうした紛争を避けるために,遺言作成時点で,何らかの予防策を設けておくことはできないのでしょうか。

3 付言事項の利用
この点については,どのような場合に,特定の相続人がすべての財産を取得するという内容の遺言が作成されるかを押さえる必要があります。
1つの理由として,他の相続人がすでに十分な生前贈与を受けており,さらに相続財産の何割かを取得するのは不公平だからというものが挙げられます。
このような場合には,紛争を予防するための方策として,遺言の付言事項を利用することが考えられます。
付言事項とは,遺言に記載されているものの,法的な効力はないとされる記載事項のことを言います。
上記の場合でしたら,付記事項として,他の相続人がすでに十分な生前贈与を受けているため,特定の相続人がすべての財産を取得する内容の遺言を作成したとの記載を設けることが考えられます。
重要なのは,このような記載を設ける場合は,贈与の時期,金額,方法(現金を手渡ししたか,銀行振込をしたか)等を特定して記載することです。
このような付言事項を設けることにより,仮に遺留分減殺請求が行われたとしても,付記事項が生前贈与の存在を証明する重要な証拠になることがあります(日記に記載することも考えられますが,相続人が記載を発見できない可能性があること等を考えると,付言事項に記載する方が,より確実でしょう)。

4 実際に遺留分減殺請求がなされた場合
相続人に対して生前贈与された財産については,(表現としてはやや不正確ですが,)遺留分額から引き算されることになります。
このため,遺留分額を大きく超える額の生前贈与がなされている場合には,他の相続人からの遺留分減殺請求が法律上認められなくなる可能性があります。
反面,過去に生前贈与がなされたことを証明する手段がなければ,実際には生前贈与がなされているのに,他の相続人からの遺留分減殺請求がそのまま認められてしまうこともあり得ます。
付言事項で生前贈与の存在を証明することができる状態を作っておけば,たとえば,他の相続人が弁護士に遺留分減殺請求についての相談を行ったとしても,弁護士が付言事項の存在を確認し,遺留分減殺請求を行うことは困難であるとの助言を行うことにより,他の相続人が遺留分減殺請求を断念する可能性もあります。
このことを考えると,付言事項が,将来の紛争を予防できるかもしれないという点で,重要な意味を持ち得ることが分かります。

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遺留分減殺請求権を行使できる期間

1 期間制限の存在
遺留分減殺請求権については,法律上,請求することができる期間が制限されています。
まず,遺留分が侵害されている事実を知ってから1年以内に,遺留分減殺請求する旨の意思表示を行う必要があります。
また,相続開始の時から10年が経過すると,遺留分減殺請求権を行使することができなくなってしまいます。
特に問題になりやすいのが,1年間の期間制限です。
1年間は,長いようで短いですので,期間制限の存在を知らなかったため,遺留分減殺する旨の意思表示を行うことなく,1年間が経過してしまうといった事態があり得るところです。
そして,1年の期間が経過してしまうと,相手方が消滅時効の主張を行えば,最早,遺留分の請求を行うことはできなくなってしまいます。わずか1日対応が遅れただけでも,権利行使をすることが一切できなくなってしまうのです。
このため,弁護士として活動する場合にも,1年の期間制限の存在については,細心の注意を払う必要があります。

2 いつから1年間か
1年間の期間は,遺留分が侵害されている事実を知った時を起点として計算されることになっています。
裏返せば,遺留分が侵害されている事実を知らなければ,法律上は,1年間の期間が経過することはありません。
そもそも,相続があったことを知らなかった場合は,遺留分の問題が生じていることを知りようがありませんので,1年間の期間が経過することはありません(ただし,前述のとおり,相続開始から10年が経過すると,権利行使ができなくなります)。
また,遺言の存在を知らなかった,生前贈与の存在を知らなかったという場合にも,遺留分が侵害されている事実を知らなかったことになりますので,1年間の期間が経過することはありません。
もっとも,いつ遺言の内容の存在を知ったか,いつ生前贈与の存在を知ったかは,内心のことですので,これを客観的に証明することが困難であることもあります。このため,実際には,いつから1年間の期間を計算すべきかについて争いになることが,しばしばあります。
このことを考えると,相続開始から1年以上が経過しているような場合には,なるべく早く遺留分減殺請求する旨の意思表示を行った方が安全であると言うことができます(訴訟では,遺留分が侵害されている事実を知ってから1年が経過していることについては,相手方が証明責任を負うこととされていますが,この点が争いになることを避けることができるのであれば,避けたいところだと思います)。

3 1年以内に何をしなければならないか
1年の期間内には,相手方に対して,遺留分を請求する旨の意思表示を行う必要があります。意思表示を行えば足りることとなっていますので,1年以内に調停や訴訟といった法的手続をとる必要まではありません。
法律上は,通知は口頭でも構わないこととなっていますが,後で通知を行ったかどうかが争いになることを避けるため,書面により通知を行うのが安全でしょう。
一般には,相手方に対して,いつ,どのような内容の通知を行ったかの証拠を残すため,内容証明郵便により通知を行うことが多いです。
ここで注意しなければならないのは,郵便で通知を行う場合には,1年の期間内に,実際に相手方に郵便物が届く必要があるということです。たとえば,1年の期間が経過する直前に,相手方の住所に宛てて郵便を送付したものの,実際には,相手方がその住所に住んでいなかった場合には,郵便が届かないこととなりますので,遺留分減殺請求の意思表示がなされていないこととなってしまいます。他にも,相手方が郵便の受取を拒否したりしたため,期間内に郵便が届かないということもあり得ます。このような場合には,基本的には,期間内に通知がなされていないことと扱われ,遺留分の請求ができなくなってしまいます。
このように,相手方に郵便が届かない場合は,相手方に郵便を届ける手段について,検討を行う必要があります。相手方が受取を拒否している場合には,内容証明郵便(相手方の受取が必要)と普通郵便(相手方の受取が不要)を併用して通知することも検討する必要がありますし,相手方の所在が判明しない場合には,公示による意思表示を行うことを検討する必要もあります。公示による意思表示には,裁判所に書類を提出する必要があり,官報公告するか,裁判所で掲示する必要もありますので,一定の時間が必要になります。意思表示は,官報公告をしてから2週間後に到達したものとされますので,この間に1年の期間が経過してしまえば,遺留分減殺請求ができなくなる可能性があります。
このような事態が生じ得ることを考えると,遺留分を請求する旨の通知については,期限直前ではなく,ある程度余裕をもって行った方が良いことが分かります。

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