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遺留分減殺請求によって何が起きるか1

被相続人が,遺産の全部を,自分以外の相続人に全部相続させる内容の遺言を作成していたとします。
この場合,被相続人の遺産は,法律上は,当然に,遺産を取得するものとされた相続人に引き継がれることとなります。

このとき,遺産を取得できなかった相続人からは,遺留分減殺請求を行い,遺留分に相当する権利を主張することが考えられます。
遺留分減殺請求は,遺言で遺産を取得できなかった相続人に対し,少なくともここまでという形で権利を保障する,最後の砦になるのです。

私自身,遺留分減殺請求をする側の事件は,何件か担当していますが,相談された方に説明する際,毎回悩ましいのが,遺留分減殺請求を行うことによって,何が起きるのか(どのような法的効果があるのか)です。
多くの方は,遺留分減殺請求をすることにより,相手方が「遺産の総額×遺留分」の金銭を支払う義務を負うことになると思われています。

実際には,遺留分減殺請求を行うだけでは,当然に,相手方が金銭を支払う義務を負うこととなるわけではありません。
結論としては,遺産を構成する個々の財産について,遺留分が侵害されている割合に応じ,請求する側が権利を得ることとなるのです(法的には,やや語弊がある表現を用いています)。

遺産が現金や預貯金等(いわゆる金融資産)であり,相手方が現金や預貯金等を払い戻し済みである場合は,遺留分が侵害されている割合に応じて請求する側が権利を取得することとなるわけですから,請求する側に対して現金や預貯金を引き渡さなければならないことになります。
この場合は,さほど,一般的なイメージとの齟齬はないと思います。

他方,遺産が不動産である場合は,個々の不動産について,遺留分が侵害されている割合に応じ,請求する側が不動産の共有権を取得することとなるのです。
この場合は,不動産の共有権を取得することとなるのですから,当然に,金銭の支払を求めることができるわけではありません。
金銭の支払による解決を行うためには,相手方と和解的な解決を行うか,相手方が金銭の支払による解決を希望する意思表示(価額弁償の意思表示)を行うかしかありません。
請求する側が不動産の共有権の取得を望まなかったとしても,遺留分の制度の性質上,避けられないのです。

もちろん,実際には,遺産を取得する側が不動産を共有することを望まないことが多いですので,相手方から,金銭の支払による解決の意思表示(価額弁償の意思表示)がなされることが多いと思います。
ただ,たまに,相手方が価額弁償の意思表示を行うことなく判決になる事例もあり,このような場合には,相手方と当方とで不動産を共有することとなってしまうのです。
遺留分減殺請求の事件が終了した後に,別途,共有物分割の手続を取る必要があることもあります。
そして,このような可能性がある以上は,相談された方に対して,事前に説明を行っておく必要がありますので,ある程度時間を割いて,遺留分減殺請求によって何が起きるのかについて,説明をさせていただくこととなるのです(弁護士会の相談等,時間が30分に限られている場合は,詳細に説明を行うのが厳しいことも多いですが)。

遺言と登記4

清算型遺言を行う際に,次のような定めを置いたとします。
「遺言執行者は,前項の不動産を売却処分する権限を有する。」

このように,遺言執行者が不動産を売却処分する権限を有することを明記した場合は,次の通り手続を進めることができるとされています。
① 被相続人から相続人名義に変更するための相続登記については,遺言執行者が単独で行うことができる。
② 相続人から買主に売却する場合の登記手続については,遺言執行者と買主の共同申請により行うことができる。

このように,清算型の遺言の場合も,遺言執行者を定めることにより,相続人を手続に介在させることなく,不動産を売却するまでの手続を進めることができるようになるのです。

もちろん,相続人の権利を保護する必要がありますので,遺言執行者が不当に安値で売った場合は,善管注意義務等に基づく責任を負う(損害賠償請求される)可能性があるように思います。
また,相続人の側から遺言執行者を解任する手続をとることも考えられます。
このように,完全に遺言執行者の自由にできるというわけではないように思いますが,遺言執行者は,売却処分権限が与えられた場合には,相当の裁量の枠内で,権限を行使することができることとなるのです。
別の言い方をすれば,遺言者の遺志の実現のため,きちんとした道筋が準備されていることとなるのです。

このような手法は,相続人の関係が良好でない場合は,ニーズが高いと思います。
私自身,弁護士相談等で,不動産の売却も視野に入れた対策について質問を受けた場合には,遺言執行者についての助言を行いたいと思っています。