後見開始申立3

それでは,後見開始申立に必要となった費用について,精算を行うことはできないのでしょうか。
この点については,法律上,特別な事情がある場合には,成年被後見人(判断力が低下した人)の負担とすることができるものとなっています(非訟事件手続法28条)。
具体的には,成年被後見人に十分な財産がある場合等に,特別な事情があるものとして,成年被後見人が申立費用を負担すべきものとされています。

ただ,申立費用を成年被後見人の負担とするためには,裁判所の決定を得る必要があります。
成年被後見人に十分な財産があるからと言って,当然に,成年被後見人に申立費用分を請求することができるというわけではないのです。

また,申立費用の成年被後見人負担は,収入印紙代や鑑定費用等,限られたものについてのみ認められる者です。
たとえば,後見開始申立を弁護士等に依頼した場合に,弁護士費用を成年被後見人負担とすることができるかについては,厳しいと言わざるを得ません。

後見開始申立2

事件の相手方について後見開始申立を行う場合には,注意すべき点があります。

後見開始申立を行うに当たっては,様々な費用が必要となります。
たとえば,申立を行う裁判所に対し,2600円分の収入印紙を提出する必要があります。
また,診断書等で判断力が著しく低下していることが明らかな場合には,問題が少ないのですが,判断力が著しく低下しているかどうかが明らかではない場合には,裁判所で医師に鑑定を依頼し,判断力の低下の程度について,鑑定書を書いてもらう必要があります。
このような場合には,5から10万円の鑑定費用を,後見開始申立を行う人が納める必要があります。

それでは,後見開始申立に必要な費用は,誰が負担することになるのでしょうか。
法律上は,原則として,後見開始申立に必要な費用は,申立を行う側の負担とされています。
後見開始申立は,判断力が低下した人のために行うものですが,実際には,申立を行う側で,費用を負担しなければならないのです。
ですから,申立に必要な費用を申立人が納めなければ,手続を進めることができないことになってしまうのです。
弁護士として事件を進めるに当たっては,申立に当たり,申立費用を負担しなければならないことになっていることを,あらかじめ説明しておく必要があると言えます。

後見開始申立1

認知症等により判断力が低下している場合には,1人で有効な契約等ができなくなる等,様々な制限が加わることとなります。
最近では,身近な人が判断力が低下した場合に,後見人をつけて,代わりに契約等を行ってもらうことも散見されるようになってきています。
私も,後見開始申立の案件自体を受けることが,しばしばあります。

他に弁護士として後見開始申立を行う場面としては,事件の相手方の判断力が低下している場合があります。
たとえば,遺産分割の手続は,相続人全員が手続に加わらなければ,進めることができません。
ですから,相手方である相続人の1人に,判断力が低下している方がいる場合には,そのままでは,有効な遺産分割を行うことができません。
このような場合に,当方から,相手方について後見開始申立を行い,判断力が低下した人に後見人を付けた上で,遺産分割の手続を進めることができます。

岐阜地裁

岐阜地裁まで行ってきました。
以前から裁判所の建物の改修工事を行っていましたが,すでに改修工事は終了したようです。
最近は,裁判所の建物も,中高層化が進んでいるようで,岐阜地裁の建物も,6階建てになりました。

超過特別受益3

相続人の一部が多額の生前贈与を受けており,遺産がほとんど残っていない場合には,遺産分割の中で,贈与を受けた財産を戻すよう請求することはできません。
それでは,生前贈与を受けていない相続人は,生前贈与を受けた相続人に対して,一切法的主張ができなくなってしまうのでしょうか。

生前贈与を受けた財産が多額にのぼる場合には,相続人間で,著しい不均衡が生じているとの捉え方があります。
このような場合には,法律上,遺留分の主張をすることにより,不均衡をある程度修正することができるとされています。
生前贈与を受けた相続人に対し,遺留分減殺請求を行うことにより,生前贈与を受けた財産の一部の取り戻しを請求することができるのです。

ただし,遺留分として請求できるのは,あくまでも,法定相続分の2分の1(場合によっては3分の1)です。
また,遺留分減殺請求は,遺留分侵害の事実を知った時から1年(今回の場合だと,相続開始後に生前贈与の存在が明らかになった場合には,生前贈与の存在を知った時から1年)に限られます。
相続開始から10年が経過すると,そもそも,遺留分減殺請求ができなくなってしまいます。
このように,遺留分の主張をする場合には,いろいろと留意すべき点があります。

超過特別受益2

遺産が十分に残っている場合には,生前贈与を受けた相続人の取り分を少なめにし,相続人間での調整を行うことができるます。
これに対して,遺産がほとんど残っていない場合には,遺産分割の対象となる財産がほとんどなく,相続人間での調整を行うことができません。

それでは,このような場合に,生前贈与を受けた相続人に対し,贈与を受けた財産を遺産に戻すよう求めることはできないのでしょうか。
結論としては,生前贈与を受けたと扱われる以上,贈与を受けた財産を遺産に戻すよう求めることはできません。
ですから,遺産分割を行ったとしても,生前贈与を受けた相続人の取り分を0にすることはできますが,それ以上の主張を行うことはできないということになってしまいます。
遺産がほとんど残っていない場合には,遺産分割の中では,わずかな遺産を受け取ることしかできないということになってしまいます。

超過特別受益1

相続人の一部が,相続が始まる前に,多額の生前贈与を受けている場合があります。

仮に,相続人の一部が,勝手に遺産を使い込んだことが証明できるのであれば,相続人の一部に対して不当利得返還請求等を行うことが考えられます。

これに対し,相続人の一部が,遺産の大部分の生前贈与を受けたと主張する場合があります。
事案によっては,故人が生前贈与を行ったとの証拠が残っている場合もあります。

このように生前贈与が行われた場合には,遺産分割の手続の中で,特別受益の主張を行うことが考えらえれます。
これは,相続人の一部が多額の生前贈与を受けた場合には,遺産の前渡しがあったものと扱い,その相続人の遺産分割での取り分を減らすものです。
遺産が十分に残っている場合には,生前贈与を受けた相続人の取り分を少なめに,生前贈与を受けていない相続人の取り分を多めにし,相続人間での調整が行われることになるのです。

ホームページのリニューアル

他の弁護士と共同して相続のホームページのリニューアルに着手することになりました。
今回は,相続に関する情報提供の部分を充実させていきたいと思います。
夏頃を目途に,リニューアルを完了させたいと思います。

離婚調停の前置3

それでは,裁判所は,どのような場合に,調停を前置しないことを認めてくれるのでしょうか。
私が弁護士として関わった案件では,以下の場合に,調停を前置せずに離婚訴訟を進めることが認められました。

第1に,相手方が行方不明の場合です。
相手方が家を出て行って,行方がまったくわからない場合,外国人と結婚したものの,外国人が退去強制を受けることとなった場合などが,これに当たります。
相手方がどこにいるかわからない以上,そもそも話し合いを行うことができないでしょうとなるのです。
ただし,相手方の電話番号がわかる場合や,相手方の親族を通して相手方と連絡を取ることができる場合には,裁判所の判断で調停に付される可能性があります。

第2に,相手方に判断能力がない場合です。
相手方が認知症にり患している場合や,脳梗塞を発症した場合などが,これに当たります。

これらの場合には,訴状の中に具体的な事情を書き込んだり,上申書を作成したりした上で,離婚訴訟を提起することとなります。
手続をスムーズに進めるためには,資料として,相手方宛の手紙を不在票や,相手方の診断書などを,一緒に提出した方が良いでしょう。

離婚調停の前置2

離婚では,最初に調停を前置することが,法律上のルールとされています。
ただ,このルールにも例外があります。

家事事件手続法257条2項ただし書は,裁判所が調停に付することが相当でないと認める場合には,調停を経ることなく提起された離婚訴訟を,調停に付さなくてもよいものとしています。
ですから,一定の場合には,調停を経ることなく,離婚訴訟を進めることができるということになります。

問題は,裁判所が,どのような場合に,調停に付することが相当ではないと認めてくれるかです。
一般には,当事者間での話し合いによる解決が見込まれない場合には,調停を前置しないことが認められる可能性があります。
調停は,当事者間の話し合いによる合意を試みる手続です。
裏返せば,当事者間の話し合いによる合意が見込まれない場合には,調停を前置することが相当とされない可能性があるのです。

ただ,実際には,過去の話し合いがうまくいかなかったくらいでは,裁判所は,調停を前置しないことを認めてくれないと考えた方が良いでしょう。
私自身,弁護士を交えての数か月に及ぶ協議により合意が成立しなかったため,協議による解決が困難であるものとして審判申立を行った例がありますが(遺産分割の事案です。),結局,調停手続に付されることとなりました。
法律で調停を前置するものとされている以上,調停を前置しなくてよいのは,あくまでも例外的な場合に限られるのです。
話し合いによる解決が見込まれない場合とは,実際には,それなりの事情が要求されてくるのです。