民事信託と遺留分減殺請求1

最近,弁護士を含む一部の専門家が,民事信託を利用し,生前に将来の相続についての対策をとる仕組みを作ることが増えてきているようです。

三重県では,民事信託が組まれることは,私が知る限りではほとんどなく,今後も民事信託を用いた案件を目にすることもないかもしれません。
ただ,当方が三重県在住で,相手方が東京都在住の場合には,相手方が民事信託を組んでおり,民事信託を前提とする主張がなされることもあり得ると思います。
そこで,民事信託についての知識を得るため,当法人でも研究会が設けられることとなりました。

相続で民事信託が登場する場面では,理屈上では様々ですが,特に気になっているのは,民事信託を用いて遺留分対策を行う場合です。
具体的には,Aさんが,まとまった賃料収入のあるアパート(土地+建物,評価額4000万円)を所有しているとします(便宜上,Aさんは,他には財産を有していないものとします)。
Aさんの(推定)相続人は,子Bさんと子Cさんの2人です。
そして,Aさんが,すべての財産をBさんに引き継がせたいと考えているとします。

そして,Aさんが,すべての財産をBさんに相続させるという遺言を作成したとします。
Aさんが亡くなり,実際にアパートがBさんに引き継がれたとします。
この場合,Cさんは遺留分減殺請求権を持っていますので,Bさんに対し,4分の1の権利を主張することができます(BさんとCさんは,Aさんから特別受益を受けていないとします)。
法律上は,Cさんは,アパート(土地+建物,評価額4000万円)について,4分の1の共有持分を有することとなります。
Bさんがアパートをすべて引き継ぎたい場合は,Cさんに対し,4分の1の評価額に相当する金額,つまり,1000万円を支払わなければなりません。
Bさんが1000万円を支払うことができない場合は,アパートは共有のままになってしまいます。

遺留分減殺請求権は,民法上,相続人に認められた最低限の権利保障ですので,基本的には,Aさんがどのような思いを抱いていたとしても,Cさんから権利主張ができることとなってしまいます(相続の廃除が認められるのも,極めて例外的な場合に限られます)。
こうした民法の規定にかかわらず,なんとかして,Bさんにすべての財産を引き継がせる方法はないかということで,民事信託を利用することができるのではないかという話が出ているのです。

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