日別アーカイブ: 2025年5月15日

相続税の非課税、控除の制度①

相続税には、いくつかの非課税、控除の制度があります。
非課税、控除の制度の中で代表的なものは、以下のとおりです(以下には性質が異なるものが混在していますが、あえて列挙したいと思います)。

① 小規模宅地等の特例、死亡保険金の非課税、死亡退職金の非課税
② 暦年贈与分の贈与税額控除
③ 配偶者の税額軽減
④ 未成年者控除
⑤ 障害者控除
⑥ 相次相続控除
⑦ 外国税額控除
⑧ 相続時精算課税分の贈与税額控除
⑨ 農地の納税猶予

上記の非課税、控除の制度を有効活用すれば、相続税の額を合理的に減額することができます。
非課税、控除の制度の中には、申告書に一定の記載を行うことにより、制度を利用したものと扱ってもらえるものもあります。
生前対策や申告書作成の際には、非課税、控除の制度をきちんと利用することにより、税額を合理的に減額することができるかどうかが、力の見せどころになってくると言えます。

個別の制度についての具体的な説明はここではおくとして、ここでは、非課税、控除の制度には、適用の順番があるという話を行いたいと思います。
上記の①から⑧は、適用の順番を意識して割り振っています。
たとえば、⑥相次相続控除は、⑤障害者控除を適用したあとに、適用がなされます。逆の順番で適用がなされることはありません。
ちなみに、申告書の第1表の配置も、上から順に、①から⑧まで並んだ形になっています(ただし、①については、最上段の課税価格の計算に関するものですので、独立した項目は設けられてきません)。

このような話を行うと、どちらにせよ税額が軽減されるのであれば、適用の順番に何か意味があるのかと思われるかもしれません。
しかし、実際には、きちんと適用の順番を意識して、生前対策や遺産分割、申告書作成を行わなければ、相続税の減額幅が小さくなってしまい、税負担が重くなってしまうということが起こり得るのです。

ポイントとなるのは、以下の点です。

・特定の人にしか使えない非課税、控除の制度は、複数の人が使える非課税、控除の制度よりも、優先して利用した方が有利である。
・今回の相続にしか使えない非課税、控除の制度は、次の相続でも使える非課税、控除の制度よりも、優先して利用した方が有利である。

特定の人しか使えない非課税、控除の制度との関係で言えば、特定の人しか使えない非課税、控除の制度を優先して利用することにより、複数の人が利用できる非課税、控除の制度については、他の相続人のために利用するという選択肢をとることができる可能性があります。

具体例を示すと、以下のとおりです。

相続人Aに課税される相続税(減額前) 400万円
相続人Bに課税される相続税(減額前) 400万円
非課税制度アによる減額 AまたはBの相続税を500万円減額(各自の税額に対し按分適用)
非課税制度イによる減額 Aの相続税を300万円減額

非課税制度アが先に適用される場合
アを適用したあとの税額 Aが150万円、Bが150万円
イを適用したあとの税額 Aが0円、Bが150万円

非課税制度イが先に適用される場合
イを適用したあとの税額 Aが100万円、Bが400万円
アを適用したあとの税額 Aが0円、Bが0円

上記のとおり、特定の人であるAしか使えない非課税制度イを先に利用することにより、複数の人が利用できる非課税制度アを、他の相続人であるBの側で有効活用している状態を作ることができています。

適用の順番を意識しなくても、結果論として相続税額が変わらないケースもありますが、適用の順番を意識しなかったがために、相続税額が大きく変わってくるケースもあります。
税理士にとっても、適用の順番を意識し、生前対策や遺産分割の場面で適切なアドバイスができるかどうかが勝負となってきます。
三重県でお受けした案件でも、このような事例は何度か経験しています。
次回からは、具体的に、適用の順番に気をつけるべきものを説明したいと思います。