遺言と登記3

最近,遺産を売却して売却代金を分配するという内容の遺言が作成されることが,多くなってきているように思います(清算型の遺言)。
弁護士として仕事をする中でも,時代の変化を感じることがしばしばあります。

たとえば,次のような遺言が清算型の遺言に当たります。
「次の不動産を売却し,売却代金から不動産売却に要する一切の費用を控除した残額を,Aに2分の1,Bに2分の1の割合で取得させる。」

このような遺言が作成された場合に,実際に不動産売却の手続を進めるためには,次の手続を減る必要があります。
① 被相続人名義から,A2分の1,B2分の1の共有名義に変更するため,相続登記を行う。
② A2分の1,B2分の1の共有名義から,買主名義に変更するため,売買の登記を行う。

①については,AとBが相続人であれば,それぞれ単独で名義変更を行うことができます。
さらに,Aは,Bの協力を得ることなく,単独で,A2分の1,B2分の1の相続登記を行うことができるとされています。
ですから,Bが手続に協力してくれなかったとしても,①の登記については,スムーズに行うことができるのです。

他方,②については,AとB,買主の全員が,共同して登記申請を行う必要があります。
この場合は,Aが,Bの協力を得ることなく,Bの持分についての売却の登記ができるというわけではありません。
Bにしてみれば,Aに勝手に持分を売却されては困るということになりますので,ある意味,当然の話ということができます。

このように,清算型の遺言を実現するためには,AとBとできちんと協議を行い,売却価格・時期等について取り決めを行った上で,手続を進めていく必要があることとなります。

とはいえ,相続人の関係が良好であれば問題はないのですが,相続人の関係が良好でない場合は,なかなか手続を進めることができず,遺言内容を実現することができない恐れがあります。
このような事態が予想される場合,遺言者として,あらかじめ何らかの手を打っておくことはできないのでしょうか。

この点についても,現在の実務では,清算型の遺言の場合も,遺言執行者を定めることが解決策となる可能性があります。

遺言と登記2

遺言で共同申請を行うべき場合は,基本的に,相続人全員の協力が得られなければ,登記を行うことができません。
相続人以外の人が不動産を取得(遺贈)するものとされた場合は,相続人全員協力を得られなければ,不動産の名義変更を行うことができません。
このため,相続人以外の人と相続人との関係が良好である場合は問題がないですが,相続人との関係が良好ではない場合は,スムーズに名義変更を行うことができないこととなってしまいます。
それでは,何らかの工夫を行うことにより,スムーズに名義変更を行うことができるよう,手を打つことはできないのでしょうか。

このような場合に,遺言で遺言執行者を指定するものとしておくと,相続人全員に代わり,遺言執行者が,共同申請を行うこととなります。
ですから,不動産を取得するものとされた人は,遺言執行者の協力(実印の押印と印鑑証明書(発効後3か月以内のものに限る)の交付)を得れば,不動産の名義変更をできるということになるのです。
遺言執行者を不動産を取得するものとされた人と関係が良好な人にしておけば,スムーズに名義変更を行えるよう,備えを行ったことになるのです。

それでは,さらに進んで,不動産を取得するものとされた人自身を遺言執行者に指定すれば,どうでしょうか。
この場合も,不動産を取得するものとされた人と,遺言執行者に指定された人(実際には,同一の人)が,共同で申請することにより,名義変更を行うことができるのです。
実際には1人の人が手続を行っているにも関わらず,共同申請と呼ぶのは違和感を覚えるかもしれませんが,同じ人を遺言執行者に指定したとしても,問題なく,遺贈の登記を行うことができるとされているのです。
このようにしておけば,不動産を取得した人は,実際上,単独で不動産の名義変更を行うことができることとなるのです。

弁護士会等で相談を受けた際に,相続人以外の人に財産を取得させる遺言について相談を受けた場合は,名義変更をスムーズに行うため,遺言執行者を指定した方が良いのではないでしょうかとお話しすることが多いです。

遺言と登記1

登記を行う場面では,登記が単独申請でできるのか共同申請でできるのか,共同申請の場合は誰の協力を得なければならないのかが問題になることがあります。

売買の登記の場合,売主と買主が共同で申請をしなければ,売買の登記を行うことができません。
このため,売主と買主がともに手続に協力すれば問題は生じないのですが,何らかの事情でどちらかの協力を得られなくなってしまった場合,すぐに売買の登記を行うことができなくなってしまうのです(もっとも,登記の変更を求める裁判を行い,勝訴判決を得たのであれば,単独で登記申請を行うことができますが)。

登記が絡む案件の場合,弁護士と相手方との合意が成立し,書面を交わしただけでは,事案が解決したとは言えないことが多いです。
登記を変更するのが最終目標である場合は,相手方と合意書を交わしたとしても,登記を変更できなければ,事案が解決したとは言えないのです。
このような場合に,登記が共同申請であり,相手方の協力を得られないため,登記ができませんとなってしまうことは避けなければならないのです。
ですから,弁護士として活動する以上,登記が単独申請なのか共同申請なのか,共同申請の場合は誰の協力を得なければならないのかについて,敏感にならなければならないのです。

遺言に基づく登記の場合,相続人に対して「○○の土地を相続させる」という内容の遺言があるのであれば,登記は単独申請になります。
ですから,不動産を取得した相続人が単独で登記を行うことができるのです。

これに対し,相続人に対して「○○の土地を遺贈する」という内容の遺言の場合は,登記は共同申請になります。
このため,不動産を取得した相続人は単独で登記を行うことができず,相続人全員の協力を得なければ,登記を行うことができなくなってしまいます(遺言執行者の指定がない場合)。
具体的には,相続人全員に委任状に実印を押印してもらい,印鑑証明書(発効後3か月以内のものに限る)を交付してもらう必要があることとなります。

さらに,不動産を受け取るのが相続人以外の人である場合は,「○○の土地を遺贈する」という遺言を作成することができ,登記は共同申請になります。
文面上,相続人以外の人に対し,「○○の土地を相続させる」という遺言を作成したとしても,「○○の土地を遺贈する」という趣旨の遺言であると解釈され,結局,共同申請を行う必要があることとなってしまいます。

このように,遺言で名義変更を行う場合,相続人が相続させる遺言により名義変更を行う場合は,単独申請になり,不動産を取得した者だけで名義変更を行うことができますが,そうでない場合は,共同申請になり,相続人全員の協力を得る必要があることとなってしまいます(遺言執行者の指定がない場合)。
共同申請で相続人全員の合意を得られない場合は,訴訟を提起し,不動産の名義変更を認める判決を得た上で,名義変更を行う必要があるということになります。

贈与税の配偶者控除3

次のような所有不動産があったとします。

1 土地の評価額が2500万円
2 土地の上に,自宅の建物と,アパートが存在(広さは同程度とする)
3 自宅の建物の評価額が500万円

このような場合に,土地+自宅建物の評価額は,3000万円です。
それでは,土地の共有持分3分の2と,自宅の建物の共有持分の3分の2を贈与することとした場合,(2500万円+500万円)×3分の2=2000万円として,配偶者控除の枠内と扱ってもらうことができるのでしょうか。

上記と似た事例で,裁判所は,土地のうち,半分は自宅の建物の土地として,半分はアパートの土地として利用されているため,(夫婦の)居住用不動産と評価することができるのは,半分だけでああるとしました。
つまり,評価額2500万円の土地のうち,自宅の建物分の1250万円については(夫婦の)居住用不動産になりますので,共有持分3分の2の贈与は配偶者控除の対象になります(贈与税は課税されない)が,アパート分の1250万円については(夫婦の)居住用不動産にならないため,共有持分3分の2の贈与は配偶者控除の対象にならないこととなるのです。
この場合,単純計算でも,約164万円の贈与税が課税されることとなるのです。

このように,自宅の土地上に自宅の建物以外の建物が乗っかっている場合,共有持分の贈与では,想定通りに配偶者控除を使えないことがあるのです(他にも,子ども世代の建物が乗っかっている場合も,注意が必要だと思います)。
ですから,このような場合は,いくらかの手間と費用がかかるとしても,土地を分筆した上で贈与することをメインで考えたりします。

贈与税は,一度課税されてしまうと,税額が多額になりますので,実際に財産を動かすに際しては,注意が必要です。
弁護士として活動する場合であっても,事案に関係する税金については,代表的な裁判例を把握しておきたいものです。

贈与税の配偶者控除2

贈与税の配偶者控除により,2110万円以下(暦年課税の場合)の贈与であれば,贈与税の課税が避けられることとなる反面,不動産の評価額が2110万円を超える場合は,超える部分につき,贈与税が課税されることとなります。
三重県でも,幹線道路の近くや駅の近く等だと,自宅不動産の評価額が2110万円を超えることがしばしばあります。

このような場合,割り切って,超える部分の贈与税を納付してしまうのも1つの考え方です。
それでは,自宅不動産が2110万円を超える場合であっても,贈与税が課税されるのを避けたい場合は,どのようにすれば良いのでしょうか。
解決策としては,自宅不動産をすべて贈与してしまうのではなく,自宅不動産の一部を贈与してしまうというものがあります。

最も手がかからないのは,自宅不動産の共有持分を贈与してしまうという方法です。
たとえば,自宅の土地の評価額が2500万円,自宅の建物の評価額が500万円の場合,自宅の土地の共有持分3分の2と自宅の建物の共有持分3分の2を贈与するという方法をとれば,贈与対象財産を,(2500万円+500万円)×3分の2=2000万円に抑えることができ,配偶者控除の範囲内で贈与することができるのです。

もう1つ,自宅不動産を実際に分割してしまうという方法もあります。
たとえば,自宅の土地がある程度広く,自宅の建物が土地の一部を占めているにすぎない場合,自宅の建物が乗っかっていない部分を分筆してしまい,分筆して狭くなった土地を贈与することが考えられます。

一般に,土地を分筆する際には,土地家屋調査士に依頼することとなります。
分筆の費用は,土地の広さによりますが,おおむね数十万円位達します。
色々と手間もかかりますので,支障がなければ,共有持分を贈与する方が,手間がかからないように思います。

ただ,土地の利用状況によっては,共有持分の贈与という手がうまくいかない場合があります。
最近,裁判例も出ているようですので,改めて紹介したいと思います。

贈与税の配偶者控除1

不動産等の財産を贈与した場合,多額の贈与税が課税されることは,広く知られていると思います。
たとえば,2000万円の不動産を贈与した場合,単純計算で,720万円もの贈与税が課税されてしまいます。

相続税対策のため,自分が所有している財産を減らしたい,そのために,自宅不動産を親族に贈与したいという相談は,弁護士会の相談等でも受けたことがあります。
私が相談をお受けする中でも,相続税の増税の影響から,相続税対策への関心が高まっていると感じる場面です。

とはいえ,親族が受け取る場合であっても,贈与である以上,多額の贈与税が課税されることとなります。
相続税対策のため,多額の贈与税が課税されることとなっては,元も子もありません。
そこで,贈与税の課税を避けつつ,財産を親族に移転する方法がないかという話になるのです。

贈与税を軽減する規定で,金額的に大きいものに,配偶者控除があります。
これは,婚姻期間が20年以上に達した夫婦の間で,(夫婦の)居住用不動産を贈与する場合に,2000万の非課税枠が設けられるというものです。
暦年課税の場合,毎年の110万円の基礎控除と合わせると,(夫婦の)居住用不動産が2110万円以下であれば,贈与税が課税されないこととなるのです(居住用不動産以外に贈与が行われていないことが前提です)。
配偶者控除は一生に1回しか使えませんが,金額が大きいため,非常に強力な手段になるのです。

この特例を使う場合は,贈与税の申告期限(3月15日)までに申告を行う必要がありますので,注意が必要です。

また,贈与税以外の税金(登録免許税,不動産取得税)が課税される点も,注意が必要です。

葬儀費用の問題2

葬儀費用は相続人が分担すべきであるという見解に立つ場合であっても,何点か留意すべき点があります。

第一に,葬儀費用とは,どの範囲までを言うのかという問題です。

いわゆる,通夜・告別式につきましては,葬儀費用であることが争われ難いと思います。
他方,初七日法要,四十九日法要等については,果たして遺産から差し引くべきかどうかが議論になることがあります。
初盆・三回忌にまで至ると,遺産から差し引くべきであるという主張を維持することは,かなり難しいように思われます。

第二に,分担されるべき葬儀費用は,香典の額を差し引いた残額であるという点です。

過去の裁判例にも,葬儀費用は香典の額とつりあう額になることが多いため,香典の額を超えて葬儀費用を負担したとの証明がなされなければ,葬儀費用を差し引くべきではないとの結論を述べたものがあります(弁護士になってから,何回この裁判例を引用したか分からなくなるくらい,引用しているような気がします)。

このように,葬儀費用の分担を主張する場合には,どの範囲までを主張することができるのか,香典の額との大小がどうなっているのかを検討する必要があるように思います。
しかしながら,現実には,この点についての検討を行うことなく葬儀費用の分担の主張がなされることも多く,手続の遅延を招いてることもあるように思います。
こうした問題については,事前に説明を行い,当事者の理解を得ておく必要があるように思います。

葬儀費用の問題1

相続人間で紛争が表面化している場合には,葬儀費用をだれが負担するかが問題となることが,しばしばあります。

たとえば,遺産分割で争いが生じている場合に,葬儀費用を負担した相続人が,葬儀費用を負担していない相続人に対し,プラスの遺産から葬儀費用を差し引くべきであるという主張がされることがあります。
遺留分減殺請求でも,このような主張が行われることがあります。

他には,相続人の一部が,被相続人の存命の間に,被相続人の口座から多額の預金を出金したことが判明し,他の相続人から預金の返還を求められることがあります。
このような場合に,出金を行った相続人から,出金分の一部は葬儀費用に充てられたのだから,その分は返還する必要がないという主張が行われることがあります。

上記の主張は,いずれも,葬儀費用は相続人で分担されるべきであるということを前提とするものです。
このような主張に対しては,葬儀費用は,葬儀主宰者が負担すべきであるから,相続人が分担すべきであるという主張には応じられないという主張がなされることがあります。
法的には,どちらの主張が妥当なのでしょうか。

この点について,過去の裁判例には,葬儀費用は葬儀主宰者が負担すべきであるとしたものがあります。
ただ,葬儀費用を分担するべきであるとの前提のもとに結論を出した裁判例もあります。
このため,どちらかというと,葬儀主宰者が負担とされる傾向にあるという表現にとどめておいた方が良いように思います。

このように,葬儀費用の扱いにつきましては,即座に結論を出しにくい部分があります。
最終的には,弁護士として案件に携わる以上,どちらの側に立つかによって,依って立つ見解が変わる部分もあると言わざるを得ないこともあります。

お墓の「相続」

お墓が遺産になるかどうかという話が出ることがあります。
このような場合,法的には,原則として,お墓は相続の対象にはならないという話をすることになります。

お墓というと,まず,墓石を思い浮かべることが多いと思います。
墓石は,法律上,祭祀財産とされています。
祭祀財産は,祭祀主宰者に引き継がれることとなっています。
このため,墓石は,遺産とは別の理屈で引き継がれることとなります。

祭祀主宰者は,第一に,被相続人の意思,第二に,被相続人の意思が明らかではない場合は,慣習,第三に,慣習が明らかではない場合は,家庭裁判所の審判により決まることとなっています。
遺産のように,遺言がない場合は,相続人間の協議等で決めるわけではないのです。
このことは,私法上の大原則を定めた民法において,明確に規定されています。

以上のような規定になっていますので,祭祀財産の引継ぎは,通常の遺産分割とは異なる部分が色々とあります。
たとえば,被相続人の意思については,遺言のように書面で残っている必要はなく,口頭で示しても構わないという違いがあります。
他にも,慣習や審判により,相続人ではない人(内縁の配偶者等)が祭祀主宰者になる場合もあり得ます。

墓石以外にも,墓地利用権についても,祭祀主宰者に引き継がれることとなります。
お墓を設ける際,お寺や公設墓地との間で,墓地利用権が設定されます。
このような権利についても,祭祀財産として,祭祀主宰者に引き継がれることとなるのです。

このようなお墓の引継ぎの問題は,弁護士であっても,正面から事件として担当することはほとんどありません(相談を受けることは,時たまあります)。
法的には上記の通りですが,実際には,相続人の話し合いの結果で決まることが多く,話し合いで決まった場合には法律問題が表面に出てきません。
ただ,万一,法律問題が表面に出てしまった場合には,民法の大原則に立ち返って結論を導き出す必要があります。

民法改正

弁護士会での民法改正の勉強会に参加してきました。
今回のテーマは,保証についてでした。

保証制度につきましては,今回の民法改正で大きな変更が行われることとなります。
特に,事業により生じた債務を保証する場合は,原則,保証契約を締結するに際し,公正証書の作成が義務付けられることとなったことは,大きな変更点であると言えます。
ただし,保証人が会社の代表者である場合等につきましては,上記の例外として,公正証書を作成する必要はないとされています。

他にも,主債務者が期限の利益を失った場合は,保証人は,債権者に対し,債務の額等についての情報の開示を請求することができるとの規定も設けられるようです。
主債務者が債務の返済を一定回数怠った場合には,債権者は,主債務者に対し,債務の残額を一括して請求することができるとされています。
このように,一括請求できる状態になることを,期限の利益を失ったと呼称します。
このような場合,主債務者が返済をしなければ,債権者は,保証人に対して請求を行うことができます。
裏返せば,保証人は,いつ何時,債権者から一括請求されるか分からない状態に陥るのです。
保証人であれば,当然,債務の残額等の情報を知りたいということになりますが,従前は,債権者は,保証人への情報開示に応じない場合がありました。
そこで,今回の民法改正で,上記の場合に,債権者は,保証人から情報開示の請求に応じなければならないとなったのです。

現時点では,民法改正がいつになるのか等,未定の部分も多いですが,徐々に,改正を見越しての情報収集を行う時期に差し掛かりつつあるようです。