特別受益の持戻し免除

民法は,被相続人が,相続開始時までに,遺産分割に際して特別受益を持ち戻す必要がないとの意思表示を行った場合は,持戻し計算をしないものとしています。
この場合は,特別受益を考慮することなく,相続分を基準として,遺産分割が行われることになります。

たとえば,事業承継のために,後継者に対して,自社株の生前贈与が行われた場合に,生前贈与された自社株が特別受益と扱われると,その分,相続の際の後継者の取り分が少なくなってしまいます。
そうなると,残りの自社株や事業用資産を後継者に集中的に承継させることができなくなってしまうおそれがあります。
このような場合には,持戻し免除の意思表示をすることにより,生前贈与された自社株が特別受益と扱われないようにすることができます。

生前贈与の持戻し免除については,方式について法律の特別の定めはありません。
実際には,持戻し免除の制度自体が広く知られていないためか,明示的に,持戻し免除の意思表示が行われることは,それ程多くありません。
実務上は,生前贈与を受けた相続人から依頼を受けた弁護士が,黙示の持戻し免除の意思表示が存在するとの主張を行うことが多いです。

民法改正

民法改正の研究会に参加してきました。
今回の民法改正は,明治期以来の民法のあり方を根本から変えるものですので,今後の弁護士の仕事に大きな影響を及ぼすものです。
個人的には,消滅時効の期間が5年に短縮されるのが,影響としては大きいと感じています。
今後のためにも,情報収集が必要な部分です。

東京地方裁判所

東京地方裁判所へ行ってきました。
以外にも,始発に近い電車で松阪を出て,近鉄,新幹線を乗り継いで移動すれば,午前9時30分の期日に間に合うようです。

法定相続情報証明制度1

5月29日から,法定相続情報証明制度が始まりました。
法定相続証明情報制度とは,法務局で一定の手続をとることで,被相続人の相続関係を証明する証明書を発行してもらうことができる制度です。
相続関係を証明する証明書を発行してもらうことで,被相続人名義の預金の払戻し,不動産の名義変更等の手続の際,毎回戸籍一式を提出しなくても済むようになり,相続手続を円滑に進めることができるようになるといわれています。

この制度を用いる場合には,まず,法務局に対して,戸籍一式とともに,被相続人の法定相続情報一覧図(被相続人の家系図のようなものです)を作成し,提出することになります。
法務局は,法定相続一覧図に誤りがないか等を確認し,証明書を発行することとなります。
一度,証明書を発行すると,5年間は,証明書の再交付を受けることができます。

法定相続情報証明制度では,被相続人が亡くなった時点での相続関係が証明されることとなっています。
このため,被相続人が亡くなって以降,相続人が亡くなり,数次相続が発生したとしても,証明書に記載される法定相続一覧図が変更されることはありません。
裏返せば,法定相続一覧図に記載された相続人が現在も生存しているかどうかについては,証明書を見ても,分からないということになります。
理屈からすると,法定相続一覧図に加え,相続人の現在戸籍を提出しなければ,記載した相続人が生存していることについての証明がなされたことにはならないこととなりそうです。

法務局での登記手続については,現時点でも,法定相続情報証明により,相続登記を進めることができます。
家庭裁判所については,現在,法定相続情報証明の取り扱いについて検討中のようですが,一部の家庭裁判所では,法定相続情報証明に加え,相続人の現在戸籍,被相続人の除籍等の提出を求める取り扱いとする方向と聞いています。

弁護士として活動する中で,相続関係を証明しなければならない場面は多々ありますが,今後,法定相続情報証明の制度をどのように用いることができるかについては,まだ決まっていない部分が多いようです。

柏駅法律事務所

当法人が,新たに柏駅に事務所を設けることになりました。
ホームページはこちらです。

柏駅は,東京都と千葉県の境あたりにある駅です。
私自身,弁護士になる前に,何度か,仕事の関係で訪れたことがあります。
JRと私鉄の路線が交わるベッドタウンであったように記憶しています。

三重弁護士会定期総会

三重弁護士会の定期総会に出席してきました。

三重弁護士会では,年に1回,5月の半ば頃に定期総会が開催されます。
定期総会では,弁護士会の予算についての決議や各委員会からの報告等が行われます。

定期総会以外には,年に1から2回程,臨時総会が開催されます。
毎年2月に開催される臨時総会では,三重弁護士会の役員(会長,副会長,常議員,幹事)の選任が行われます。
役員の選任以外で重要な議題が存在する場合には,適宜の時期に臨時総会が開催され,議決が行われることとなります。
去年度は,会館建設についての議決が行われましたので,役員の選任を含めて2回,臨時総会が開催されることとなりました。

総会は,弁護士会の活動を知る重要な機会だと思いますので,私自身は,毎回出席するようにしています。

養老保険が遺産分割の対象になる場合4

前回は,養老保険に分類され,満期が存在する簡易生命保険については,満期の時期を確認し,保険契約を解約し,解約返戻金を受け取ることができるかどうかを確認する必要があることを説明させていただきました。

実際には,満期が存在する保険契約は,簡易生命保険以外にも多数あります。
JA(農協),JF(漁協)には,養老生命共済が存在しますし,民間の保険会社にも,養老保険が存在します。
これらの場合には,満期保険金の受取人については,どのように決められているのでしょうか。

JAの養老生命共済については,約款で以下のように定められています。

満期共済金受取人が指定されていない場合は,・・・共済契約者を満期共済金受取人とします。

上記の規定が,簡易生命保険法55条と同じく,共済金受取人が死亡し,代わりの共済金受取人が指定されていない場合にも適用されるのであれば,満期共済金は,共済契約者の地位を有している者,つまり,もともとの共済契約者の相続人ということになりそうです。

他方,日本生命の養老生命保険については,約款で以下のように定められています。

満期保険金受取人の死亡時以後,満期保険金受取人の変更が行われていない間は,満期保険金受取人の死亡時の法定相続人を満期保険金受取人といます。

上記の規定から,満期保険金の受取人は,満期保険金受取人の相続人になります。
保険契約者と満期保険金受取人が同一人であれば,保険契約者の相続人が満期保険金を受け取ることになります。

このように,JAの養老生命共済も,日本生命の養老生命保険も,被保険者が受取人になる簡易生命保険とは,異なるルールが適用されることとなります。
生命保険については,民法の相続編ではなく,約款等の規定により,受取人が決まることとなりますので,満期保険金の帰属が問題になりそうな場合は,1つ1つの保険契約の約款を確認する必要があることとなりそうです。

このように,満期が到来した保険については,遺産分割の対象にしたとしても,解約返戻金を受け取ることができないことがあります。
三重の案件でも,簡易生命保険等の契約が組まれていることがしばしばありますので,約款を確認した上で,遺産目録に遺産として挙げるかどうかを慎重に検討する必要があります。

養老保険が遺産分割の対象になる場合3

前回紹介したとおり,以下のような保険契約が存在する場合は,解約返戻金相当額の遺産として扱われ,遺産分割の対象になります。
・ 保険契約者  亡くなられた方
・ 被保険者   親族
・ 保険金受取人 亡くなられた方

ところが,養老保険については,遺産分割が成立したとしても,上記のような保険の解約返戻金を受け取ることができない場合があり,さらなる注意が必要になります。
養老保険には,満期が設定されており,満期が到来すれば,満期保険金の受取人として指定された方は,満期保険金を受け取ることができます。
このように,満期保険金が発生してしまうと,相続人の1人が遺産分割により解約返戻金を取得することとなったとしても,もはや解約することができず,解約返戻金の支払を受けることができない可能性があります。

この点で問題になりやすいのが,簡易生命保険です。
簡易生命保険のうち,養老保険に分類されるものについては,満期保険金の受取人が,以下のとおり定められています(簡易生命保険法55条)。

終身保険,定期保険,養老保険又は財形貯蓄保険の保険契約においては,保険契約者が保険金受取人を指定しないとき(保険契約者の指定した保険金受取人が死亡し更に保険金受取人を指定しない場合を含む。)は,次の者を保険受取人とする。
被保険者の死亡以外の事由により保険金を支払う場合にあっては,被保険者

上記の規定に従えば,保険契約者が亡くなられた場合は,別の保険金受取人が指定されない限り,被保険者が満期保険金を受け取ることができることとなります。
この点につき,相続人が受け取ることができるのではないかと主張し,争いになった裁判も存在しますが,規定どおり,被保険者が受取人になるとの判決が出されています。
以上から,満期が到来している簡易生命保険については,被保険者が満期保険金を受け取ることができることとなり,反面,遺産分割により簡易生命保険の解約返戻金を取得することとなった相続人がいたとしても,その相続人は,簡易生命保険を解約できす,解約返戻金を受け取ることができないこととなるのです。

他方,保険契約者が亡くなられる前に満期が到来し,満期保険金が発生している場合は,保険金受取人が保険契約者に設定されている場合だと,保険契約者が満期保険金の支払を受ける権利を持っていることとなります。
その後,保険契約者が死亡すると,満期保険金の支払を受ける権利は,保険契約者の相続人が相続することとなります。
この場合は,相続人全員が同意すれば,満期保険金の支払を受ける権利を遺産分割の対象とすることもできることとなります。

このように,満期がいつ到来するかによって,満期保険金等を受け取るのが誰であるのかが,大きく異なってくることとなります。
場合によっては,遺産分割の対象にしたのに,簡保からなんらの支払も受けることができない事態になることもありますので,遺産分割を成立させる際には,満期を確認する必要があると言えます(私の場合は,弁護士会照会等で保険契約の内容についての調査を行う段階で,満期の有無,時期等を確認するようにしています)。

養老保険が遺産分割の対象になる場合2

前回,紹介した場合とは異なり,以下のような保険契約が存在する場合は,注意が必要です。
 ・ 保険契約者  亡くなられた方
 ・ 被保険者   親族
 ・ 保険金受取人 亡くなられた方
このような保険は,所得税対策(生命保険料控除)等のため,契約されることがあります。
また,簡保や保険会社の勧めにより,このような契約がなされることもあります。
このような保険が存在する場合に,相続が発生すると,どのようなことが起きるのでしょうか。
被保険者が存命であれば,保険金の支払事由が発生していないことになりますので,相続開始後も,保険契約が存在したままになり,保険金が支払われないこととなります。
もっとも,保険契約者が亡くなられた以上,保険契約者の地位は相続人に引き継がれることとなり,相続人は,保険契約者として,生命保険を解約することができます。生命保険が解約されると,相続人は,保険の解約返戻金を受け取ることができます。
このように,上記のような保険は,解約すれば解約返戻金を受け取ることができる権利と扱われ,亡くなられた方の遺産と扱われます。

このような保険契約が組まれている場合には,保険の解約返戻金を調査し,解約返戻金相当額の価値がある財産として,遺産目録に挙げることとなります。
遺産分割が成立し,保険の解約返戻金を誰が取得するかが決まると,その方が保険会社とやり取りを行い,保険の解約と解約返戻金の受取の手続を行うこととなります。

このように,被保険者が誰であるかにより,生命保険契約を遺産目録に載せるかどうかが違ってくることとなります。
この点は間違いやすいポイントだと思いますので,弁護士と相談の上,遺産目録に載せるべきかどうかを判断した方が良いでしょう。

養老保険が遺産分割の対象になる場合1

生命保険には,終身保険,養老保険といった,様々な種類があります。
終身保険は,基本的には,被保険者が亡くなられた場合に,保険金受取人に対して,保険金が支払われる保険です。
これに対して,養老保険は,満期が到来するまでに被保険者が亡くなられた場合は,同様に,保険金受取人に対して保険金が支払われますが,保険金が支払われる事態が発生することなく満期が到来した場合は,満期保険金受取人に対して満期保険金が支払われることとなります。

生命保険につきましては,基本的には,遺産分割の対象にはならないと言われています。
弁護士に相続についての相談を行った場合も,このような話がなされることがしばしばあると思います。

これは,主として,以下の場合を念頭に置いています。
 ・ 保険契約者  亡くなられた方
 ・ 被保険者   亡くなられた方
 ・ 保険金受取人 親族
確かに,亡くなられた方が保険契約者であり,かつ被保険者になっていた場合で,保険金受取人が親族に指定されているときは,その親族は,保険契約に基づいて保険金を受け取ることができますので,保険金が遺産分割の対象になることはありません。
さらには,保険金の支払は,相続分とは関係なく,保険契約によりなされるものですので,保険金を受け取ったことにより,受け取った人の,相続での取得分が減少することもありません(もっとも,遺産総額と比較して保険金の額が多額である場合は,例外的に考慮される可能性があります)。