カテゴリー別アーカイブ: 相続税

相続税の延滞税

1 延滞税が課税される場合
延滞税は、相続税を納付の期限までに納付できなかった場合に課税されます。
申告期限までに相続税の申告を行ったものの、納税資金を調達できす、相続税を納付することができなかった場合には、延滞税が課税されることとなります。
申告期限までに申告を行わず、その後、期限後申告や課税処分がなされた場合には、無申告加算税とともに、延滞税が課税されることとなります。
申告期限までに申告・納付を行ったものの、申告した税額が本来の税額よりも少なかったため、修正申告や更正処分がなされた場合には、過少申告加算税とともに、増額された税額についての延滞税が課税されることとなります。

相続税の納付の期限は、申告期限と同じく、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内になります。
多くの場合、被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内になるでしょう。
ただし、期限後申告や修正申告を行った場合は、申告書提出日が相続税の納付の期限になります。
また、更正処分の場合は、通知書を発した日の翌日から1か月以内になります。

2 延滞税が課税される期間
延滞税は、相続税の納付の期限から、実際に相続税の納付がなされるまでの期間について、課税されます。

ただし、申告期限までに申告・納付を行ったものの、申告した税額が本来の税額よりも少なかったため、修正申告や更正処分がなされた場合については、申告期限から修正申告や更正の請求がなされるまでの間については、延滞税が発生する期間が1年間に限定されます(重加算税が課税される場合を除く)。

3 延滞税の税率
延滞税の税率は、令和7年12月現在では、以下のとおりです。

・ 納付期限から2か月以内
年2.4%

・ 納付期限から2か月経過後
年8.7%

なお、延滞税について、100円未満の端数があれば切り捨てがなされます。
また、延滞税が1000円未満であるときは、全額が切り捨てとなります。
つまり、延滞税は、最小額が1000円であり、そこから100円単位で増額がなされていくこととなります。

延滞税の税率は、特例基準割合をベースとして算定されます。
納付期限から2か月以内については、特例基準割合+1%、納付期限から2か月経過後については、特例基準割合+7.3%により算定されています。
特例基準割合は、毎年12月15日までに財務大臣によって告示されていますので、特例基準割合が変動すれば、延滞税の税率も変動することとなります。
延滞税の税率というと、年14.6%という話がなされることがありますが、実際には、特例基準割合をベースとして算定された利率の方が低い場合は、この利率を用いることとなっています。

4 延滞税の計算
それでは、相続税の本税が100万円の場合、延滞税はいくらになるのでしょうか?

・ 納付期限から1年が経過した時点
100万円×2.4%×2か月/12か月+100万円×8.7%×10か月/12か月=7万6500円

・ 納付期限から3年が経過した時点
100万円×2.4%×2か月/12か月+100万円×8.7%×2年10か月/12か月=25万0500円

このように、延滞税は、納付期限から時間が経てば経つほど、増加していくこととなります。
3年程度経過すると、本税の約25%もの額に達することとなります。

さらに、今後、政策金利が上昇することとなると、特例基準割合をベースとして算定された利率が増加することとなり、延滞税の税率も増加することとなります。
実際、令和8年1月1日以降は、延滞税の税率は2か月以内で2.8%、2か月経過後で9.1%に改定されることとなっており、今後も、さらに税率が増加することが予想されます。

このため、今後、延滞税は、一層、無視することができない負担となることが予想されます。
三重県の案件でも、延滞税が発生するときは、予想される延滞税の額をお伝えし、対応を検討することとしています。

相続税の重加算税

1 重加算税が課税される場合
重加算税は、隠蔽または仮装により、本来申告を行うべきなのに申告を行っていなかったり、本来の税額よりも低い税額で申告したりした場合に課税されます。
これらの場合は、本来、無申告加算税や過少申告加算税が課税されますが、隠蔽または仮装がある場合は、代わりに重加算税が課税されることとなります。
このように、悪質性が高い場合に課税される税金ですので、税率も、無申告加算税や過少申告加算税よりも大幅に高くなっています。

2 隠蔽または仮装
重加算税は、隠蔽または仮装の場合になりますので、うっかり申告しなかったり、うっかり過少申告したりした場合には課税されません。
もっとも、うっかり申告し忘れたという弁明を行ったとしても、客観的事情から隠蔽または仮装があったと判断される場合には、重加算税が課税される可能性があります。

隠蔽または仮装であるのと指摘がなされやすいのは、特に預金です。
たとえば、被相続人の預金口座があり、被相続人が亡くなる直前や亡くなったあとに相続人が多額の出金を行ったにもかかわらず、その口座を申告書に一切記載せずに申告した場合です。
被相続人が貯めた預金であるものの、名義だけが親族の名義になっている名義預金も、問題となることが多いです。

隠蔽または仮装の有無については、税務調査で確認がなされることが多いですので、税務調査でどのような回答を行うかは注意が必要です。
先の例ですと、調査官は、申告書に記載された被相続人の預金口座を一通り伝えた上で、相続人に対して、他に被相続人の預金口座がないかを確認します。
実際には、他に相続人が多額の出金を行った預金口座があるにもかかわらず、相続人が他には口座はないと回答すると、相続人は意図的に事実ではない回答を行ったこととなりますので、隠蔽または仮装があったと判断されます。
このような税務調査では、質問応答記録書を作成し、調査官と相続人とのやり取りを具体的な記録で残すことが多いですので、あとから「そんなことは言っていない。」と言うこともできなくなっています。

このように、隠蔽または仮装の有無については、客観的な材料で認定が固められることが多いですので、事実に基づいた対応が必要であることがわかります。
三重県の税務調査の案件でも、これらの点を念頭に置きつつ、どのように回答すべきかについて、検討を行うことがしばしばあります。

相続税の非課税、控除の制度③

もう一つ、例を挙げたいと思います。
今回の相続にしか使えない非課税、控除の制度は、次の相続でも使える非課税、控除の制度よりも、優先して利用した方が有利であるという例になります。
ここでは、かなり変則的ですが、⑤障害者の税額控除、⑥相次相続控除について、要検討となった例を説明したいと思います。

まず、⑤障害者の税額控除、⑥相次相続控除について、概略を説明したいと思います。
⑤障害者の税額控除は、障害者手帳等を持っている相続人に認められる、非課税の制度になります。
障害者である相続人が85歳になるまでの年数×10万円(特別障害者の場合は20万円)が非課税となるとされており、かなり大きい金額が非課税となります。
⑤障害者の税額控除の枠が利用できるのは、生涯で一度だけとなっていますが、ある被相続人の相続で税額控除の枠を使い切れなかった場合には、別の被相続人の相続で税額控除の残枠を利用することができることとされています。
このように、⑤障害者の税額控除は、次の相続でも使える制度に該当します。

次に、⑥相次相続控除は、被相続人自身が亡くなる前の10年以内の間に相続を受けており、相続税が課税されていた場合に利用することができる、非課税の制度になります。
⑥相次相続控除は、被相続人自身が過去10年間に相続税を課税されていたことに着目して税負担を軽減する制度になりますので、次の相続でも利用できる制度には該当しません。

ここで、次のような場合を考えたいと思います。

Aが2025年6月に亡くなり、800万円の相続税が課税されました。

その後、Bが2025年12月に亡くなり、計算上、500万円の相続税が課税されることとなりました。
ここで、Bの相続についてAからの相次相続控除を利用すると、Aの死亡時の相続税800万円が差し引かれることとなりますので、Bの相続時の相続税は0円になります。
他方で、Eは一般障害者に該当し、2025年12月時点で520万円の障害者の税額控除の枠を持っていますので、Bの相続について障害者の税額控除を利用しても、Bの相続時の相続税は0円になります。

さらに、Cが2027年12月に亡くなり、計算上、500万円の相続税が課税されることとなりました。
Cの相続については、Aからの相次相続控除を利用することはできません。
他方で、Eが一般障害者であることを理由とする障害者の税額控除については、Cの相続でも利用することができます。

以上を踏まえると、相次相続控除は、Bの相続でしか使えない制度になりますので、Bの相続では、障害者の税額控除は利用せず、相次相続控除を優先して利用した方が有利であることとなります。
そして、Cの相続では、温存していた障害者の税額控除の枠を利用した方が有利であることとなります。
そのためには、Bの相続では、Eは財産を引き継がず、Fがすべての相続財産を引き継ぐこととし、Cの相続で、Eが財産を引き継ぐこととする必要があることとなります。
※ Bの相続では、Eが少しでも財産を引き継ぐと、Eが相続した財産について障害者の税額控除の枠が適用されるとともに、扶養義務者であるFが相続した財産についても障害者の税額控除の枠が適用されることとなってしまいますので、Eは一切の財産を引き継がないものとする必要があります。

このように、かなり変則的な例にはなりますが、三重県でも、今回の相続にしか使えない非課税、控除の制度は、次の相続でも使える非課税、控除の制度よりも、優先して利用した方が有利であるとの考えのもと、遺産分割についての提案を行った例があります。
控除、非課税の制度の適用の順番を意識することにより、相続税額が大きく変わってくるケースは、何パターンも生じ得ます。
すべてのパターンを押さえるよりも、基礎となる考え方を押さえておき、場面ごとに考え方を適用することにより、適切な提案ができるようにしたいものです。

相続税の非課税、控除の制度②

まず、①死亡保険金の非課税、③配偶者の税額軽減の順番について説明したいと思います。
この順番は、問題となる場面が非常に多いものの、順番が意識されることなく、生前対策や申告がなされてしまっていることも多いです。

よくある「失敗例」(完全な失敗例ではなく、相対的な失敗例)は、想定の相続人が配偶者と子である場合に、死亡保険金の受取人を配偶者に指定してしまうということです。

「特定の人にしか使えない非課税、控除の制度は、複数の人が使える非課税、控除の制度よりも、優先して利用すべきである」という話を踏まえるとどうなるのでしょうか?
①死亡保険金の非課税は、受取人に指定しさえすれば、誰でも使える制度になります。受取人を配偶者に指定しても、受取人を子に指定しても、死亡保険金の非課税は利用できることとなります。
他方、③配偶者の税額軽減は、配偶者にしか使えない制度になります。
この2つを比較すると、③配偶者の税額軽減を優先して利用している状態を作った方が有利である可能性があります。
というのも、配偶者の側では、③配偶者の税額軽減を優先して利用することにより、①死亡保険金の非課税を、まるまる、他の相続人である子の側で利用することができるからです。

以上から、死亡保険金の受取人は、配偶者ではなく、子に指定した方が、相続税の額を抑えることができる可能性があることとなります。
このようにすれば、配偶者については、①死亡保険金の非課税が適用されることはなく、③配偶者の税額軽減を優先して利用することができることとなるからです。

これと同様のことは、①死亡保険金の非課税、⑤障害者控除についても言えます。
先と同様の理屈からすると、想定の相続人が障害者である人と障害者ではない人である場合に、死亡保険金の受取人を障害者である人に指定してしまうと、相続税の納付税額が増えてしまう可能性があります。
繰り返しになりますが、①死亡保険金の非課税は、受取人に指定しさえすれば、誰でも使える制度になります。受取人を障害者である人に指定しても、受取人を障害者ではない人に指定しても、死亡保険金の非課税は利用できることとなります。
他方、⑤障害者控除は、配偶者にしか使えない制度になります。
この2つについても、⑤障害者控除を優先して利用している状態を作った方が有利である可能性があります。
障害者である相続人の側では、⑤障害者控除を優先して利用することにより、①死亡保険金の非課税を、まるまる、障害者ではない相続人の側で利用することができるからです。

以上から、死亡保険金の受取人は、障害者である相続人ではなく、障害者ではない相続人に指定した方が、相続税の額を抑えることができる可能性があることとなります。
このようにすることで、障害者である相続人については、①死亡保険金の非課税が適用されることはなく、③障害者控除を優先して利用することができることとなるからです。

同じ話は、①死亡保険金の非課税と④未成年者控除についても言えます。
結論としては、死亡保険金の受取人は、未成年者である相続人ではなく、未成年者ではない相続人に指定した方が、相続税の額を抑えることができる可能性があることとなります。
このようにすることで、未成年者である相続人については、①死亡保険金の非課税が適用されることはなく、③未成年者控除を優先して利用することができることとなるからです。

※ ただし、障害者控除も、未成年者控除も、扶養義務者が控除を利用することができるときは、さらに考慮しなければならない事項が出てきます。

このように、相続税の額を抑えることだけを考えるのであれば、死亡保険金の受取人については、配偶者や、障害者である相続人、未成年者である相続人には指定しない方が良いこととなります。
もちろん、現実には、相続税の額以外の要素、たとえば将来の生活保障等も考慮して、死亡保険金の受取人を決定することとなりますので、上記の考え方は絶対的なものではありませんが、相続税の額を抑えるという観点からは、上記のような工夫を行うことも考えられることとなります。
三重県でお受けしている案件でも、特に生前対策の案件については、このようなアドバイスをさせていただくことが多いです。

相続税の非課税、控除の制度①

相続税には、いくつかの非課税、控除の制度があります。
非課税、控除の制度の中で代表的なものは、以下のとおりです(以下には性質が異なるものが混在していますが、あえて列挙したいと思います)。

① 小規模宅地等の特例、死亡保険金の非課税、死亡退職金の非課税
② 暦年贈与分の贈与税額控除
③ 配偶者の税額軽減
④ 未成年者の税額控除
⑤ 障害者の税額控除
⑥ 相次相続控除
⑦ 外国税額控除
⑧ 相続時精算課税分の贈与税額控除
⑨ 農地の納税猶予

上記の非課税、控除の制度を有効活用すれば、相続税の額を合理的に減額することができます。
非課税、控除の制度の中には、申告書に一定の記載を行うことにより、制度を利用したものと扱ってもらえるものもあります。
生前対策や申告書作成の際には、非課税、控除の制度をきちんと利用することにより、税額を合理的に減額することができるかどうかが、力の見せどころになってくると言えます。

個別の制度についての具体的な説明はここではおくとして、ここでは、非課税、控除の制度には、適用の順番があるという話を行いたいと思います。
上記の①から⑧は、適用の順番を意識して割り振っています。
たとえば、⑥相次相続控除は、⑤障害者の税額控除を適用したあとに、適用がなされます。逆の順番で適用がなされることはありません。
ちなみに、申告書の第1表の配置も、上から順に、①から⑧まで並んだ形になっています(ただし、①については、最上段の課税価格の計算に関するものですので、独立した項目は設けられてきません)。

このような話を行うと、どちらにせよ税額が軽減されるのであれば、適用の順番に何か意味があるのかと思われるかもしれません。
しかし、実際には、きちんと適用の順番を意識して、生前対策や遺産分割、申告書作成を行わなければ、相続税の減額幅が小さくなってしまい、税負担が重くなってしまうということが起こり得るのです。

ポイントとなるのは、以下の点です。

・特定の人にしか使えない非課税、控除の制度は、複数の人が使える非課税、控除の制度よりも、優先して利用した方が有利である。
・今回の相続にしか使えない非課税、控除の制度は、次の相続でも使える非課税、控除の制度よりも、優先して利用した方が有利である。

特定の人しか使えない非課税、控除の制度との関係で言えば、特定の人しか使えない非課税、控除の制度を優先して利用することにより、複数の人が利用できる非課税、控除の制度については、他の相続人のために利用するという選択肢をとることができる可能性があります。

具体例を示すと、以下のとおりです。

相続人Aに課税される相続税(減額前) 400万円
相続人Bに課税される相続税(減額前) 400万円
非課税制度アによる減額 AまたはBの相続税を500万円減額(各自の税額に対し按分適用)
非課税制度イによる減額 Aの相続税を300万円減額

非課税制度アが先に適用される場合
アを適用したあとの税額 Aが150万円、Bが150万円
イを適用したあとの税額 Aが0円、Bが150万円

非課税制度イが先に適用される場合
イを適用したあとの税額 Aが100万円、Bが400万円
アを適用したあとの税額 Aが0円、Bが0円

上記のとおり、特定の人であるAしか使えない非課税制度イを先に利用することにより、複数の人が利用できる非課税制度アを、他の相続人であるBの側で有効活用している状態を作ることができています。

適用の順番を意識しなくても、結果論として相続税額が変わらないケースもありますが、適用の順番を意識しなかったがために、相続税額が大きく変わってくるケースもあります。
税理士にとっても、適用の順番を意識し、生前対策や遺産分割の場面で適切なアドバイスができるかどうかが勝負となってきます。
三重県でお受けした案件でも、このような事例は何度か経験しています。
次回からは、具体的に、適用の順番に気をつけるべきものを説明したいと思います。

相続時精算課税制度についての改正③

相続時精算課税制度の改正ルールは、いわゆる生前の相続税対策の場面で利用を検討することが多いと思います。
他方で、今回、法改正がなされ、年110万円が課税対象から外されることになったことに伴い、相続税申告の場面でも、この制度を活用すべきかどうか、検討すべき場面が出てきたように思います。

相続時精算課税を利用していなかった方が亡くなられた場合、相続財産やみなし相続財産(死亡保険金、死亡退職金等)だけでなく、過去7年間に相続人等に対して贈与された財産も、相続税の課税対象になります。
※ ただし、令和5年12月31日以前になされた贈与については、過去3年間に贈与されて財産が課税対象になります。過去7年間に相続人に対して贈与されて財産については、(早い段階でなされた贈与については特別控除を適用することができるものの、)相続税の課税対象になってしまうということについては、注意する必要があります。

それでは、相続時精算課税選択を利用していない状況下で、ある人が贈与を行ったものの、その年に亡くなられた場合を考えたいと思います。
この場合、相続時精算課税制度を利用しないまま、相続税の申告を行うと、亡くなった年に贈与された財産についても、相続税が課税されることとなってしまいます。

ところで、前回まとめたとおり、相続時精算課税選択届は、被相続人が亡くなったあとでも提出することができます。
被相続人が亡くなったあとでも選択届を提出すれば、その年の贈与については、1人当たり110万円までは相続税が課税されないこととなります。
このため、被相続人が亡くなったあとでも選択届を提出すれば、相続税を軽減することができることとなるのです。

このように、相続税申告の段階でも、相続時精算課税を利用していない場合は、今からでも相続時精算課税選択届を提出すれば、110万円については相続税の課税対象から外すことができるのではないかということを検討するのが合理的であると言うことができます。
三重県でも、このような理由から、相続税申告書とともに相続時精算課税選択届を提出した案件が何件かあります。
ただ、前回まとめたとおり、この場合は、相続時精算課税選択届の提出先、提出時期、提出方法に気をつける必要があります。
間違った仕方で相続時精算課税選択届を提出してしまうと、最悪の場合、相続時精算課税制度を利用していないものと扱われ、追加で相続税を納付しなければならなくなる可能性もありますので、注意が必要です。

相続時精算課税制度についての改正➁

相続時精算課税制度を利用した場合には、あらかじめ、相続時精算課税選択届出を行う必要があります。
この相続時精算課税選択届出については、提出の期限が存在します。
過去に受けた贈与について、期限までに相続時精算課税選択届出を提出していなかったのに、あとから相続時精算課税制度を遡って利用することは、できないこととなっています。

それでは、相続時精算課税選択届出の提出期限は、いつまでになっているのでしょうか?
贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までが、相続時精算課税選択届出の提出期間となっています。
このため、贈与を受けた年の翌年の3月15日までが、相続時精算課税選択届出の提出期限になります。
期限までに、贈与を受けた人の住所を管轄する税務署に相続時精算課税選択届出を提出する必要があります。
三重県ですと、贈与を受けた人が松阪在住でしたら、松阪税務署に相続時精算課税選択届出を提出することとなります。

それでは、贈与を受けた年のうちに、被相続人が亡くなった場合は、どうなるのでしょうか?
被相続人が存命でしたら、贈与の翌年の2月1日から3月15日までに相続時精算課税選択届を提出することができたはずですが、その前に被相続人が亡くなっているため、相続時精算課税選択届を提出しないまま、相続が発生していることとなります。
このような場合については、相続時精算課税制度を利用することができなくなってしまうのでしょうか?

このような場合であっても、被相続人が亡くなったあとに相続人の側で相続時精算課税選択届を提出することにより、相続時精算課税制度を利用することができることとなっています。
ただ、色々なルールを守って選択届を提出する必要が出てきます。

まず、相続時精算課税選択届の提出期限について、本来の提出期限よりも先に相続税の申告期限が到来するときは、相続税の申告期限が選択届の提出期限になります。
相続税の申告期限は、基本的には、被相続人か亡くなってから10か月後です。
たとえば、被相続人から2月に贈与を受け、3月15日に被相続人が亡くなった場合を考えたいと思います。
相続時精算課税選択届の本来の提出期限は、贈与の翌年の3月15日であったはずです。
しかし、相続税の申告期限が翌年の1月15日になり、翌年の3月15日よりも前に相続税の申告期限が到来することとなります。
このため、相続時精算課税選択届の提出期限は、翌年の1月15日までに短縮されることとなります。
この場合も、翌年の3月15日が相続時精算課税選択届の提出期限になると勘違いし、これを提出せずに翌年の1月15日が経過してしまうと、もはや、相続時精算課税制度を利用することができないこととなってしまいます。

次に、先述の理由から、相続税の申告期限が相続時精算課税選択届の提出期限になるときは、相続税申告の際、相続税の申告書に相続時精算課税選択届を添付しなければならないこととされています。

また、相続時精算課税選択届の提出先の税務署は、被相続人の住所地を管轄する税務署になります。
先述のとおり、通常ですと、贈与を受けた人の住所地を管轄する税務署が提出先になりますが、被相続人が亡くなったあとに選択届を提出する場合は、被相続人の住所地を管轄する税務署に提出先が変わってしまいます。

このように、被相続人の生前に相続時精算課税選択届が提出されていなかったときは、色々なルールを守って書類を提出する必要が出てきますので、注意が必要です。

相続時精算課税制度についての改正①

今年(令和6年)1月1日から、相続時精算課税制度の改正がなされることとなりました。

相続時精算課税制度は、60歳以上の父母が18歳以上の子に対して贈与する場合、60歳以上の祖父母が18歳以上の孫に対して贈与する場合に、利用することができる制度です。
従来の相続時精算課税制度は、相続時精算課税選択届出書を提出することにより、相続時精算課税選択届出書を提出した年度以降は、累計2500万円まで、贈与税が非課税になる制度でした。
他方で、従来の相続時精算課税制度では、相続時精算課税選択届出書を提出した年度以降になされた贈与については、全額が相続税の課税対象とされてしまいました。
従来は、提出した年度までは何年でも遡って、全額が相続税の課税対象となってしまっていましたので、メリットが小さく、相続税の負担がむしろ増加してしまうこともある制度であると考えられていました。

この相続時精算課税制度が、改正により、大きくルールが変わることとなりました。
最も大きいと考えられる変更点は、相続時精算課税選択届出書を提出した年度以降は、年間110万円まで、基礎控除の枠が設定されることとなり、非課税とされたことです。
相続時精算課税制度を利用すれば、年間110万円までは、贈与税も相続税も課税されないこととなるのです。
また、年間110万円の基礎控除の非課税だけを利用したいと場合は、相続時精算課税選択届出書を提出する必要はありますが、その後の贈与税の申告は不要となりましたので、手続の負担もかなり少ないと言うことができます。

この改正ルールについては、今後、いわゆる生前の相続税対策で広く有効活用することができると考えられます。
相続時精算課税選択届出書を提出することにより、毎年110万円の非課税枠が設定され、資産課税の負担なく、少しずつ、相続税の課税対象となる財産を減らすことができるからです。
このため、今後は、いわゆる生前の相続税対策で、相続時精算課税制度が利用される場面が増えてくるのではないかと思います。
三重県の案件でも、このような改正ルールについてのご相談を受けることが増えてきているように思います。
とはいえ、まだまだ知らない方も多いと感じられるところではありますので、詳しいことをお知りになりたい場合は、お近くの専門家にご相談いただけましたらと思います。

投資信託の評価方法(上場投資信託ではない投資信託の場合)

遺産分割や相続税申告の場面では、投資信託の評価額を算定すべき場合があります。

弁護士として活動する場合も、税理士として活動する場合も、投資信託の評価を行うべき場面は、しばしばあります。

前提として、投資信託にはどのような種類があるのでしょうか?

投資信託は、大別すると、上場投資信託と上場投資信託ではない投資信託に分かれます。

上場投資信託は、上場している株式と同様、取引日にはリアルタイムで値動きし、売買が行われます。

これに対し、上場投資信託ではない投資信託は、リアルタイムで値動きすることはなく、取引日の決まった時間に基準価額が明らかにされるだけとなっています。

上場投資信託ではない投資信託の売買は、この基準価額に基づいて行われます。

大多数の投資信託は、上場されていませんので、後者に該当します。

上場投資信託ではない投資信託の評価方法は,以下の計算式によって評価されます。

被相続人が亡くなった日の基準価額-亡くなられた日に解約した場合の源泉所得税等-信託財産留保額、解約手数料

上記の計算を行うためには、まずは、投資信託の基準価額を調べる必要があります。

たとえば、投信総合検索ライブラリーのホームページ(https://toushin-lib.fwg.ne.jp/FdsWeb/FDST000000)で該当する銘柄を検索すると、基準価額を調べることができます。

このホームページの、「基準価額及び純資産総額の推移」の表により、被相続人が亡くなった日の基準価額を確認することができます。

基準価額は、1万口当たりの金額が記載されています。

たとえば、投資信託の口数が323万6589口であり、基準価額が1万0392円になっていた場合は、1万0392円×323万6589口/1万口=336万3463円であるとの計算を行うこととなります。

なお、被相続人が亡くなった日が土日祝日の場合は、被相続人が亡くなった日よりも前の、最も近い取引日の基準価額を用います。

後の日の基準価額ではなく、必ず、被相続人が亡くなった日よりも前の基準価額を用います。

次に、被相続人が亡くなられた日に解約した場合の源泉所得税等を計算します。

源泉所得税等は、被相続人が亡くなった日の基準価額と、取得価額との差額に、20.315%を乗じることで計算できます(厳密には、15.315%(所得税率)を乗じて切り捨てした額と、5%(住民税率)を乗じて切り捨てした額の合計を計算します)。

取得価額については、証券会社が発行する取引報告書に記載されていることもありますが、証券会社に確認する必要があることも多いです。

最後に、信託財産留保額、解約手数料を計算します。

たとえば、先述の投信総合検索ライブラリーのホームページの、「目論見書」に、信託財産留保額、解約手数料の計算方法が記載されています。

以上の計算結果に基づき、基準価額から、源泉所得税等と信託財産留保額、解約手数料を差し引くことにより、上場投資信託ではない投資信託の評価額を算定することができます。

給与所得者が亡くなられたときに支給される金銭と相続税

1 相続税の課税対象になるかどうかについて、個別の検討が必要
給与所得者が亡くなったときには、会社や雇用主から様々な金銭が支給されます。
例としては、未支給の給与、死亡退職金、弔慰金、花輪代、葬祭料等があります。
未支給の給与は、生前の勤務期間について支払われるはずだった給与です。
死亡退職金は、本来、退職の際に支払われるはずだった退職金を、死亡を理由として支払うものになります。
弔慰金は、遺族を慰謝するために支払われる金銭であり、花輪代、葬祭料は、葬儀費用等を填補するために支払われる金銭です。

このように、それぞれの金銭が支払われる目的は異なっており、支給がなされるかどうかもそれぞれで判断されます。
死亡退職金、弔慰金、花輪代、葬祭料等は、会社や雇用主が定める規程に従って支給されます。

これらの金銭については、相続税の課税対象になるものもあれば、課税対象にならないものもあり、個別の検討が必要になってきます。

2 未支給の給与
未支給の給与は、本来、亡くなった人が受け取るべきだったものになりますので、相続財産になります。
このため、通常の相続財産と同様、相続税の課税対象になります。

3 死亡退職金
死亡退職金は、亡くなった人に対して支払われるものを代わりに相続人が支払を受けるものではなく、遺族個人に対して支払われるものです。
このため、本来の相続財産ではありません。
しかし、相続の発生により支払われる金銭ではありますので、みなし相続財産として,相続税の課税対象とされています。

死亡退職金については、会社や雇用主から支給されることが多いですが、信託銀行から入金されることもあります。
これは、死亡退職金について、信託銀行に運用委託していることがあるためです。

死亡退職金については,非課税限度額が存在しており、非課税限度額を超える部分に限り、相続税が課税されます。
非課税限度額は、以下のとおりです。

500万円×法定相続人数

法定相続人数については、基礎控除額と同じ考え方を用いることとなっています。
したがって、相続放棄をした相続人がいたとしても、相続放棄がなかったものとして、法定相続人数を計算します。
また、養子がいる場合には、算入できる養子の人数は、他に実子がいないときは2名まで、他に実子がいるときは1名までに限定されます。

4 弔慰金、花輪代、葬祭料
弔慰金、花輪代、葬祭料については、一定の金額を超える場合には、死亡退職金とみなされ、死亡退職金に合算して、みなし相続財産として課税されることとなります。

弔慰金、花輪代、葬祭料が死亡退職金とみなされるのは、以下の金額を超える部分です。

・ 業務上の死亡の場合→3年分の普通給与
・ 業務上の死亡でない場合→半年分の普通給与

上記の金額を超え、死亡退職金とみなされた場合には、さらに、先に説明した500万円×法定相続人数を超える金額に限って,相続税が課税されます。

5 共済組合から支払われる弔慰金、埋葬料
亡くなられた方が国家公務員、地方公務員、学校の先生であった場合、共済組合から、弔慰金、埋葬料といった金銭が支給されることがあります。
具体的には,以下のとおりです。
・ 国家公務員共済組合法に規定する弔慰金、埋葬料
・ 地方公務員等共済組合法に規定する弔慰金、埋葬料
・ 私立学校教職員共済法に規定する弔慰金、埋葬料

共済組合から支給される弔慰金、埋葬料については、相続税は課税されません。

詳しくは相続に詳しい弁護士・税理士にお尋ねください。