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先行する相続について未分割遺産がある場合,その不動産に相続税は課税されるのでしょうか?―最終的な相続人が1人の場合

今回は、次のような事例を紹介したいと思います。

事例
家族関係は、父A、母B、子C
父Aが亡くなったが、父A名義の不動産が遺産分割されず、そのままになっていました。
その後、母Bが亡くなり、母Bについて相続税の申告を行う必要が生じました。
この場合、父A名義の不動産は、母Bについての相続税の課税対象となるのでしょうか?

最終的な相続人が複数である場合は、先行する相続の未分割遺産である父A名義の不動産について、遺産分割協議を行えば、母Bの相続税の課税対象から外すことができます。
ところが、今回の事例のように、最終的な相続人が1人の場合、次の問題が発生します。
父Aの相続人は、母Bが存命の間は母Bと子Cの2人でしたが、母Bが亡くなった後は、子Cの1人のみとなります。
そして、遺産分割協議は、複数の相続人で行うものになりますので、子C1人だけでは、遺産分割協議を行うことはできません。
このように、遺産分割協議を行うことができない以上、父A名義の不動産については、初めから、子Cが所有していたものと扱うことはできません。
以上から、母Bの相続税申告では、父A名義の不動産の相続分2分の1を、相続税の課税対象としなければならないこととなります。

このように、最終的な相続人が1人である場合には、先行する相続についての未分割遺産を、相続税の課税対象から外す手段はないということになります。
最終的な相続人が1人であるか複数であるかによって、相続税の課税対象が変わってしまうことは、不合理に感じるところではありますが、申告実務は、このような考え方を用いています。
過去に、この点が不合理であると主張して、税務訴訟を提起した弁護士もいましたが、裁判所は、このような主張を受け入れませんでした。

このような事態を避けるためには、母Bが存命であったうちに、母Bと子Cとで父Aの遺産分割協議を行い、子Cが父A名義の不動産を取得するとの遺産分割協議を成立させておいて方が良かったということになります。
このような遺産分割協議が成立すれば、父A名義の不動産は存在しなくなりますので、母Bの相続税の課税対象になることも避けられることとなります。
そして、このような遺産分割協議が成立した場合は、これを公的に明らかにするため、遅滞なく相続登記も行った方が良いでしょう。

先行する相続について未分割遺産がある場合,その不動産に相続税は課税されるのでしょうか?―最終的な相続人が複数の場合

先行する相続について遺産分割が完了せず、未分割遺産がそのままになっている状況で、次の相続が発生してしまったという事例は、時々発生します。
具体的には、次のような例が考えられます。

事例1
家族関係は、父A、母B、子C、子D
父Aが亡くなったが、父A名義の不動産が遺産分割されず、そのままになっていました。
その後、母Bが亡くなり、母Bについて相続税の申告を行う必要が生じました。
この場合、父A名義の不動産は、母Bについての相続税の課税対象となるのでしょうか?

事例2
家族関係は、祖父E、伯父F、父G、子H、子I
祖父Eが亡くなったが、祖父E名義の不動産を遺産分割されず、そのままになっていました。
その後、父Gが亡くなり、父Gについて相続税の申告を行う必要が生じました。
この場合、祖父E名義の不動産は、父Gについての相続税の課税対象となるのでしょうか?

結論としては、いずれの場合も、未分割遺産は,相続税の課税対象となります。
事例1ですと、母Bは、父A名義の不動産について、2分の1の相続分をもっていますので、父A名義の不動産の2分の1を、母Bの財産に含めて相続税申告を行う必要があります。
事例2ですと、父Gは、祖父E名義の不動産について、2分の1の相続分をもっていますので、祖父E名義の不動産の2分の1を、父Gの財産に含めて相続税申告を行う必要があります。

もっとも、未分割遺産について遺産分割協議を行うことが可能である場合は、上記の事態を避けることができます。
遺産分割協議が成立した場合、遺産分割がなされた財産は、初めから、その財産を取得した相続人が所有していたものと扱われます。
事例1の場合、父A名義の不動産について、子Cと子Dが遺産分割協議を行い、父Aから子Cが不動産を取得したものと合意することができれば、父A名義の不動産は、初めから、子Cが所有していたものと扱われます。
このため、母Bは、初めから、父A名義の不動産について、相続分を持っていなかったこととなります。
その結果、父A名義の不動産は、母Bの相続税の課税対象から外れることとなります。
事例2の場合、祖父E名義の不動産について、伯父Fと子Hと子Iが遺産分割協議を行い、祖父Eから伯父Fが不動産を取得したものと合意することができれば、祖父E名義の不動産は、初めから、伯父Fが所有していたものと扱われます。
このため、父Gは、初めから、祖父E名義の不動産について、相続分を持っていなかったこととなります。
その結果、祖父E名義の不動産は、父Gの相続税の課税対象から外れることとなります。

このように、先行する相続について未分割遺産がある場合は、未分割遺産について遺産分割協議を行い、相続税の課税対象から外すことを検討できる場合があります。
もっとも、申告期限までに未分割遺産についての遺産分割協議が成立しない場合には、未分割遺産を相続税の課税対象に含めて申告を行う必要があります。
したがって、未分割遺産を相続税の課税対象から外すことができる場合には、早めに未分割遺産についての遺産分割協議を試みた方が良いでしょう。

それでは、申告期限までに未分割遺産についての遺産分割協議を行うことが困難である場合は、どうすれば良いのでしょうか?
この場合は、一旦は、未分割遺産を相続税の課税対象に含めて相続税申告を行う必要がありますが、申告期限後に未分割遺産についての遺産分割協議が成立すれば、事後的に未分割遺産が相続税の課税対象から外れることとなりますので、更正の請求により相続税の還付を受けることができます。
ただし、更正の請求の期限は、未分割遺産についての遺産分割協議が成立してから4か月以内ですので、期限内に忘れずに手続を行う必要があります。
弁護士が遺産分割協議を行っている場合でも、遺産分割が成立した時点で、4か月以内に税理士に連絡を取り、更正の請求を行う手筈を整える必要がありますので、注意が必要です。

権利落ちと上場株式の相続税評価

1 上場株式の相続税評価の方法

上場株式については、以下の4つの金額のうち、最も低い金額が評価額となり、相続税が課税されることとなります。

・ 被相続人が亡くなった日の終値  
・ 被相続人が亡くなった月の終値の平均  
・ 被相続人が亡くなった前月の終値の平均  
・ 被相続人が亡くなった前々月の終値の平均

このように、相続税の申告書に記載された株式の評価額は、相続時点の株価とも異なるものです。

相続の案件では、弁護士が相続税の申告書を精査すべきことがしばしばありますが、記載された評価額がいわゆる時価と異なることがあることについては、注意する必要があります。

2 権利落ちがある場合の例外

以上の原則に対して、権利落ちがあった場合には、権利落ちよりも前の取引日の終値をもって、被相続人が亡くなった日の終値とします。

そもそも、権利落ちとは何なのでしょうか?

株式を保有していると、新株の割当や配当等、一定の利益を得られることがあります。

このような新株の割当や配当は、権利確定日に株式を保有している人に対してなされます。

配当に関しては、多くの場合、3月、6月、9月、12月の最後の平日に株式を保有している人に対してなされます(一般には、3月、9月の最後の平日を基準として配当を行う会社が多いでしょう)。

しかし、実際には、権利確定日の当日に株式を取得したとしても、新株の割当や配当を受けることはできません。

株式を取得してから株主名簿に株主として名前が記載されるまで、現在でも、2営業日の日数を要するからです。

このため、新株の割当や配当を受けるには、権利確定日の2営業日前(これを権利付最終日といいます)までに株式を取得する必要があります。

そうすると、権利確定日の1営業日前に株式を取得した場合と、権利確定日の当日に株式を取得した場合には、権利確定日までに株式を取得したにもかかわらず、株主名簿に株主として記載されていないという手続上の理由から、新株の割当や配当を受けることができないこととなります。

このような事情から、理論上は、権利確定日の1営業日前(これを権利落ち日といいます)と権利確定日の当日には、株価が本来よりも低い金額で値動きするといわれています。

このように、株主名簿に株主として記載されていないという手続上の理由により、新株の割当や配当を受ける権利が消滅することを権利落ちといいます。

このような事情から、被相続人が亡くなったのが権利確定日の1営業日前(権利落ち日)または権利確定日の当日である場合は、本来の株価で評価を行うため、権利確定日の2営業前の終値をもって、被相続人が亡くなった日の終値とします。

配当に関しては、被相続人が亡くなったのが、3月、6月、9月、12月の最後の平日、最後から2番目の平日である場合に、権利落ちの問題が生じ、権利確定日の2営業日前の終値で評価しなければならなくなる可能性があります。

※ もちろん、業績不振等の理由により実際に配当がなされていなければ、権利落ちの問題が生じることはありません。

生命保険と相続税対策―④孫が生命保険金の受取人になる場合

1 子(孫の親)が亡くなっている場合は,相続税の減額効果が生じる
現実には,孫の学資等に充てることを想定して,孫を生命保険金の受取人に指定することは,時々あります。
孫が生命保険金の受取人となった場合は,相続税の負担はどうなるのでしょうか?

被相続人が亡くなる以前に子(孫の親)が亡くなっていた場合は,孫は代襲相続人として法定相続人の地位を得ることとなります。
この場合には,子が生命保険金の受取人となった場合と同じ状態になります。
つまり,①相続税の課税価格が減額されることにより,相続税の総額が減額されることに加えて,②生命保険金の受取人である孫が取得した財産額についても,生命保険金の非課税限度額を引き算することができますので,相続税は大きく減額されることとなります。

孫が相続放棄を行った場合に,生命保険金の非課税限度額が利用できなくなることについても,子の場合と同様です。

なお,孫が代襲相続人になる場合には,相続税の2割加算の対象にはなりません。

2 子(孫の親)が存命であれば,かえって相続税の負担が増える
他方,被相続人が亡くなった時点で子(孫の親)が存命である場合については,要注意です。

この場合には,孫は法定相続人には当たらないこととなりますので,生命保険金の非課税限度額を用いることはできません。

その上,この場合には,孫は代襲相続人にはならないこととなりますので,相続税の2割加算の対象となり,孫が受け取った生命保険金に課税される相続税が20%増額されることとなります。

結局,子(孫の親)が存命のうちに,孫が生命保険金の受取人となる場合には,生命保険契約を組まなかった場合と比較して,孫に課税される相続税が20%増額されることとなり,かえって,相続税の負担が増えることとなります。

付け加えますと,孫が被相続人の養子縁組を行えば,孫は法定相続人の地位を得ることとなりますので,生命保険金の非課税限度額を利用することができるようになります。
ただし,孫養子については,相続税の2割加算の対象となりますので,その分,相続税の減額効果は打ち消されることとなります。

このように,孫を生命保険金の受取人とするかどうかについては,相続税の税額への増額方向の影響を慎重に検討する必要があります。
このため,松阪の案件でも,孫を生命保険金の受取人とすることを助言させていただくことは,かなり限定されています。

生命保険と相続税対策―③子が生命保険金の受取人になる場合

1 生命保険金の非課税限度額を効果的に利用することができる
子が受取人になった場合は,生命保険金の非課税限度額を利用することができます。
この結果,相続税の課税価格が減額されることとなり,相続税の総額も減額されることとなります。

加えて,生命保険金の受取人である子が取得した財産額についても,生命保険金の非課税限度額を引き算することができますので,大きな相続税の減額効果が生じることとなります。

このため,相続税の減額効果を大きくしたければ,基本的には,生命保険金の受取人を子に指定するのが効果的であることが分かります。

もっとも,先述しましたとおり,配偶者が生命保険金を受け取る場合であっても,配偶者が法定相続分相当額以上の財産を取得した場合等,配偶者の税額軽減を用いたとしても,配偶者が取得した財産に相続税が課税されるような場合は,子が生命保険金の受取人となる場合と同様の減額効果が生じることとなります。
以上から,非課税限度額を効果的に利用するためには,遺産総額がいくらであるか,どのように遺産分けを行うかといったことも考慮した上で,生命保険金の受取人を誰にするかを決める必要があることが分かります。

2 相続放棄を行うと,非課税限度額を用いることができなくなる
以上については,注意しなければならないことがあります。
それは,生命保険金の非課税限度額は,法定相続人が受け取った生命保険金についてのみ,設定されるものであるということです。
このため,相続放棄を行った場合には,法定相続人の地位を失うこととなりますので,生命保険金の非課税限度額を用いることができなくなってしまいます。

たとえば,生命保険金を除くと,相続債務の額が相続財産の額を上回っているような場合については,相続放棄を行い,生命保険金のみを受け取ることとすることを検討することがあるかもしれません。
先述のとおり,相続放棄を行うと,生命保険金の非課税限度額を利用することができなくなり,相続税の負担が大きくなってしまいます。
このような場合には,相続債務の額と相続財産の額の比較だけでなく,相続税の負担の増加も考慮に入れて,相続放棄を行うかどうかを検討すべきでしょう。

弁護士としてご相談をお受けする場合は,生命保険金は基本的に相続では考慮されないとの回答のみになってしまうことが多いですが,相続税の課税上は,税負担がどうなるかに大きく影響してきますので,時間をかけて説明をさせていただく場合が多いです。

生命保険と相続税対策―②配偶者が生命保険金の受取人になる場合

1 生命保険金の非課税限度額を利用することができる
配偶者が受取人になった場合は,生命保険金の非課税限度額を利用することができます。
この結果,相続税の課税価格が減額されることとなり,相続税の総額も減額されることとなります。

2 配偶者の税額軽減も利用することができる
もっとも,配偶者が取得した財産については,配偶者の税額軽減という別の制度が設けられており,相続税が大きく減額されることとなっています。
配偶者の税額軽減とは,配偶者が取得した遺産額については,次の金額のどちらか多い金額までは,相続税が課税されないという制度です。
・ 1億6000万円
・ 配偶者の法定相続分相当額

このように,配偶者の税額軽減により,配偶者が取得した財産に相続税が課税されないこととなっている場合には,重ねて,生命保険金の非課税限度額により,配偶者が取得した財産に課税される相続税が減額されるという効果が生じることはありません。
他方,配偶者が法定相続分相当額以上の財産を取得した場合等,配偶者の税額軽減を用いても,配偶者が取得した財産に相続税が課税されることとなる場合は,さらに,生命保険金の非課税限度額を用いることができ,配偶者が取得した財産に課税される相続税をさらに減額することができます。

3 結論
以上から,配偶者が生命保険金の受取人になった場合には,生命保険金の非課税限度額により,以下の影響が生じることとなります。

① 配偶者の税額軽減により,配偶者が取得した財産に相続税が課税されないこととなっている場合
・ 相続税の総額については,減額される。
・ 配偶者が取得した財産については,相続税は減額されない(0円のままである)。
   ⇓
  相続税の総額が減額される結果,反射的に,配偶者以外の人に課税される相続税が減額されるに過ぎない。
  相続税の減額効果は,小さい。

② 配偶者の税額軽減を用いても,配偶者が取得した財産に相続税が課税されることとなる場合
・ 相続税の総額については,減額される。
・ 配偶者が取得した財産についても,相続税が減額される。
   ⇓
  配偶者が取得した財産について,相続税が大きく減額されることとなる。
  さらに,相続税の総額が減額される結果,反射的に,配偶者以外の人に課税される相続税も減額される。

松阪の案件でも,配偶者が生命保険金の受取人となっている場合に,相続税の負担がどうなるのかというご質問をお受けすることがあります。
この点については,上記の説明を行い,相続税の負担が一定程度軽減されるとの回答をさせていただいています。

生命保険と相続税対策―①生命保険金の非課税限度額

1 生命保険は相続税対策に利用できるか?
相続税対策のため,生命保険を利用するという話がなされることがあります。
確かに,生命保険には,相続の際に課税される相続税を減額する効果があります。
もっとも,生命保険契約の内容次第では,このような効果は小さくなることがありますし,逆に,相続税の負担が増えてしまうこともあります。
以下では,これらの点を具体的に説明したいと思います。

2 生命保険金の非課税限度額
そもそも,生命保険には,相続税を減額する効果があると言われているのでしょうか?
生命保険金は,みなし相続財産に該当し,相続税の課税対象になります。
もっとも,生命保険金には,非課税限度額がありますので,全額が相続税の課税対象になるわけではありません。
生命保険金の非課税限度額は,以下のとおりです。

500万円×法定相続人数

たとえば,法定相続人が3人の場合は,1500万円の非課税限度額が設定されることとなります。
このため,預貯金5000万円を,預貯金のまま残しておくと,5000万円全額に対して相続税が課税されるのに対し,生命保険契約を組み,ほぼ同額の生命保険金を受け取れるようにしておくと,5000万円-1500万円=3500万円に対してのみ,相続税が課税されることとなるのです。
このように,生命保険金を利用すると,相続税の課税対象が500万円×法定相続人数だけ減額されることとなるため,相続税の減額の効果が生じることとなるのです。

この生命保険金の非課税限度額は,法定相続人数が増えれば増えるほど,500万円ずつ増額されることとなります。
このため,養子縁組を合わせて活用すると,効果的に生命保険金の非課税限度額を増額し,相続税の負担を減額することができます。
ただし,養子については,生命保険金の非課税限度額の計算上,法定相続人数に算入できる人数が,以下のとおり制限されています。
・ 被相続人に実子がいる場合→養子は1人までしか算入できない
・ 被相続人に実子がいない場合→養子は2人までしか算入できない

もっとも,以上は,生命保険金の非課税限度額の制度をうまく利用することができた場合の話です。
生命保険契約の内容次第では,非課税限度額は利用することができないこともあります。
この点については,場合を分けて説明したいと思います。

松阪の案件でも,生命保険についてのご相談をお受けすることは,しばしばあります。
この点については,場合分けをして整理できるようにしておきたいところです。

配偶者居住権(長期)の評価方法3

平成31年度の税制改正によって,配偶者居住権(長期)の評価方法については,かなりの部分が確定したものと思います。
税制改正の評価方法を用いれば,誰が計算したとしても,同じ計算結果になりますので,実務上の有用性は大きいと思います。

もっとも,平成31年度の税制改正によっても,実務上の取扱いが未確定の部分が残っています。
たとえば,以下の点は,未確定の問題として残っているように思います。

被相続人が亡くなり,相続人が配偶者,子A,子Bの3名である場合を考えたいと思います。
遺産は,被相続人の自宅の土地・建物(配偶者が居住),預貯金であったと仮定します。

このような事例で,子Aが土地・建物の所有権を取得し,配偶者が土地・建物の配偶者居住権(長期)を取得したとします。
相続税が課税される場合には,子Aは居住権が設定された土地・建物を取得したものと扱われ,配偶者は居住権を取得したものと扱われます。

ここで考えたいのは,さらに時が経過し,配偶者が亡くなった場合(二次相続に場合)にどうなるかということです。
配偶者が亡くなると,配偶者居住権(長期)は消滅し,子Aは土地・建物の完全な所有権を取得することとなります。
この点を捉えて,配偶者から子Aに対し,居住権に相当する利益の相続が生じたと扱い,相続税が課税されるかどうかについては,まだ明らかになっていません。

個人的には,配偶者居住権(長期)が二次相続でどのように扱われるかは,弁護士も注意を払わなければならない重要な問題だと思っています。
それは,仮に,二次相続で配偶者から子Aへの居住権に相当する利益の相続があったと扱われないとすると,以下のように,配偶者居住権(長期)を遺留分対策に利用できてしまうと思われるからです。

被相続人は,子Aにできるだけ多くの財産を相続させ,子Bからの遺留分侵害額請求をできる限り阻止したいと考えている。
そこで,被相続人は,配偶者に配偶者居住権(長期)を遺贈し,居住権の設定された土地・建物と預貯金を子Aに相続させるとの遺言を作成した。
また,被相続人の配偶者も,すべての財産を子Aに相続させるとの遺言を作成した。
 → 一次相続では,「(土地・建物-居住権)+預貯金」が子Bの遺留分算定の基礎となる。
 → 二次相続では,居住権は子Bの遺留分算定の基礎とならない。
 ⇒ トータルで見ると,居住権の評価額分については,子Bの遺留分算定の基礎となる財産から除外され,その分,子Bからの遺留分侵害額請求を阻止することができる。

このように,今回の改正は,遺留分侵害額請求にも影響を及ぼしかねないものだと思いますので,今後の税制改正も含め,今後の取扱いの変化を注視していく必要があるものと思います。

配偶者居住権(長期)の評価方法2

今回は,被相続人名義の建物に配偶者が居住しており,建物の底地も被相続人名義になっている事例を念頭に置いて,平成31年度税制改正の評価方法を紹介したいと思います。

最初に,居住権が設定された建物とその底地の評価方法は,以下のとおりとされています(居住権自体の評価方法よりも先に,居住権が設定された建物とその底地の評価方法を把握した方が分かりやすいように思います)。

1 土地
  土地の相続税評価額×存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率(①)
2 建物
  建物の相続税評価額×{(残存耐用年数-居住権の存続年数)/残存耐用年数}×存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率(②)

土地についての考え方は,おおむね以下のとおりだと思います。
居住権が設定された土地を取得すると,その土地の所有権を得ることとなります。このため,計算の出発点は,「土地の相続税評価額」になります。
ただ,居住権が設定されているため,土地を取得した人が実際にその土地を使用することができるのは,居住権の存続年数が経過してからとなります。つまり,居住権が設定された土地を取得した人は,居住権の存続期間が経過した将来,土地の完全な権利を取得することができる地位をもっているに過ぎないということになります。このため,「存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率」を掛け算し,土地の評価額を減じることとなります。

なお,配偶者居住権(長期)の存続期間が終身の場合は,配偶者の平均余命を存続期間とします。

建物についての考え方も,土地についての考え方と共通しています。
ただ,建物については,老朽化しますので,一定期間が過ぎると経済的価値を著しく失うという違いがあります。このため,建物については,耐用年数を踏まえた調整が行われることとなり,「(残存耐用年数-居住権の存続年数)/残存耐用年数」を乗じる計算が行われることとなります。

建物の耐用年数については,減価償却計算で使用する法定耐用年数(住宅用)に1.5を掛け算し,築年数を引き算することにより算定されます。

存続期間が経過する前に耐用年数が経過してしまう場合は(つまり,残存耐用年数-居住権の存続年数がマイナスになる場合),居住権が設定された建物の評価額は0円になります。

次に,居住権の評価方法は,以下のとおりです。

1 土地
  土地の相続税評価額-上記①
2 建物
  建物の相続税評価額-上記②

つまり,居住権が設定された建物の評価額と居住権を足し算すると,建物全体の評価額と同じになるということです。
土地についても同様の考え方になります。

配偶者居住権(長期)は,相続法改正により設けられた新しい権利ですので,過去にベースとなり得る計算方法が存在しない権利です。
このため,遺産分割の事案,遺留分侵害額請求の事案で,居住権の鑑定評価を行う場合にも,平成31年度税制改正の評価方法が参照される可能性は大いにあるものと思います。
この点で,今回の税制改正の内容は,弁護士として担当する案件にも影響を及ぼす可能性があると思います。

配偶者居住権(長期)の評価方法1

平成31年度の税制改正で,相続税申告の際,配偶者居住権(長期)をどのように評価すべきかが明らかにされました。

配偶者居住権(長期)とは,相続法改正により,新たに認められるようになった権利です。
被相続人が配偶者とともに被相続人名義の建物で生活していた場合,被相続人が亡くなると,配偶者が住んでいる建物についても,遺産分割を行わなければならなくなります。
遺産分割の結果,配偶者が建物を取得できるのであれば問題はないのですが,配偶者が建物を取得できない場合には,配偶者は,これまで住んでいた建物から退去を求められる可能性があります。配偶者の今後の生活のことを考えると,このような事態は避けたいところです。
そこで,改正相続法は,新たに配偶者居住権(長期)を設け,配偶者が,終身または一定の期間,これまで住んでいた建物に居住する権利を主張できるようにしました。
配偶者居住権は,遺産分割(協議,調停,審判),遺言による定め(遺贈)により設定することができます。

このような配偶者居住権(長期)が設定された場合,居住権をどのように評価するか,居住権が設定された建物とその底地をどのように評価するかが問題となります。
居住権が設定された建物とその底地を取得した相続人は,配偶者が居住していますので,建物とその底地を自由に使用することができません。
このため,居住権が設定された建物とその底地については,一定程度減価して計算するのが妥当であると考えられます。
居住権自体も,建物の使用権を主張することができる強力な権利ですので,一定の財産的価値があるものとして評価すべきであると考えられます。

配偶者居住権(長期)の評価については,相続税申告の場面だけではなく,遺産分割の場面,遺留分侵害額請求の場面でも問題となり得ます。
かつては,改正相続法の立法担当者が評価方法についての一定の見解を示していましたが,立法担当者の評価方法は,土地の評価額への言及を欠いたものであり,いささか通用力を欠くと思われるものでした。
このため,個人的には,遺産分割の場面,遺留分侵害額請求の場面でも,平成31年度の税制改正の評価方法が参照される場面が多くなるのではないかと思われます。
このように,弁護士として活動するに当たっても,税制改正の内容を把握しておくべき場面はしばしばあります。

具体的な評価方法については,次回紹介したいと思います。