日別アーカイブ: 2019年5月13日

配偶者居住権(長期)の評価方法2

今回は,被相続人名義の建物に配偶者が居住しており,建物の底地も被相続人名義になっている事例を念頭に置いて,平成31年度税制改正の評価方法を紹介したいと思います。

最初に,居住権が設定された建物とその底地の評価方法は,以下のとおりとされています(居住権自体の評価方法よりも先に,居住権が設定された建物とその底地の評価方法を把握した方が分かりやすいように思います)。

1 土地
  土地の相続税評価額×存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率(①)
2 建物
  建物の相続税評価額×{(残存耐用年数-居住権の存続年数)/残存耐用年数}×存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率(②)

土地についての考え方は,おおむね以下のとおりだと思います。
居住権が設定された土地を取得すると,その土地の所有権を得ることとなります。このため,計算の出発点は,「土地の相続税評価額」になります。
ただ,居住権が設定されているため,土地を取得した人が実際にその土地を使用することができるのは,居住権の存続年数が経過してからとなります。つまり,居住権が設定された土地を取得した人は,居住権の存続期間が経過した将来,土地の完全な権利を取得することができる地位をもっているに過ぎないということになります。このため,「存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率」を掛け算し,土地の評価額を減じることとなります。

なお,配偶者居住権(長期)の存続期間が終身の場合は,配偶者の平均余命を存続期間とします。

建物についての考え方も,土地についての考え方と共通しています。
ただ,建物については,老朽化しますので,一定期間が過ぎると経済的価値を著しく失うという違いがあります。このため,建物については,耐用年数を踏まえた調整が行われることとなり,「(残存耐用年数-居住権の存続年数)/残存耐用年数」を乗じる計算が行われることとなります。

建物の耐用年数については,減価償却計算で使用する法定耐用年数(住宅用)に1.5を掛け算し,築年数を引き算することにより算定されます。

存続期間が経過する前に耐用年数が経過してしまう場合は(つまり,残存耐用年数-居住権の存続年数がマイナスになる場合),居住権が設定された建物の評価額は0円になります。

次に,居住権の評価方法は,以下のとおりです。

1 土地
  土地の相続税評価額-上記①
2 建物
  建物の相続税評価額-上記②

つまり,居住権が設定された建物の評価額と居住権を足し算すると,建物全体の評価額と同じになるということです。
土地についても同様の考え方になります。

配偶者居住権(長期)は,相続法改正により設けられた新しい権利ですので,過去にベースとなり得る計算方法が存在しない権利です。
このため,遺産分割の事案,遺留分侵害額請求の事案で,居住権の鑑定評価を行う場合にも,平成31年度税制改正の評価方法が参照される可能性は大いにあるものと思います。
この点で,今回の税制改正の内容は,弁護士として担当する案件にも影響を及ぼす可能性があると思います。