日別アーカイブ: 2019年9月1日

再転相続の場合の相続放棄②

今回も,次のような相続関係を前提としたいと思います。
① Aが死亡し,BがAの相続人となった。
② その後,Bが死亡し,CがBの相続人となった。

次に検討しなければならないのは,①の相続に限って相続放棄を行うことを希望する場合には,いつまでに相続放棄の申述を行わなければならないかということです。

相続放棄については,熟慮期間内に行わなければならないとされており,熟慮期間経過後には,相続放棄が受理されることはありません。
基本的には,熟慮期間は,相続の開始があったことを知った時から3か月以内と定められています。
ただし,再転相続の場合には,民法は,以下のような特別の規定を置いています。

第916条 相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは,前条第1項の期間(熟慮期間)は,その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。

このように,再転相続の場合について,民法は,Cが自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月間,相続放棄が可能であるとの規定を置いていました。

ところが,この民法の規定には,重大な問題があります。
それは,「Cが自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月が,「Cが①の相続の開始があったこと(Aが死亡したこと等)を知った時」から3か月であるのか,「Cが②の相続の開始があったこと(Bが死亡したこと等)を知った時」から3か月であるのかが,条文の書き方からは分からないということです。

この問題について,これまでの通説は,「Cが②の相続があったこと(Bが死亡したこと等)を知った時」から3か月間であるとしていました。
通説は,「Bが死亡したことを知った以上,CはBの遺産についての調査を行うであろう,その過程でCはAの遺産についての情報を得ることもできるであろう,だから,熟慮期間として,Bが死亡してから3か月とするのが妥当である」と考えていたのです。

もっとも,通説の解釈は,Cにとっては酷であることがありました。
AがBと疎遠であり,普段連絡をとることがないような場合を考えてみましょう。
このような場合には,Cが,Bが死亡したことを知り,Bの遺産についての調査を行ったからとしても,必ずしも,Cが,Aの遺産についての情報を得ることが期待できるとは限りません。
事案によっては,BもCも,Aの死亡の事実すら知らないこともあり得ます。
にもかかわらず,CがAの遺産についての情報を得ることを期待するのは,現実的ではありません。

そこで,今回,8月9日付の最高裁の判決は,通説とは異なる立場,つまり,Cが再転相続人になったことを知った時から3か月間,Cは,再転相続の相続放棄を行うことができるとの判断を行いました。
Cは,①の相続があったこと(Aが死亡したこと等)を知ってから3か月が経過するまでは,再転相続の熟慮期間が経過することはなく,再転相続の相続放棄を行うことができるということになります。

このように,今回の最高裁の判決は,これまでの通説とは異なる判断を行ったものであり,重要なものです。
弁護士としては,このような判決が出るに至った背景も含め,理解しておきたいものです。

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